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詠坂雄二著「インサート・コイン(ズ)」(光文社)書評(2012年3月8日記載)記載:お茶の町
ネタバレのため、背景色と同一にしています。
以下、「インサート・コイン(ズ)」を読破するまでは見ないでください。
ネタバレであり、秀作と断言できる本作品の最大の感動が失われてしまいます。
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『インサート・コイン(ズ)で最大の伏線が何かわかるか?』
これは、最終章の問い「ドラクエVで最大の伏線が何かわかるか?」をもじっています。
本作品を読んだ人の中にはこの言葉の意味を感じることなく、読み終えている人もいるのではと危惧しています。
この伏線に気がつかないのは非常に”もったいない”ので、解説をします。
本作品では様々な伏線に呼応するように、ルビ位置に「、」をつけることで特定のフレーズを強調しています。
もちろん、各章単独の伏線に対しての強調フレーズも多いのですが、全章通じての最大の伏線に対する強調フレーズもあります。
前置きはこのぐらいにして・・・
最大の伏線とは、ずばり本の題名である「インサート・コイン(ズ)」です。
そして伏線回収は、なんと本文ではなく、最終章(DQV)完結の次ページ(P252)で明示されます。
P252では、各章(1〜5)の「ジャーロ」掲載号数・時期が記載されています。ここを見て初めて最終章の「そしてまわりこまれなかった」が最初に雑誌掲載され、その後に第一章〜第四章が作られたことがわかります。
−−−−−
穴へはキノコをおいかけて (40号(2010 AUTUMN - WINTER)、2010年11月)
残響ばよえ?ん (41号(2011 SPRING)、2011年3月)
俺より強いヤツ (42号(2011 SUMMER)、2011年6月)
インサート・コイン(ズ)(43号(2011 AUTUMN - WINTER)、2011年11月)
そしてまわりこまれなかった (35号(2009 SPRING)、2009年3月)
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すなわち、本の題名である「インサート・コイン(ズ)」(第四章)は雑誌掲載の最後の作品なのです。そして、それこそが最大の伏線で、そして本作品の題名となった理由なのです。
時系列的な章構成に隠された「伏線」の「回収」が最終章後に行われています。
最終章(DQV)P231の強調に「それが伏線であることを回収までに忘れさせれば効果は一緒になる」とあり、その2行後には「可能ならタイトルを伏線とするのがいちばんいい。」とあります。
初読の時には、この「タイトル」は「ドラゴンクエストV」を指しているのですが、同時に「インサート・コイン(ズ)」の伏線でもあったわけです。
ドラクエが、V⇒T⇒Uという伏線が、同時に第5章⇒第1〜4章の伏線にもなっていたわけです。
もちろん、P252に気づかなければ伏線に気づくことなく読み終えることになるのですが・・・
<ちょっと余談:伏線回収のタイミングについて>
我孫子武丸著「殺戮にいたる病」での伏線回収(作品のエピローグの一番最後での単なる新聞記事を装ったどんでん返し)や、鈴木光司「リング」「らせん」「ループ」の作品間での二重のどんでん返しなど、見事な伏線回収のミステリーがありますが、本作品のように最終章や最後のシーンのさらにその後に伏線回収した作品は他にないのではと思います。
<余談終了>
さらに伏線のインパクトが強いものにするのが、「ジャーロ」に掲載されているときには伏線回収せず(できず)、単行本となり、本の題名が「インサート・コイン(ズ)」となって、始めて伏線回収可能となります。
2009年4月から4年弱を経ての伏線回収というところです。
なお、当時(ジャーロ掲載時)のシリーズ名は、「ゲームなんてしてる暇があった」でした。
こうなると、第二章(ぷよぷよ)のリドルストーリーの解説や、最後の「ミズシロの結婚」の心境変化に関しての表現も伏線となっていたと言えます。
もちろん、最終章の記載への直接的な伏線の数々。
<一例>
「犭」のエピソード:最終章(DQV)P248の2行目と第三章(格ゲー)
流川不在のエピソード:最終章(DQV)P222の1行目と第四章(シューティング)
不在の人のメッセージをパソコンで探す:最終章(DQV)P222の最後から2行目と第四章(シューティング)
ダイイングメッセージ:最終章(DQV)の年賀状のメッセージと第四章(シューティング)の「ダイイングメッセージ」
これら以外にも、伏線に関する章間のつながりは数多く見受けられます。
そして、作中では最大の伏線への読者へのメッセージの数々。
第四章(シューティング)P202の最後の3行
−−−−−
となると、読み手もまた、書き手の思惑を超えた読み解き方に挑戦すべきかもしれない。
−いや、
もうやってしまっているのか、俺は。
−−−−−
「書き手の思惑を超えた読み解き方」というのは、第二章(ぷよぷよ)の「リドルストーリー」説明と一致します。
最終章(DQV)P232の伏線に対しての解説および、P232の最後の2行目以降
−−−−−
詠坂に言わせれば、だからこそ、ミステリは多くの伏線の出来不出来で語られるものだという。奇想は孤高で他と比較できないものだが、理論を抱えて機能する伏線ならば客観的に比較ができる。採点を試みることもできるだろうと。
−−−−−
雑誌掲載最後の作品である第四章(シューティング)と、最初の作品である第五章(DQV)、そして四年近くの時を経て名づけられた書名「インサート・コイン(ズ)」の関係を示していると言えます。
以上、インサート・コイン(ズ)最大の伏線への解説です。
最大の伏線について、この作品を紹介してくれた翁に説明すると、「作品の順番、書かれていたのですね」との回答。
「読みで、勝った!」
一瞬、ぷよぷよ大連鎖発火までの駆け引きで読み勝ちしたときのような感覚を持ったのも束の間。
「流川さんがいない表現(P222)に違和感を感じたとき、ネットで各章の発表順を調べましたから」
「とはいえ、ぷよぷよ(第二章)の発表日をぷよぷよニュース用に調べていたということもありますが」
関係ない。サイトに文章を載せた自分も条件は同じだった。
結局、勝利を確信した直後にダブルホーリーで返された感覚・・・
齢70近くの翁に、ぷよぷよ対戦で勝てない事実に通ずる気がしてならない。
<余談1>
第五章(DQV)P250で、「よしおはにげだした」
ひらがなである理由、本当の名前である「よしかず」ではない理由ともに、ドラクエの主人公の名前の制限からの表現となっています。
<余談2>
本の表紙のゲーム筐体の画面は、本の題名との整合を図るべく「Insert Coin(s)」を表示されています。
最初、「よくこんな筐体を探してこれた」と思っていましたが、よく見るとこれは写真ではなく、絵です。
これも一種のメッセージなのかもしれません。
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