2004年 秋  収穫記念号(34号)

 今年の収穫が終わりました。ここ2年続いていた不作といい、度重なる台風の襲来といい、波瀾万丈の平成16年の収穫です。まるで数年分の出来事がまとめてあったような気がします。
 9月28日、しばらく晴れ間が続いていた後のちょっと崩れそうな天候の中で、いつものようにたくさんの人が集まってくれました。朝6時半から作業を始めた人もいて、総勢24名。昼までいっぱいいっぱいかかって、しめて5・4トンの収穫です。決して豊作ではありませんが、ここのところの不作からはなんとか盛り返したかな?という微妙な量でしょうか。
 雪解けから全体的に順調な天候だったのですが、たまたま我が家のぶどうの開花期に狙ったようにやってきた一週間ばかりの長雨。その影響もありバラけた小さな房が多く収穫量に不安なまま成熟期を迎えていたのです。
 「あの雨さえ無かったらなぁ…」と思いながら成熟期を迎えたところであの「台風18号」がやってきました。そりゃあもう、吹き荒れました。蘭越でもあちこちでビニールハウスが倒壊し、木が倒れ、シャッターが破られ、納屋の屋根が飛びました。
ちょうど秋祭りの真っ最中だった私たちの地区は、祭りを中止してみんな自分の家と畑を守るのに必死です。私たちのぶどう園もかわいそうなぐらいの風にさらされて、半日の間もみくちゃにされました。外で動くのも危ない状況で、最高潮のときは家で昼寝…。
 さすがにかなりの葉っぱがダメージを受けました。これから最後の追い込み、というときだったのでその影響は計り知れません。すごくいい経過で、夏暑く、秋のはしりから涼しい中で成熟してきていたので「素晴らしい年になるかな?」と期待されていた今年のぶどうですが、それからは「なんとか熟してくれよ」という願いに変わりました。全く予想外の事態になってしまったのです。
 幸いそれからは好天が多く、痛みながらもぶどうの葉は踏ん張ってくれたのか、少しずつ甘みを増していきました。この天気をピンとした葉っぱで迎えられたらなぁ…と思わずにはおられませんでしたが、未曾有の被害を受けた畑が多かったことを思えば、ただ感謝する気持ちにもなったのでした。
 天気には波があり、好天が続いた後はしばらくは不順な天候がやってきます。そろそろ潮時か…という頃合いを見計らって収穫の準備になりました。例年のようにあちこちに妻が電話をかけまくって人手を集めました。収穫の途中で霧雨がサラッとちらついた時には少し焦りましたが、みんなのがんばりで順調に進み、思ったよりは少〜したくさんあった今年の収穫は終わり、久しぶりにみんなとにぎやかな楽しい収穫祭(単なる青空宴会ですが)になりました。差し入れもわんさかやってきてうれしいうれしい時間です。
 その日の午後、葡萄を積んだトラックを追って小樽へ通い、糖度17度にちょっとホッとして、酸が十分あるのでまたホッとして。受入れ、搾汁(ぶどうを搾る)、液処理(果汁を澄ませます)。顔なじみのスタッフに囲まれて、一年ぶりの工場の空気は懐かしい。昨年のワインをふまえて、今年のワインの方針を立て直し。果汁を少し冷凍庫に取り分け…あとは北海道ワインのスタッフにまかせました。
翌日、いつもよりちょっと早く作業も終わったので、気になっていた余市に寄ってみることにしました。
 余市は北海道一の果樹の産地。ワイン用ぶどうでも私の農園の数倍、大きいところでは一桁違う面積を誇る農園がいくつもあります。そこには私がぶどう作りを志す上でたくさんのことを教えてくれた人たちがいるのです。この季節の余市はリンゴの赤と、ぶどうの黒と緑が美しく、豊かな恵みにあふれた土地です。
 それだけに今年の台風の被害は凄まじかったと聞き、心配なのと同時に見てはいけないような気持ちにもなっていました。日頃、美しい園がどんなに多くの努力で造られているかを知っているだけに。
 美しかった余市の丘の被害は凄まじいものでした。たわわに実っていたはずのリンゴやナシは、ほとんど樹上には無く、まだかたづけきれない実が地面を埋め尽くしている畑もあります。行けども行けども剥がされたり潰されたビニールハウス、散乱する果実、ボロボロになった葡萄の葉。
 その中でも、私の葡萄の先生、Kさんの畑は大変な被害を受け、広大なぶどう園の何割か、私の畑の倍にもあたる面積が倒壊する被害を受けていました。久しぶりにあったKさんは相変わらず引き締まった顔でしたが「昨日まで柱起こしにかかった。もう身体が痛いサ。」と苦笑い。台風が来てから3週間になる間ずっと続いた現実との格闘に戦い抜いた顔でした。
 誰よりも畑を大事にしているKさん。たわわに実っていた、いつもならきれいに整えられた葡萄畑の今の様子を、私は畑に続く坂道を上って見に行くことができませんでした。どんなに自然にねじ伏せられても、きっとまた美しく復活する、それが農家の底力だと知っているから、また来年、きっと美しく輝くその畑の葡萄を見に来ます。
 山ほどエゾシカの肉をお土産にもらって、「これじゃああべこべだよなぁ…」と思いながら、台風に荒らされた、美しかった果樹の町を走りながら私は泣きました。農家の無念さを思って泣きました。その復活を信じて…。