ナンパ

「僕と海に行かない?」
 また、これだ。もうちょっと気のきいた事、言えないのかしら。
『お茶しない?』が3人、『海に行かない?』が4人。マンネリな
のよね。
「うん、いいわよ」
 だけど、ルックスはまあまあだし、行ってみようかな。それに、
車ベンツだし。茨城なまりが気になるけど、私だって千葉だし、方
言なんか気にしない気にしない。
「さあ、着いたよ」
 え、ここの何処が海なの。さっさと降りちゃって、ヘんな店の中
から手招きしてる。急に標準語で喋っても遅いって。

「これなんか、どうかなあ?白木のつやといい、重さといい、申し
分ないと思うんだけど?」
 何、言ってるの?私にそんなこと訊いてもわかんないわよ。
「あの、私、そういうものに興味ありませんから。それと、急用思
いだしたんで帰ります」
 こんなもの買うなんて、きっと変な趣味のある人なんだわ。関わ
らないに限るわ。
「何だ、興味ないの?ヤンキーなら、どれがいいかわかると思った
んだけど?」
「あの、私ヤンキーなんかじゃありません。それに海に行こうとか
誘っておいて、そんなもの見せつけられても、どう答えていいかわ
かりません!」
 あー、いやだいやだ。頭おかしいに決まってる、こんなヤツ。
「海?俺は『木刀見に行かない?』って誘ったんだけどな」

(了)