ロリコンパブ計画

 ロリコンパブというのがあるらしいという噂を聞いたのは先週の
ことだ。世間には異常性欲を持った人間があふれ、教師までもが聖
職を性職もしくは生殖と間違えているのではないかと思えるほどの
倒錯ぶりではある。しかしながら彼らにしてみれば、自分の生まれ
持った性格がたまたま現在の法にそぐわないというだけで、果たし
て異常性欲者イコール犯罪者として扱っていいのかというのが我々
弁護士の間でも最近論争されている。世に種々ある風俗店というの
は、SMクラブにしても乱交パブにしてもいわゆる異常性欲者のは
け口としての側面を持っていると思う。ところがロリータコンプレ
ックスに限っては子供が風俗店で働けないという法律がある以上そ
ういう店を作ることは不可能だと思っていた。

『ろりこんぱぶロリータ』という看板をわりと人通りの多い通りで 見かけた時、少し拍子抜けがした。てっきり裏通りでひっそりと営 業していると思っていたからだ。
 あ、言っておくが僕にはロリコンの趣味はない。先ほども言った ように不可能と思っていた店があると聞いて職業柄覗いてみたくな ったのだ。僕も幼児にいたずらをした人間の弁護は数多くこなして きた。だが悲しいことに彼らの多くが同じ過ちを繰り返すのだ。も し合法的に彼らの欲望を満たしてくれるところがあるとすれば是非 紹介してあげたいと思ったのである。

「ごめんください」やたら小さいドアを開けて店内に入ると、身長 にして1メートル20センチあるかないかという女の子たちが4、 5人出迎えてくれた。
「いらっちゃいませ。こちらへどうぞ」可愛い顔をした娘がそう言 った。
「あ、はい。よろちくお願いします」僕は、少し緊張しながら言っ た。
 案内された席は高さ30センチほどのソファーがある席で、それ でも彼女はよいしょといった感じでそこに腰掛け、僕は僕でヒザを 抱えながら座り込んだ。
 彼女が水割りを作ってくれる間に、僕は一番聞きたかったことを 尋ねた。 「おじょうちゃんは何歳なの?」 「ふふふ、いくちゅに見える?実は23なの」彼女が答えた。
「驚いたなあ。じゃあここにいる子達もみんな二十歳(はたち)以 上なんだ」お若く見えますねえなどという冗談を言いたいのをこら えて僕は言った。
「ロリコンの人って世の中には思った以上にいるのよ。で、10年 前にマスターが考案したのがロリコンパブ計画なわけ。親の同意を 得て私たちを特別な小学校に入学させ、成長ホルモンを阻害するク スリを混ぜた給食を食べさせて身長を止めたの。中学校も高校も大 学もずっとそう。そしてわたしたち一期生が今年からお店に出てる というわけ」 「え?それって人身売買なんじゃないの」僕は驚いて言った。
「うーん、そうかも知れない。でも親のもとには毎週帰れたし、学 校に行ってる間も結構高額な契約金が払われてたから悲惨さは全然 なかったな。私?まあ、ちっちゃいままってのは、ちょっと抵抗あ ったけど学校じゃみんなちっちゃいし、お小遣いはたくさんもらえ たから、別にどうってことなかったな。乗り物や映画は子供料金で OKだしね」 「そんなものかなあ」僕は首をかしげた。
「そんなもんよ、それよりほら氷溶けちゃうよ。グイっといこ!足 とか触ってもいいんだよ」彼女が体をすり寄せながら言った。
「それは遠慮するよ。実は僕はそういう趣味の人間じゃあないんだ」  僕はくっついた体をずらしながら言った。
「あら、そうだったの。つまんない」口をとがらす彼女を見て可愛 いなあと思ってしまった。いかんいかん。

 子供と、大人の話をしているような妙な時間はあっという間に過 ぎ、セットになっている1時間がきた。
「一度清算をおねがいしましゅ」ボーイまでが子供であるのにはび っくりした。そして請求書に書いてある金額を見て、もっとびっく りした。 「ちょっと高いんじゃ……」
「あそこに書いてありましゅ」ボーイはそう言って上の方の壁を指 さした。
 なるほど下から160センチほどのところに料金表として法外な 値段が並んでいる。160センチといえば170の僕が普通に立て ば目の高さであるが、あの小さいドアを開けた瞬間からずっと子供 たちにあわせてしゃがんで話したりしてたもんだから気がつかなか ったのだ。
「なんか詐欺にあったような気分だなあ」僕はしぶしぶ料金を払い ながら言った。
「詐欺じゃありません。これが本当の『子供だまし』です」