戦乱の大地

知性化の嵐(2)

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デイヴィッド・ブリン 著/酒井昭伸 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011414-5 \940(税別)
ISBN4-15-011415-3 \940(税別)

飛び立てないギャラクティカの物語

 6種の不法入居種族が住みついた休閑惑星ジージョに突如墜落したヒトの男性とそれを追ってきたかのように現れた宇宙航行主属、ローセンの巨大宇宙船。だが、ジージョを巡る混乱にはさらに拍車がかかる。6種族を圧するかのように空にたたずむローセンの巨艦すら小舟に見えるような、さらに巨大な宇宙船が現れ、ローセン艦の行動の自由を奪い、ジージョの住民たちに隠している物を差し出すように要求してきたのだ。彼らこそ宇宙航行種族の中でも悪名の高い好戦的な種族、ジョファー。ジョファーが要求するものは地球の(あの)宇宙船、"ストリーカー"…。

 てことでようやくこの作品が「スタータイド・ライジング」に直接つながるお話だったことが明らかになるシリーズ第二弾。それにしても"ストリーカー"とはまた懐かしい名前が。17年ぶりの再会であります。可愛いイルカ君たちの俳句三昧も健在でなんだか懐かしい。前のお話、さすがにおおかた忘れちゃっているけど。

 前作でばらまかれたいくつかの謎の正体が明らかになり、いくつかの謎はさらにその不可解さを深め、そして苦闘続きの"ストリーカー"にはさらなる苦難が降りかかる、とまあそういう巻。「変革への序章」よりは多少お話の流れに動きが出てきた感じだけど、それでもやっぱりこの巻もどちらかと言えばじっくりと多彩な登場人物のそれぞれの行動を追っかけていく、密度が濃くて油断のならないお話になってて、まあ読むのに骨が折れること。それゆえこの巻のラストは、お話が大きく動きそうな予感に満ちていてちょっとワクワクしてしまったなあ。ほとんど退屈と言っても良い長い本を読んだあとになんだかワクワクするってのもおかしな話ではあるけれど。

 さて、前巻を読んだときにもちょっと触れた、ブリンの「アメリカンウェイマンセー」の押しつけみたいな部分ってのはやはりちょこちょこと顔を出してきて、あーやっぱりこう来るかー、ってな気分になるのも確かなところ。

 (ヒトは<贖罪の道>をくだるようにはできていない。どれだけ必死にがんばっても、無垢への道をたどれることは絶対にない。
 だからこそ、ヒトはジージョにやってきた。
 ヒトは星々に進出するように運命づけられている。けっしてジージョにいていい種族ではないんだ)

 ある意味SFマインドを高らかに歌い上げるいいフレーズではあるんだけど、こういうのを高らかに謳うのって大概アメリカSFなんだよね。フロンティア・スピリットってんですか。それ自体はとてもいい言葉なんだけど、一方が勝手に"フロンティア"と名付けるその世界にも、実は前々から暮らしを営んでいる者たちがいるって事をアメリカさんはしばしばあんまり気にしないんだよな。そこに一抹の引っかかりを感じてしまうと、ブリンSFっていまいち楽しめなくなっちゃうかも知れない。個人的にそういうあっけらかんとしたオプティミズムは嫌いじゃあないんだけど、そのオプティミズムを推し進める過程で発生する犠牲という物をあまり軽く見ては欲しくないな、とは思いますわな。「尊い犠牲だった、でも最終的にこうなったんだから死んだみんなもきっと幸せだろう」で済ませて欲しくない、って気分はあるのね。ま、なんだかんだいっても秋の夜長に楽しい時間を過ごせる一冊ではあると思うけど。

 最後に、本読みなら思わずうれしくなっちゃうこんな一節を。

 不揮発性で、ランダム・アクセスができて、それでいて、宇宙からは全く探知されないアナログ記録媒体———いかなる電気的・デジタル的捕捉手段を用いても、軌道上から探知することはできないもの。それが紙でできた本なのね。

 そのとーり。どーだまいったか(^o^)

02/10/16

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