近未来バーガーショップ

 いつか、そうなるだろうとは思っていたが、ついにロボットだけ
で運営されるハンバーガーショップが登場した。
 珍しいものが大好きな僕は、一番のりを目指して、三日前の晩か
ら、ここに並んでいるのだが、あと3分足らずで店内に入れるんだ
と思うと、胸がドキドキしてくる。
 ガラス越しに見える店内には、5人、いや正確には5台のロボッ
トたちが注文カウンターに並び、店の奥では、調理担当のロボット
や清掃担当のロボットが開店前の準備に余念がない。
 10・9・8……
 カウントダウンが始まった。
 3・2・1・0!
 入り口の自動ドアが開いた、僕は走り出したい衝動を押さえて、
足早に、1番と書かれたカウンターへ急ぐ。
「いらっしゃいませ!」
 女性を模したロボットがおじぎをしながら言う。
 シルバーを基調とした、その女性型ロボットは、ボディーライン
こそ女性なのだが、脚も腕もない胴体がカウンターに据え付けられ
ているだけで、少しがっかりする。頭部にしても、目にあたる部分
に黒いパネルがはめ込まれているだけで、毛髪も耳も口もない、の
っぺらぼうなのだ。
「ごちゅうもんをどうぞ」
 漢字では喋らないが、カタカナでもないところからして、音声回
路は、わりといい物を使っているようだ。
 僕は、ロボットの前に置かれた写真つきのメニューパネルを見て
考えた。手作りトンカツバーガーがよさそうだ。やはり機械が作る
ものより、手作りで作った物の方がおいしいに違いないからだ。
「手作りトンカツバーガーをください」
 僕は、少し緊張しながら言う。
「かしこまりました。では、このかみに、こすうをおかきください」
 ロボットが、おなかにあたる部分から、紙を出してきた。
 実は、このシステムに関しては、事前に知っていた。メニューの
方はパターンが固定されているので、認識回路が誤る可能性は少な
いが、個数については、同じ三個を頼む場合でも、さんこ、みっつ、
しゃんこ、みっちゅ、外人さんにいたっては、スリー、ドライなど
パターンが多すぎて認識が難しいのだそうだ。
 えーと、三日間何も食べてないから、僕は五つだな、両親と妹に
一つづつ、おみやげがわりに買っていくとするか。
 僕は、横長の名刺大の紙に、個数を書いて、ロボットの胸の所に
あるスリットに入れた。『カードはここにお入れ下さい→』と書い
てあるから、間違えようはない。
「ありがとうございます。ばんごうをおよびしますので、おせきの
ほうで、おまちください」
 頭部についているパネルに、丸い目が赤いLEDで表示される。
無表情なロボットが見せた、初めての表情だ。少しくっつきすぎて
はいるが、なかなか愛嬌のある目だ。
 僕は、これもロボットが出した、1という栄光のナンバーが刻ま
れた番号札を持って、空いている席に移動する。勘定のことを言わ
ないところを見ると、後払いなのだろう。

 1時間近くが経過した。2番や3番のコールはあったように思う
が、一向に僕の番号が呼ばれない。いくら個数が多いからとは言え、
たかが8個で、1時間は長すぎる。
 不思議に思って、もう一度カウンターへ行くと、僕は自分がとん
でもない間違いをしたことに気づいた。客達が、縦長の紙に個数を
書いて、ロボットに入れているのだ。僕が、横長だと思っていた紙
は、実は縦長だったのだ。しかも、その紙を受け付けた瞬間、頭部
のパネルには、3とか7とか数字が表示されるではないか。僕が見
たあれは、くっついた目ではなかったのだ。おそるおそる調理場を
覗くと、一台の調理ロボットが、凄まじい勢いで手作りトンカツバ
ーガーを作っている。
 僕は、着々と作られつつある無限個のハンバーガーを待たずに、
逃げるように店を飛び出した。