すばらしき友LINGO

表紙

ジム・メニック 著/富永和子 訳
カバーイラスト 小森誠
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040961-7 \940(税別)

 大会社で給与計算プログラムを担当するプログラマ、ブルースター。なんのクリエイティビティもない仕事の合間に趣味で作ったごくごく単純な対話プログラム、"LINGO"を育てるのだけが楽しみの地味な青年だった彼の周りがにわかに騒がしくなっていく。さまざまな機能拡張を施していくうちに、単純な対話プログラムでしかなかったLINGOが、ある日突然飛躍的な進歩を見せ、知性のきらめきさえも見せはじめたのだ。かすかな知性のひらめきを足がかりに、LINGOは着々とその能力を拡大。やがて全米に張り巡らせたコンピュータ・ネットワークのありとあらゆる場所にLINGOは存在し、そのネットワークを自由自在に操れるまでになる、そしてついにLINGOは………

 知能を持ち、人類と同等、あるいはそれ以上の力をもつに至ったコンピュータ・プログラムが、もとはネットのサイトなんかでもよく見かける、言葉を教えていくと覚えた言葉をなるべく適切に返事に使う、ってタイプのありふれた、しかもBASICで(笑)書かれたプログラムをApple用に移植したモノだった、ってあたりがまあ新しいと言えなくもない。が、

 まず本書の罪とはいえないんだけど親本の刊行が1991年。ハードカバーが出たのかどうか知らないんだけど、少なくとも文庫版に限っては、よりにもよって1年ごとに状況が大きく変わるコンピュータをテーマにしたお話としては時間的なギャップあきすぎ。これが震災前だったら(僕はあの震災って、インターネットを世の中に知らしめるうえで決定的な働きをした事件だと思っています)もう少しインパクトあったかもしれない。

 んだけど本書の問題は、じつはそういう情状酌量の余地があるところに本質があるんでなく、そもそもお話が平凡ってところにその多くが帰結しちゃうような気がしますな。550ページにわたる、かなり大部な小説なんですけど、目新しいモノがなんにもなく、お話自体もありきたり。ヒネリもなんにもありゃしない。カバー裏の解説にいわく、コンピュータ・ネットワーク社会を嗤う傑作ブラックコメディ。だそうな。ばかいえー、笑えんぞこれじゃ。語り口が軽快なんで、時間潰しにはなるけどそれだけのもの。無理して読むようなもんではないっすね。

00/12/5

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