奇妙な論理

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マーティン・ガードナー 著/市場康男 訳
カバーイラスト 七戸 優
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NF
Ⅰ だまされやすさの研究 ISBN4-15-050272-2 \720(税別)
Ⅱ なぜニセ科学に惹かれるのか ISBN4-15-050273-0 \720(税別)

(過剰に)信じる者は…救いがたい

 「トンデモ本の世界」などで紹介され、めでたく再販となったトンデモ疑似科学のおかしさ、あやしさを片っ端からぶった切る痛快本。やり玉に挙がるのは、文明創世にまつわる新説、相対性理論への独自の批判、なんだか良くわからない健康法、医療法、UFOにまつわる流説や珍説、アトランティス、ムー大陸、ピラミッドの秘密、ダイアネティックスにクリエイショニズム………。出版されたのが半世紀前に当たる1952年というものであるにもかかわらず、ここに書かれていることのほとんどの内容は、そのまま件の「と学会」の報告内容として紹介されていても違和感が全然ないのがなんともはや。

 ちょっと落ち着いて考えればおかしな話だとすぐにわかるものごとを、人はなぜこうもたやすく信じ込み、それにしがみついてしまうのか。ここでは特に(『科学』を名乗る分罪が重い)疑似科学に限定しているけれど、たとえば宗教関連やおかしなハウツー物まで含めたら、この手のネタはそれこそ星の数より多い物になりかねないわけで。しかもそれは最近に限ったことじゃあなく、時代ごとにネタを変えて顕在していたものでもあるだろうし。

 Ⅰ巻の解説で山本弘氏が書いておられるように、そこには人間の脳の限界が関係しているのかもしれないな、と思った。なるほど理屈で考えればおかしいかもしれない、でも自分の目はそれを確かに見た、から、自分で見たこれこそが真実であり、今理屈として通っている物が、実は間違っているんだ、と確信するまでの距離ってのは、実は案外短い物なんだ、てことかな。ここに功名心とか射幸心っておまけが加わると、人は思いがけないスピードで暴走をし始めるし、周りにいる、ちょっと油断してた人たちも、たやすくその暴走に巻き込まれてしまうんだろう。スタンピードってやつだな。

 おかしなことを思いつき、それに固執する人間になってしまうことは、もしかしたら避けられないのかもしれないけれど、その暴走に巻き込まれないで済む方法はあるわけで、それはまったく簡単な話なんだけど、"鵜呑みにしないこと"。この、言葉にすれば簡単に見えることがなぜしばしばできないのか? そのへんは本書でガードナーも述べているし、一連の「トンデモ本」シリーズなどでも述べられているとおり。人間は新奇で、口当たりの良さそうな物を見るとついついひきこまれてしまうのだよね。そのとき頼りになるのは、自分がいかに"常識"に裏打ちされた知識を蓄えているか、ってことになるわけで、ガードナーのごとく常に疑いの目で物事に当たるか、「と学会」のごとく常に一度、ものごとを「ネタ」のレベルにおろして吟味してみる心の余裕が必要なんだ、ってことですな。

 「トンデモ」シリーズのように笑うために書かれた本ではないのだけれど、それでもしばしばくすっと笑えてしまうあたり、まともに考えたらおかしいでしょ、ってのを地でいってる本。楽しめました。

03/03/05

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