完璧な偽札

「西暦2000年を記念して、2000円札の発行をすることに決
定しました」
 首相がマスコミの前でそう発表した時、俺たちは手を叩いて喜ん だ。  俺たちの考えた、偽札発行計画が無事にスタートしたからだ。

 現行の紙幣をマネることは、かなりの技術を要するが、全く新し い紙幣を作るのはそれほどでもない。
 俺たちは2000円札なる新紙幣を地道に作り貯めた。その上で、 首相を催眠術にかけ、新札の発行を宣言させる、実はこれが一番大 変だった。首相ともなると身辺警護が厳しく、催眠術をかけるのも 容易じゃないのだ。
「この国は神の国だと言いなさい」とか、普通の首相なら絶対言わ ないようなことを、暗示によって何度か言わせることに成功し自信 を深めた我々は、ついに最終目標である新札の発行宣言をさせたの だ。巷では、失言の多い首相ということになっているが、そのほと んどは我々が暗示によって言わせた言葉であることを考えると、申 し訳ないような気もする。だが真実が明るみに出ることはないだろ う。それよりも、新札の発行までもが失言だと言われたらどうしよ うかと少し心配しているのは事実である。
 次にしなければならないのは、マスコミをあやつることだ。大蔵 省や造幣局など、本物の札を作るところの人間には眠ってもらい、 当局を装った電話やFAXで発行時期をでっちあげる。後は、その 日以降に少しづつ使うだけだ。

−数ヶ月後

「2000円札ってあまり見ないわよね」
 街でそんな声を聞くたび、俺達はほくそえんだ。少しづつ使うこ とで希少価値をひきだす作戦が見事に的中したからだ。たまに手に することはあっても、物珍しさでタンスの奥にしまいこんでしまう 人間が殆どなのだ。偽札とも知らずに…。銀行などにまとめて集め られれば、サイズや色の微妙な違いでバレてしまうこともあるだろ うが、この分だと当分大丈夫だろう。

 こうして、我々の完璧な偽札作戦は成功したが、その筋からの情 報では同じようなことを新500円玉なるもので始めたやつがいる らしい。同じことを考えるやつはいるもんだなと思う。


(筆者注)森総理さま、ごめんなさい。苦情はモリメールでのみ受 け付けます。