安全な食べ物

 僕がボランティアでアフリカに行った時の事を話そう。
 そもそもの始まりは、大地震だった。震度7クラスの地震がアフ
リカの奥地で起き、住民に多くのケガ人が発生した
という報告が入
ったのだ。

 そういう時、僕が在籍するボランティア団体では、他のどこより
も早く、食料の
援助と応急手当のできる人間を派遣することになっ
ている。
今回も開業医である僕をはじめ、学生その他の有志10人
が、地震発生の翌日には
現地に赴いた。
 飛行機を降りて、さらにセスナ機で4時間を費やして到着したそ
の村は、さすがに
ひどいありさまであったが、もともと大した建造
物はなかったらしく、住居の復旧は
あらかた終わっていた。
 酋長らしき男は、僕たちが持っていった食料に対して、やたら生
産国はどこかとか
有機栽培かとかしつこいぐらいに訊いてきた。も
ともとカラダに抵抗力がないため
文明国から来た食品には気を使っ
ているらしい。
 一緒に来た、メンバーが1人づつ少なくなっているのに気づいた
のは3日目の朝の
ことだった。同じメンバーとはいえ、ほとんどが
初対面なため、飛行機で隣同士に
なって話友達になった学生がいな
くなって、初めて異変に気がついたのだ。
「仲間が2人ほど見当たらないんだが?」おれは酋長に尋ねた。
「おお、気がついたね。2人食べたある」酋長は平然と答えた。
 人食い人種の村に来てしまったのかと後悔するのと、大勢の現地
人に縛りあげられる
のは、ほとんど同時だった。
「今日ちょうど村のおまつりある。2人試食して安全そうだったあ
るので、他の8人
今夜たべるのこと」酋長が僕に言った。
 1人、2人と服を剥がされ、食材となっていった。そして、とう
とう僕の番になった。

 ナイフでじょきじょきと上着を切られたところで「まった」と酋
長が言った。

「その胸の傷はなにあるか?」酋長が訊いた。
 俺は昔、肺を手術したことがあるのだ。それで、分かるかどうか
知らないが、病名と、その病気を手術で治したことを告げた。

「うそ?その病気は治らないはずある」病名は知っているらしい。
「遺伝子治療というのがあるんです」僕は答えた。
「おお」酋長は絶句して座り込んでしまった。そして、他の現地人
が何事かつぶやきながら、僕を縛った木のツルをほどき始めた。

「どうしたんです?」僕は、突然のなりゆきに驚いて尋ねた。
 酋長が悲しそうに答えた。
「俺たち、遺伝子組換え食品、食べれないある」