僕の読書法

「検問です。協力願います」
 愛車での通勤帰り、警官に車を止められた。
「何の検問です?飲酒?シートベルト?それとも携帯電話?僕、ど
れも該当しないと思いますけど」
 僕は、パワーウインドーを開けながら言った。
「携帯電話の検問です。あなたの口が動いているように見えたもの
で、てっきり電話しながら運転されてるのかと…」
 警官が、窓から車内を覗き込みながら言った。
「僕、携帯は持ってないんです」
「そうですか。それは、申し訳ありませんでした。ところ、ハンド
ルの上の物はなんですか?」
 警官の懐中電灯が、ハンドルまわりを照らしている。
「あ、これ?本ですよ、本。見ればわかるでしょ」
「すると、あなたは本を読みながら運転してたのですか?」
「ええ、そうですよ。読書は僕のたったひとつの趣味ですから。本
読みながら運転しちゃいけないって法律はないでしょ?」
「ま、そうですが、危ないとは思いませんか?」
「慣れてない人はしない方がいいでしょうね。でも、僕は大丈夫。
もう何年もやってますから。それに、人にいやがられずに読むのに、
車の中は最適なんです」
「犬や猫が飛び出してきたらどうするんですか。あ、それだけじゃ
ない。このへんは、田舎ですから、猪や鹿が飛び出すこともあるん
ですよ」
「ちょうちょは飛び出しません?」
「は?まあ、蝶も飛んでるでしょうが、蝶ぐらいならたいしたこと
ないのでは?」
 警官は僕のジョークにまともにつきあってくれた。花札を知らな
いのかも知れない。
「大丈夫ですって。これでも、前方には十分注意して運転してます
から」
「気をつけてくださいよ」
「ああ、忠告ありがとう」
 僕は、窓を閉め、アクセルを踏み込んで家路を急いだ。もちろん、
ハンドルの上の本を読みながらである。

「わー!なんで、こんなところに恐竜がいるんだ。うわあ、あんな
巨体で体当たりされたら、ひとたまりもないぞ!ジョージは叫んだ。
エリー、俺達はとんでもない時代にタイムスリップしたようだ…」

(了)