アンドロイド殺人事件

「君は、ゾンビを知っておるかね」
 警視庁の鍬形警部が、私立探偵、写楽ホームズに訪ねた。
「何を突然おっしゃるかと思えば…、知ってますよ、それくらい、
最近あまり飛んでませんが、昔はこのあたりにもよくいたものです」
 写楽が答えた。
「……それは、トンビじゃないのかね?」
 鍬形警部は、明らかにあきれて言った。
「ああ、これは失敬。子鹿のはうでしたか」
「それは、バンビ」
「で、その、死人の化物がどうかしたんですか?」
「君は、はじめから知っておって、からかっとったのかね」
 鍬形警部は、怒り出してしまった。
「わー、ごめんなさい、ごめんなさい!つい、できごころで、つま
らないことを…。謝ります、心から謝りますから、今度の事件とゾ
ンビの関係を教えて下さい!」
 写楽は、床に頭をこすりつけて詫びた。
「事件との関係?そんな物はありゃせん。ただ、知っておるかと訊
いただけだ」
「じゃあ、被害者が死ぬ前に『犯人は、ゾンビ』と言ったとかいう
わけじゃないんですか?」
「おしい、実におしい、実は『犯人は、アンドロイド』と言ったの
だよ。どうだね、わかるかね?」
「……わかるわけないでしょ、そんなもん!大方、日系二世の安藤
ロイドとかいう人物の犯行でしょうよ!」
「おい、何の関係もない、ゾンビの話を持ち出したのは、私が悪か
った。頼むから、真剣に考えてくれたまえよ」
「知りませんよ、そんなこと。第一、状況とか人間関係とか、教え
てもらわないと推理のしようがないでしょうが」
 ルルルルル・・・。電話がなった。写楽が、面倒くさそうに受話
器を取った。
「警部に電話ですよ、警視庁から…」
「おお、そうか、ありがとう」
 電話をし終えると、警部が写楽に言った。
「写楽君、さっきの話はなかったことにしてくれたまえ」
「無かったことにって、もう解決しちゃったんですか?」
 写楽は唖然として訊いた。
「ああ、犯人が自首したんだよ。日系二世の安藤ロイドがね」

(了)

あとがき・これを書いた時代、携帯はお金持ちの物でした。