吸えない苦しみ

 あー吸いたい。
 でも、仕事中はガマンガマン。
(たばこ、タバコ、煙草……)
 仕事中の、頭の中はそればっかり。
 窓から見える公園では、学校をさぼった高校生が、うまそうに煙
草をふかしている。
 彼らには、僕の気持ちはわからない。こっちと替わってみろとい
うんだ。
 あー、吸いたい。
 まだ、お昼までは一時間もある。昼休みになったら、めしよりも
まず、公園で思い切り吸ってやろう。 
 ヘビースモーカー?好きで、そうなったんじゃない。煙草なんて
ものを発明したやつが悪いのだ。
 ――我慢して、仕事を続けよう。
(たばこ、タバコ、煙草……)
 新しい、プリンター用インクの箱、名刺を入れる箱、直方体の箱
は全部、煙草に見えてくる。
 同僚の机の上の煙草が目に入った。見たこともないパッケージの
煙草だ。やつは、あれを今日吸うのだろう。
 この部屋で、「煙草吸っていいですか?」などと、馬鹿な質問を
するやつはいない。隠れて吸うやつもいない。そういうところなの
だ、この職場は。
 
 あー吸いたい、新鮮な空気が。
 新しい煙草の味見係なんて、ホントやるもんじゃない。

(了)