アメとムチ

「M部長の良さってのは、アメとムチを使い分けられることだよな」
 とあるバーのカウンター。同じ会社の社員同士が二人並んでグラスを傾けていた。
「俺もずいぶん奢ってもらったりしたもんな、新規の仕事を取ってきた日なんか、六軒もはしごさせてもらったよ。そのかわり怒られるときには徹底的だけどな」
「今時、珍しいタイプだよな。でも、私生活ではどうなんだろ?」
「聞いた話じゃ、奥さんにアメとムチを使い分けられてるそうだよ」
「ふうん。一見硬派な部長からは想像できないな」

──その頃、M部長の家では。
「さあ、さっさと食事の後片付けをしなさい。さもないと、アメを食べさせるわよ」
 M部長の妻のS婦人が、強い口調で命令している。
「それだけは勘弁してくれ」
 M部長は甘いものが大の苦手だった。
「早く終わったら、またムチでしばいてあげるからね」
「わかった。頑張るよ」
 M部長はマゾだった。

(了)

<教訓>アメ=○、ムチ=×とは限らないというお話。「敵に塩を送る」も相手がナメクジの場合は×です。なんのこっちゃ。