変身願望

(私は、今までと違った人間になりたいのです)
 2月に時期はずれの初詣に出かけた俺は、そう願をかけた。

「よし、おぬしの願い、拙者が叶えてしんぜよう」
 いきなり後ろから大きな声が聞こえてきた。声の主は鎧を身にま
とっていた。
「あ、あなたはいったい……」俺は驚きながら言った。
「拙者、うえすぎへんしんという、いわば変身の神でござる。お主
のように、変身したいという人間を、他の物に変えるのが仕事でご
ざる」男は言った。
「うえすぎへんしん?どこかで聞いたようなお名前ですね。それよ
り、私がお願いしたいのは、今の自分が気弱で優柔不断なもので、
もっと大きな人間になりたいと、まあそんなような意味なんですが
……」
「大きな人間?故人ではあるがジャイアント馬場などいかがでござ
るか?」
「いや、だから、そういう意味じゃなくて勇気のある〜みたいな」
「それなら、拙者のレパートリーとしてはスーパーマンがござるが」
 うえすぎへんしんは、俺がメンタルな部分を変えたいのだという
ことを少しもわかってくれないみたいだが、スーパーマンというの
は面白そうだ。
「じゃあ、スーパーマンでお願いします」
「よし心得た。さすれば、この紙に書いてある住所に手紙を出すこ
とじゃ」
 うえすぎは、そう言うと、1枚の紙切れを置いて消えた。
 俺は家に帰り、さっそくその住所に手紙を出した。便箋には、ス
ーパーマンになれますように、と書いておいた。

 それから、1週間、2週間と時がすぎたが、いっこうにスーパー
マンになる気配はない。もしかしたら知らないうちに超能力が身に
ついているのではと思い、試しに柱を殴ってみたのだが、見事に折
れたのは腕の方だった。

「うえすぎさ〜ん。いませんか〜」
 俺は、例の神社で呼びかけた。
「なにようあるか?うえすぎさん今日非番のことある。わたし、か
わりにお話し聞くのことあるね」
 突然、変な中国人が屋台を引いて現れた。屋台には、へんしんあ
まぐりと書いてある。
「甘栗屋さんにわかるかどうか知りませんが、この前ここで、うえ
すぎさんにスーパーマンに変身させてもらう約束をしてもらった件
で来たのです」
「その件なら聞いてるあるよ。あなたスーパーマンなれたあるか?」
「なれてませんよ、この包帯を見ればわかるでしょう。どこの世界
に骨折したスーパーマンがいますか」
 俺は、折れた方の腕を差し出しながら言った。
「はて、おかしあるね。手紙ちゃんと出したあるか?」
「出しましたよ。中に、スーパーマンになれますようにって書いた
便箋入れて」
「便箋?中に入れたの便箋だけあるか?」
「ええ、そうですが、なにか問題でも……」
「うえすぎさん、いつも大事なこと言い忘れる癖あるのことよ」
 甘栗屋は言った。
「と言いますと……」
 俺は訊いた。

「へんしん用封筒入れないとだめあるよ」