結婚の条件

「それで、あなたは、どんな伴侶をお望みですか?」
 その結婚相談所で一番のやり手だという男は、相談者である女性
に尋ねた。
 男は、希望通りの結婚相手を見つけるという手腕にかけては日本
一…、いや世界一だった。実際、つい最近までヨーロッパで、その
実力を遺憾なく発揮してきたところだった。
「他のことは望みません。ただ、勤勉な人をお願いします」彼女は
言った。
「勤勉?久しぶりに帰ってきた日本で、これはまた日本人らしい条
件にあたったもんだ。しかし、仕事一辺倒の人間ほどつまらん存在
もないですよ」
「いえ、いいんです。うちの父親は、仕事嫌いで、母とは喧嘩が絶
えませんでした。だから、私は、働きバチのように勤勉な人と結婚
しようと、子供の頃から決めていたんです」
「そうですか…。わかりました。それでは、明後日、ここにまた来
てください。その条件にピッタリの人を用意しておきますから」

「さすが、日本ですね。ざっとあたっただけで、五人もあなたの条
件に合う人が見つかりましたよ。この人たちは皆、自他ともに認め
る働きバチです」
 彼女が、再び相談所を訪れた時、男は自信に満ち溢れた顔でそう
言った。しかし、彼女は、集められた候補者を一瞥しただけで、怪
訝そうな顔をした。それは、候補者たちも同じだった。
「あの…、私、この中の誰とも結婚できませんわ」
「どうしてですか、他にも条件があるなんて、いまさら言われても
困りますよ」
 男の問いかけに、女は泣きそうな声で答えた。
「そうじゃないんです。この人たち、みんな女性じゃないですか…」
 相談者を含む六人の女性たちは、一様に落胆していた。
「これは心外な!働きバチというのは、全部メスなんですよ。男の
働きバチなんて存在するわけが…あっ!」
「どうしたんですか?」相談者が尋ねた。
「もしかして、日本はまだ同性同士の結婚を認めていないんですか?」

(了)