tamanegi

「ついにやったぞ!」
 僕が研究所で資料をまとめていると、博士がたまねぎをぶらさげ ながら駆け込んできた。
「どうしたんですか?そのたまねぎがどうかしたのですか?」
「君には内緒にしておいたんじゃが、実はワシは、切っても涙の出 ないたまねぎを開発しておったんじゃ」
「ああ、それじゃあ、今まで博士がここで泣きながらたまねぎを切 っていたのは、それを作るためだったんですね?しかし、何でまた 遺伝学の権威であられる博士がそんなことを」
「恥ずかしい話なんじゃが、事の発端はワシの新婚時代にさかのぼ る。肉じゃがに入れるタマネギをきざむ妻が、大粒の涙をポロポロ と落とすさまを見て、これは何とかせねばと思ったんじゃ。それか ら50年、改良に改良を重ね、理論的に100パーセント涙の出な いタマネギがやっと完成したんじゃよ」
「そうでしたか、それはおめでとうございます。それで、もう確認 の方は終わったんですか?」
「いや、これからじゃ。君に立ち会ってもらおうと思うが、どうじ ゃ?」 「それは光栄です。喜んで!」 「よし、それでは切るぞ!」 博士はそう言ってみじん切りを始めた。 「だめじゃないですか、もう目がうるうるしてますよ」 「いや大成功じゃ。これは、うれし涙じゃよ」