最期の採点

「今までつらくあたってすまなかったねえ」
 元気な時は鬼のようだった姑が、ぽつりと言った。
 人間誰しも、病気の時は弱気になるものだ。ましてや、お迎えが 近づいている今となってはなおさらである。
この人だけは死ぬ間際まで、憎まれ口をたたくだろうなんて思って いたことを私は少し後悔した。 「私の方こそ、いたらない嫁ですみませんでした」
 本当は、そんなこと微塵も思っていないのだが、相手にあわせる のが大人というものだろう。 「最後に、あんたのことを採点しようと思う。長年教師をやってき たわたしのクセだと思って聞いておくれ」 「はい、わかりました」 「まず、料理だが、年寄りには少し味付けが濃いことが多かった。 まあ9点というとこかねえ」 「ありがとうございます。それだけいただければ十分です」 「次に、孫のしつけについては8点ぐらいだと思っておる」 「はい。もっと厳しくしなければいけないと思っていますから、そ れでも多すぎるぐらいです」 「最後にわたしの世話に関してだが、これは10点だね」 「ありがとうございます。まともな看護もできなかったのに……。 本当にありがとうございます。お義母さまのお気遣い身にしみます」  私はうれしくて涙が出そうになった。だが、姑の次の言葉でそれ は悔し涙に変わった。 「そりゃそうだろう。わたしは100点満点の姑だから」 「どうして、義母さんは、そういう意地の悪いことばかり言うんで すか!誰だってあんな採点されたら10点満点だって思うじゃない ですか。私だって私なりに……」
 姑は、笑顔でこときれていて、もう何を言ってもムダだった。