コピーライター

 俺は、フリーのコピーライターをやっている。
 自慢じゃないが、俺ほど楽にコピーを考え出せるやつはいないだ
ろう。何しろ、俺は頭を使わない。使うものは英和辞典1冊のみ。
これをパラパラとめくって、適当な形容詞を見つけ出し、それをク
ライアントの社名にくっつけるだけなのだ。

 エキサイティング佐藤生魚店
 ゴージャス田中仏壇
 ダイナミック鈴木産婦人科

 これらは、俺が手がけたコピーの一部だ。作り方が作り方だけに、
たいていミスマッチなコピーになるのだが、それがまたいいらしい。
俺の今までの経験では、肯定的な形容詞であれば、まず間違いなく
受け入れられる。逆に否定的なものはダメだ。アンビリーバブル伊
藤弁護士事務所とかでは、さすがにまずいからだ。

「先生!大変です。このあいだのコピーの件で、クライアントがめ
ちゃくちゃ怒っちゃってるんですよ!」
 広告代理店の、俺の担当者が血相を変えて飛び込んできた。
「このあいだって、ああ、俺がバカンスでいない間に契約が取れた
ら、適当に頭につけとけって前もって預けてあったやつか?」
「そうですよ!先生が遊びに行っちゃってすぐ契約が取れたもんだ
から、アレ頭につけて渡したら、『ふざけてる』って先方さん、そ
りゃもうえらい剣幕で...」
「俺、どういうの渡したんだっけ?」
「セクシャルですよ」
「あ、そうだそうだ。思い出した。で、クライアントの名前は?」
「原セメントさんです」