理想の相手

「こんな私でも結婚相手が見つかるんでしょうか?」
 結婚相談所を訪れた男が開口一番そう言った。
「ええ、大丈夫ですとも。当社は国内はもとより海外にもネットワ ークを持ってますから、必ず理想の結婚相手をお探しいたしますよ。 お客様の場合、国際結婚でもかまわないとのことですから、見つか らない確率はゼロと申し上げてもよろしいかと存じます」
 対応にあたった品のよい男性係員が答えた。
「でも見てお分かりのように、目は一重で小さくておまけにつり目 だし、鼻なんか高いのはいいんだけど、とんがって上を向いてるし、 色黒を通りこした地黒だし、本当に大丈夫なんですかね?」
「当社の場合、まずお客様の容姿や趣味をコンピュータに入力いた します。その上で、そういうタイプの男性を希望している女性を検 索致します」 「しかし、僕のような男を希望する女性なんているのかなあ?」 「まあ、やってみるのが一番です。ところでご趣味は?」 「水泳ぐらいかなあ。といっても水浴び程度ですが」 「水泳、水浴び程度、と。はい、入力しました。では、検索いたし ますのでしばらくお待ち下さい」

「あ、出てまいりました。えーと、インドの女性ですね。写真は少 々時間がかかりますので、しばしお待ちを、あ、え?」 「なんか人間じゃないみたいですね?」 客の男が心配そうに言った。 「あれ?おかしいですね。あ、そうか。実は当社は動物園向けに動 物の結婚相手を紹介するサービスも行ってますので、そっちのネッ トワークと混線してしまったようです。やり直しますのでお待ちく ださい」 「あ、いえ、似たもの夫婦という言葉があるじゃないですか。その 女性、なんか親近感を覚えるなあ。顔も似てるし、体の色だってそ っくりだ。それに一緒に水泳もできそうだし。よし決めた!私、そ の人と結婚します」 「え?その人って、この動物とですか?」  ディスプレイに映し出された黒サイのメスを指差して係員が驚い て言った。
「ええ、これが本当のコクサイ結婚です」