アップダウン

「いかん、いかん、遅刻してしまう!」
 俺の、職業はルポ・ライターである。今日は、あるクイズ研究会
を訪ねることになっているのだが、寝坊をしてしまって、約束の時
間まで、あと5分しかない。ほかのところなら、少しぐらい遅れて
も、道が混んでまして、とか適当なことを言えぱ、それですむのだ
が、うわさによると、その研究会の会長が時間にうるさい人で、1
秒でも遅れると取材に応じてくれないのだ。なんでも、『現代は時
間との戦い』が口癖らしい。
 人ごみをかきわけるようにして、俺は走った。そして、ようやく、
その研究会のあるピルについた。
「ふー、あと3分か。なんとか間に合ったな」
 俺は、エレベータに乗り込み、案内表で階を確認して、5のポタ
ンを押した。
「第1間、富士山の高さは何メートル?」突然、スピーカーがクイ
ズをだした。
「3776メートル!」俺は、どうしてここでクイズが出されるの
かわからなかったが、とにかく答えた。
「ピンポーン。正解です」
 スピーカーがそう告げて、エレベータが1階分上昇した。どうや
ら、正解しないと上昇しないようになっているらしい。さすが、ク
イズ研究会である。と、感心している場合ではない。時間がないの
だ。
 しかし、2、3問目と、俺は、たてつづけに正解し、あと1間で
目的の5階というところまできた。こう見えても、ルポ・ライター
だ。かるいもんである。
「4間目からは、相談ができません。第4問、カメルーンの首都は
どこ?」
「???」地理の苦手な俺は、答えられなかった。
「ブーー」スピーカーが鳴り響いて、エレベータは1階まで降りて
しまった。
 俺ひとりしか乗ってないので、相談去々は関係ないのだが、とに
かく4問目からの問題は難しかった。昇ったり、降りたりを繰り返
して、14問目にして再び4階にたどりついた時には、約束の時間
まで、あと30秒を切っていた。
「第15問、風俗などを取材して記事にする人を何という?」
 −ラッキー!これならわかる!
「ルポ・ライター!!」俺は、自信を持って答えた。
「ピンポーン。正解です」
「やったー!これで問に合う!」俺は、思わず万歳をした。
 しかし、スピーカーは非情にも、こう続けた。
「15問目は、チャンス・クイズでしたので2階分上昇します」