自由の地を求めて

表紙

ケン・フォレット 著/矢野浩三郎 訳
カバー装幀 辰巳四郎
カバー写真 amana images
新潮文庫
ISBN4-10-235814-5 \629(税別)
ISBN4-10-235815-5 \667(税別)

 18世紀後半。米英戦争を目前に控えた英国。領主貴族の支配下にあるスコットランドの炭坑で鉱夫として働くひとびと。彼らは不適切な法律によって領主の所有物となり、過酷で劣悪な環境下での労働を強いられていた。鉱夫の一人で反骨心と義侠心にあふれる青年、マックは、自分たちの窮状をロンドンの急進的な弁護士に訴える。弁護士からの手紙は、マックたちが置かれた状況は必ずしも正当な物ではないことを裏づける物だった。勢いづくマックは弁護士の手紙を盾に鉱夫たちの境遇改善を領主一家に直訴する。だがそれはマックにとって、長く過酷な自由を求める戦いの発端となった………。

 ケン・フォレット。そのデビュー作、「針の眼」が地味ながらもサスペンスフルな佳品だったこともあって、その後の作品もなるべく読むようにしてたんですが、残念ながらここまで、ついに「針の眼」を超える作品を読ませてもらえなくて、少々いらつく気分を味あわされどおしだったんですよね。「針の眼」に続く作品、「レベッカへの鍵」、「トリプル」がそこそこマシだった以外で評価できるのは、'97年の「第三双生児」ぐらいで、よく言えば堅実、悪くいえば小粒な作品が続いてて困っちゃうんだよなあ。シチュエーションの作り方はとても上手なのに、その舞台に上がる役者さんたちがどうにも演技力不足というか、そんな感じ。

 本書でもその傾向はあって、産業革命の到来も近い近代イギリスで、旧時代の遺物ともいうべき貴族支配に反発する若者と、支配階級に属してはいるけれど、その支配体制にも疑問を持っているヒロイン、旧時代の支配者である英国貴族と、お約束とはいえ面白くなりそうなキャラは揃ってるし、自由の新天地であるアメリカが今まさに英国の支配から自由になろうとする歴史のうねりみたいな物までも背景に用意しておきながら、やっぱりお話が小粒にまとまっちゃっているような気がする。惜しい。

 なんていうか、器用貧乏とでもいったらいいのかな。そこそこ読ませるんだけど、圧倒的に「いいもん読ましてもろたー」って気になれないのがフォレット作品の特徴のような感じを持っているんですが、本書もそのパターンを忠実になぞるだけの一作。残念ながらどうしても読まなきゃ、ってもんではなし。ヒマツブシにしても少々ボリューム不足。

00/12/12

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