夢みる頃を過ぎても

「おとうさま、お年玉、ありがとうございました」娘が言った。
 5年前に家を出た娘が、4つになる初孫の美香を連れて、久しぶ
り帰ってきたのは、12月の30日だった。そして、年の明けた今
日、美香に、わずかばかりの年玉をやったのだ。
「なに、たいして入れてはおらんから、礼にはおよばんよ。そんな
ことより、ちょっと、おまえには苦言を言わねばならんな」
「苦言ですか?なんでしょう?」
「美香も4つともなると、いろんなことがわかる歳だと思うんだ」
「ええ、だから、今日お年玉をもらったときも、すごく喜んで…。
去年までは、まるでお金になんか興味なさそうだったのに」
「そんなことを言ってるんじゃない。夢を純粋に受け入れる年頃だ
と言ってるんだよ」
「え?ええ、そうですが、それがなにか?」
「昨日、一緒に風呂に入ったんだが、友達のところにはサンタさん
が来たのに、私の家にはこなかったって、寂しそうな顔をしていた
よ」
「あ、そのことですか。だって、うちにはサンタクロースがこなか
ったんだから、しょうがないじゃないですか」
「情けない。シングルマザーで忙しいのはわかるが、子供の夢を壊
すようなことは、しちゃいかんよ」
「私にどうしろと言うんですか。悪い子にはサンタさんは来ないっ
て言ったのは、お父さんじゃないですか」
「ばかもの!人のせいにする気か。自分の事を言うのは照れくさい
が、私は、おまえが中学校を卒業するまで、毎年サンタの役をやっ
たもんだ。まあ、さすがに、小学校の高学年になってからは、バレ
ているのを承知で形式的にやっていたにすぎんが、それでも、もし
お前が本当にサンタを信じていたら、その夢を壊すことになると思
ってやめることはできなかったんだ。親たるもの、子供にいつまで
も夢を持ち続けて欲しいと思うのは当然だからな」
「お父さん…」
「何も、泣くことはない。来年からは、ちゃんとサンタをすればい
いことだ」
「サンタクロースって、お父さんだったんですね。なんだか、夢を
壊されたようで、悲しくて…」