希望への疾走

表紙

ジョン・ギルストラップ 著/飯島宏 訳
カバー装画 上原徹
新潮文庫
ISBN4-10-207512-7 \667(税別)
ISBN4-10-207513-5 \667(税別)

 1983年、廃棄された陸軍の兵器保管庫の危険物処理に入った調査チーム一行が、倉庫内の有害物質もろとも爆殺されるという事件が発生した。化学兵器の爆発により、周辺一帯を立ち入り禁止の危険地帯と化す事になるセンセーショナルな大事件の犯人と目されていたのは、当時他のメンバーと倉庫内にあったドノヴァン夫妻。急進的環境保護論者による凶行の容疑者として指名手配された夫妻だが、じつはその容疑は全くの濡れ衣だったのだ。身分を巧妙に隠し、警察の追及を逃れながら自らの潔白を証明しようとする夫妻だったが、全くの偶然から彼らの存在は捜査陣に知られることになってしまう。しかもこの逃避行の間に彼らの間には一人の息子が生まれていたのだ。急追するFBI捜査官たち、そして何も知らない少年というハンデ、自由を獲得するための夫妻の逃避行の行方は、そして彼らに罪を被せた真犯人の正体は?

 一人で逃げてた「逃亡者」、二人で逃げてた「ゲッタウェイ」、ほんで今度は夫婦プラスこぶつきの逃避行ってことで、この、事件のあとに生まれ、自分の両親の秘密を知らないまま、なにかしっくりしないモノを感じつつ成長した少年、って設定がなかなか効いてます。いくら包み隠そうとしたって、自分たちが逃亡者であるって負い目みたいなモノはぬぐい去れないモノなんであって、そのあたりのしこりを敏感に嗅ぎ取った子供はやはりどこか屈折した部分を持ってしまう。でも本当は両親を愛しているし、両親の愛にも飢えている、ってえあたりの描写は泣かせますね。

 その他、彼らを追跡するFBIの女捜査官、アイリーン、彼女の上司、というかFBIの副長官と言うい立場で事件の解決を急かし、さらにそれとはべつの系統で自らの権力闘争にも油断のないピート、ドノヴァン夫人であるキャロリンを陰から支える叔父とその側近、ドノヴァンの元同僚であるニックなど、ワキもしっかり固まっててかなりの読み応え。「ボーン・コレクター」、「静寂の叫び」のジェフリー・ディーヴァーがページを繰るのももどかしいほど面白い小説定義を再構築した、と絶賛したそうですがなるほど、それは言えるかもしれない。言えるかもしれないがオレ的には冒険小説に不可欠な、"主人公がもう立ち直れないんではないかと思われるほどに打ちのめされる"てえ描写に少々甘いモノがあると言えなくもないような気がしないでもなく、そこだけちょっち残念。

 打ちのめされ、どん底の状態から、なけなしのやせ我慢で立ち直る主人公、って図がちょっと稀薄な分、ラストの解放感に、もう一歩突き抜けた感じが足りなかったかなあ、と。いや、些細な文句だし、この一抹の苦さもまたこの作品の魅力なんだろうとは思うんですが。

 などといいつつこれはなかなか読ませる一冊。訳もウィルバー・スミスやJJ・ナンスの作品でいい訳をしてくださる飯島さんだし。いいですよ、お薦め(^o^)。

00/7/10

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