真夜中のUFO

 博士の予告どおり、UFOは博士の頭上に現れた。
だが少し来るのが早すぎた。博士はその日の午後からの公開実験で、UFOを呼び寄せるつもりだったのだ。
「デケダルメツミ テセワアヲテ」
実験場で唱えるはずの呪文を、うっかり寝言で言ってしまったのが原因だった。
「われわれを呼んでおいて寝ているとは、けしからん。もう二度とくるものか」
「そうですね。帰りましょう」
 宇宙人は宇宙語でそう言って、小型のUFOと共に去っていってしまった。

 そして、朝が来た。
 博士は、目覚めた後、UFOが残した痕跡を目にしたが、それを痕跡と認めることができず、ただうろたえた。それどころか(なんで、こんな日に限って…)と、いたたまれない気にすらなった。

 そして午後━━
「私の頭上に注目してください。UFOは必ず現れます」博士は、そう言って野外の実験場で呪文を唱えた。「デケダルメツミ テセワアヲテ」
 だが、UFOが飛んでくることはなく、かわりに罵声が飛んできた。
「なんだよ。UFOなんて来ないじゃないか」
「いえ、そんなはずはありません。私は、文献からこの呪文を探し出すのに、それはストレスのたまる思いをしてきました。もうしばらく待ってください」
「いい加減なことを言うな。それより、なんでさっきから頭を押さえているんだ。その手をどけろ」
「いや、これは、いわゆるひとつのUFOを呼ぶ際のポーズとでも言うべきものでありまして、どけるわけにはいかないのです」
「嘘をつけ。説明では両手を胸で合わせて呪文を唱えると書いてあるじゃないか!片手を胸に、もう片方は頭になんて、妙な格好をしてるから来ないんじゃないのか」
 会場は、騒然となった。
「わかりました。どければいいんでしょ、どければ」博士は涙声でそう言い、頭に置いた手を下ろした。
 博士の頭頂部には、五百円玉ほどの大きさの円形脱毛症があった。博士はそれをストレスの産物と思っていたが、実際は深夜のUFOが残したただひとつの痕跡、そうミステリーサークルであった。

(どんなちっさいUFOやねん!)

(了)