オレオレ詐欺

「あ、おじいさん? 僕だよ僕。ちょっと相談したいことがあるんだ」
「おお、お前か? ずいぶん久しぶりじゃの。正月にも顔出さんで、心配しとったぞ。元気じゃったか?」
「うん、体はね。でもちょっと困ったことがあって、精神的にまいってるんだ」 
「おお、それはいかんのう。何があったんじゃ?」
「頭にヤのつく自由業の人の車に、チョコンと追突してしまって脅されてるんだ」
「ヤのつく自由業じゃと? 薬剤師さんか? それともヤンバルクイナ調理人さんかの?」
「先に言った方から“イシ”を取ったのが正解。ヤンバルなんとかってたぶんいないと思う。保護鳥だし」
「おお、早い話が任侠さんじゃの。それで、この爺は何をすればいいんじゃ?」
「カネ貸して欲しいんだ。50万くらい。今から言う口座に今日中に振り込んでくれないと痛い目に合わされるんだ。おじいさん。助けてよ。こんなこと頼めるの、おじいさんしかいないんだ」
「よし、わかった。しかしのう、今朝警察から電話があってのう。オレオレ詐欺ちゅうのが流行っとるんで気をつけろと言うんじゃ。お前はオレオレとは言わんかったから大丈夫だとは思うんじゃが、ひとつだけ確認させてくれんか。お前、タカシじゃよな?」
「うん、そうだよ。間違いなくタカシだよ。だから早く振り込んでよ」
「いや、カネは出さんことにした」
「え、どうして? 僕がタカシじゃないって言うの?」
「いや、お前は確かにタカシかもしれんが、わしにはタカシという名の孫はおらん」

(了)