1999年 収穫記念・秋の号   私の葡萄造り(ページ1)

 

収穫終了しました!

  10月1日、さわやかな秋空の下、松原農園の収穫は行われました。 思えば平年より半月以上遅い雪解け、ネズミの猛威、7月の大雨、8月の猛暑、9月の残暑・台風直撃と、何年分かの気象激変。松原家でも主婦不在2ヶ月の難所を乗り切り、娘たちの大成長というお土産を残し、今までで最も甘い葡萄を収穫できました。今、葡萄たちは小樽の工場で醗酵を続けています(ワインの状況については新年号で詳しくお伝えします)。
 糖度は19.7度、心配した酸も十分あります。収穫量はほぼ去年並みの7トン。このよく熟した葡萄をどのようなワインに仕上げていくか、楽しい悩みが続きます。

私の葡萄栽培

 私も葡萄の栽培が仕事、と言えるようになって今年で11年目、自分の畑を持って7年目になります。これまでの年月は試行錯誤の繰り返し。いくつかの障害を取り除き、量と質を安定させる事ができつつある、というところ。
 私は、この蘭越の地の、上里の丘を選んでミュラー・トゥルガウを植えましたが、正直言えば、その選択は「勘」と「巡り会わせ」そして「必然」です。
 いくら時間をかけたとしても、私の意志だけで畑は選べません。また、品種の選定には、「栽培の経済的実績があり、かつワインには一定の評価がある」ものしか今の段階では選べない。今の自分の経験で、蘭越の地に最も適していると思われた「ミュラー・トゥルガウ」を選べました。この地の夏の暑さと秋の朝晩の冷え込みが、「早熟で香りが高いが、秋の夜温が高すぎると酸が抜けて大味になりやすい」という長所と短所を克服できる、と考えたからです。もちろん、私を北海道へ呼び寄せたのが「小樽ミュラー」だったという思い入れも多分にありました。「ミュラー」の適地を探していて蘭越にたどり着いたのかもしれません。
 その後栽培7年,醸造5年。まだまだ、天候の激変にもてあそばれて右往左往の毎日です。それでも試行錯誤を経て少しづつ、自分のスタイルが固まってきました。
 今考えている事、それは、畑の中を「生き物」でいっぱいにするという事です。土の中も、草むらも、葡萄の木の上も、できるだけたくさんの種類の微生物や虫、草,鳥が住みつけるように(ネズミとヒグマはちょっとね…)。

私の営農方針

  1. 雑草を生やす
     松原農園は除草剤は使わず、畑もたまにしか機械で耕さない(つまり畑の中は雑草だらけ)。除草剤を使い徹底的に雑草を畑から駆逐すれば、害虫対策、病気対策の上からも手っ取り早いが、生き物の種類が限られ、生える草も単純化し、土は堅くなり、大雨で流れ干ばつでひび割れる。草に覆われた土の方が異常気象にも強く、草の根が深く深く耕していく。
     その一方、草刈りをさぼれば風当たりも悪くなり病気も増え、葡萄の樹が健康でなければ草に負けて弱っていく。手間はかかり、決して楽な方法ではない。しかし、草があることで次のように農薬を減らすことができる 。

  2. 殺虫剤を減らす
     松原農園は、春・出芽直後と夏・成熟直前の2階だけ、最小限の量(これはとても重要なこと。無用な殺生をし、土を殺さぬために)の殺虫剤を散布します。この時期は被害が大きく、外すことができないのですが、通常7〜8回の散布をしているのと比べるときわめて少ない。葡萄の枝葉を覗くと虫の宝庫です。葡萄には致命的な被害を与えるような害虫は少なく、いっとき目立っても「我慢していれば」そのうち目立たなくなる(ここまで我慢できるようになるまで10年かかりました)。殺虫剤を撒かないことで、天敵が増えてきているからではないか。鳥たちを頂点に、蜘蛛やバッタ・トンボが無数に住んでいる。ダニの大きさでも食い合いがある。草むらの中、土の中でも同様だ。草にも守られてぶどう園は小宇宙になる。既存の産地でこれが難しいのは、周りの農園とのトラブルが絶えないから。森に囲まれた松原農園の強みです 。

  3. 肥料
     化学肥料の最大の害は、その効果が即効的・単純すぎて、植物や微生物の生理を狂わせ、それら生き物全体を含んだ生態系を狂わせるから。その害は、豊富な生物の働きに依存していた日本の土壌において大きいと思う。化学肥料の効果が過度に劇的にならぬよう、場面や量を考慮すれば役に立つことも多い。経済的だし、作業性もいい。私も使っている。
     しかし、基本的に有機肥料を使う。葡萄だけでなく、微生物、小動物のえさにもなる。微生物により、ゆっくり分解し、その副生産物とともに葡萄の栄養となる。
     現在使っているものとしては「米ぬか」「魚粕」「貝化石」「牛糞堆肥」などである。種類は多い程よい。いろいろな要素が混ざり合って、畑の生態系を豊かにしていく、と信じている。きっと、土も葡萄も、人間と同じでしょう?

  4. 大型機械を使わない
     本当の理由は「おカネがないから買えない?」。しかしそれでは悔しいのでもっともな理由を考える。
     大型トラクター、スピードスプレーヤー(農薬散布機)などは作業の効率を飛躍的に早め、大規模経営には欠かせない。ワインのコスト低下には多大な貢献をしている事は間違いない。
     しかし、大型機械は確実に土壌を踏み固め、根の張り、排水、通気性に悪影響を及ぼす。雨の多い日本ではなおさらである。
     手作業は遅く、つらい。でも、私は先輩たちの言う、「作物に足音をたくさん聞かせなさい」との農業の簡単な格言を信じる。1本1本の樹に目を向け、病気はないか、虫は出ているか、栄養は足りているか…感じることができるのはゆっくりした手作業のおかげ。  

 

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