弾道衝撃

表紙

クリス・ライアン 著/伏見威蕃 訳
カバー ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040971-4 \860(税別)

 前作、「襲撃待機」のラスト、困難な任務を追え、ようやく愛する息子と新たな恋人の待つ我が家に戻ったSAS軍曹、ジョーディ。だが、やすらぐ場所であるはずの我が家に家族の姿はなく、ただ、何者かに拉致された二人の姿を写した写真が一葉残るのみ。IRAの中でもとりわけ戦闘的な一団、PIRAが、ジョーディの留守を狙って二人を誘拐したのだ。焦るジョーディ。だがそんな彼の焦燥とは別に、最強の特殊コマンド、SASにはジョーディーを必要とするミッションが発生する。さらに家族を拉致したPIRAからは、以前の任務でジョーディ自らが確保に成功したPIRA幹部、ファロンを奪還し、彼とジョーディの家族の交換が要求される。困難な二つのミッションを前に、ジョーディはいかなる対抗策を講じるのか………

 最愛の妻をIRAの爆弾テロで失い、深いトラウマを抱えたSASの腕利き戦闘員、ジョーディ・シャープを主人公にした冒険小説第二弾。一方で誘拐された家族の安否を気遣いつつ、もう一方ではSAS本来の特殊工作にも参加しなければならないと言うジレンマのなかで、心から信頼できる友、同僚と共に困難極まるミッションに赴くジョーディの一人称による、スリリングな戦闘アクション物としてなかなか楽しめる。

 自分自身SASの隊員でもあったライアンさんのこと、指揮官とか指導者じゃない、一人一人のSAS隊員たちの暮らしと実際の作戦での細かなディティールの描写に優れてて、それがこの作品の背景をしっかり支えてて、そういうバックボーンがあるから、逆にかつての恐怖の体験や愛する人を失い、これ以上一人も愛するモノを失いたくないと思うジョーディの心理なんかが鮮やかに浮き出てくるあたりはなかなかなもの。前作ではむしろ個人的な復讐心を前面に押し出してたジョーディが、第二作ではあえてそのあせりのような物を押さえ、プロとしてベストを尽くしていくあたりの、主人公の成長みたいな部分も感じられて楽しめる一冊。もちろんジョーディがそういう風に成長できたかわりに、彼にはさらなる試練が待ち受けていて、これがさらに続く第三作への重要なヒキになってる、ってあたりの構成もうまい。

 本書の原題は"ZERO OPTION"。選択の余地なし、てな意味で、これはなかなか意味深なんですが、前作のタイトルとあわせる事にちょっと気を使いすぎてしまって、却って本書の魅力をちょっぴりスポイルしちゃったような恨みはあるんだけど、総じて楽しめる一作。お買い得っす。

00/12/19

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