太陽の王と月の妖獣

表紙

ヴォンダ・N・マッキンタイア 著/幹遥子 訳
カバーイラスト 丹野忍
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011298-3 \760(税別)
ISBN4-15-011299-1 \760(税別)

 17世紀末、西欧世界は太陽王ルイ14世の支配するフランスと、教皇インノケンティウス12世によって支配される、ローマ・カトリック勢力によってその大部分が統治されていた。独力で強大な王国をつくりあげた太陽王だったが、ただひとつ彼がまぬがれえないもの、それは、「死」。不死を求めるルイの命を受けた修道士にして自然哲学者のイヴは、不死の生命力をもつといわれる「海の妖獣」の捕獲に成功したのだが………。

 「夢の蛇」のマッキンタイアのネビュラ賞受賞作。うーむ、洋の東西を問わず、ヴェルサイユ、ってコトバに人は豪華絢爛たる王朝ロマンの匂いを嗅いでしまうのかなあ、てなもんで。英国はフランスの半ば属国となり、キリスト教世界とイスラム世界、アフリカの文明、さらには綱吉の治世の日本が国交を結んでいる、という、微妙に時間線の異なる近世ヨーロッパを舞台に、海に生きる別種の生き物と地上人の交流、中世から近世に移りつつある社会にあって、主人公であるイヴの妹、マリー・ジョゼフがいかに「個人」としての自分を確立して行くかを描いた、一種のフェミニズム時間SFという感じの作品といえますか。

 微妙に時間線が異なる世界を緻密に描く、ってことでは、「高い城の男」、「大西洋横断トンネル、万歳!」とか「パヴァーヌ」なんて名作がございましたが、これらの作品では、「なぜ時間線が変わったのか」って部分にもちゃんとした説明があったのですが、本作品ではそういう説明はありません。読んでる内に、「あ、これって違う時間軸の話なのね」ってのが察せられてくる形。あくまで主眼は絢爛たるフランス王朝文化(ブルボン王朝になるんでしたっけ?)とキリスト教文化の(とりわけ女性に対する)頑迷な差別意識と、その中で苦闘する自由な精神を持った一人の女性の(まあこれはこれで)シンデレラ・ストーリィ、ってことになりますか。それかあらぬかこの作品、登場する女性たちがみな魅力的なのに対し、男性の登場人物がみな、どこかに矮小な部分をもったキャラクターとして描かれていますね(^^;)。

 全体として「これもSFなのかなあ」などと思わないでもない(むしろファンタジーに分類されるのでは?著者がマッキンタイアだからSFになっちゃうのかしら)ですが、ま、「あり得ない世界を描く」という一点において、まあSFと分類してもいいかな、と(^^;)。それにしてもアレですね。いい方悪いですけど、女性の方ってやっぱり心のどこかで、物語の主人公に自分を投影し、その主人公に幸福を運んでくれる存在は(観念的であるにせよ)「王子様」でなくっちゃいけない、って意識があるんでしょうかね。微笑ましいような、心中穏やかではいられないような気もしますな、野郎としては(^^;)。

00/2/1

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