日本の歴史認識 > 近代日本の歩み > 参考文献(第2章)

 参考文献_第2章 大日本帝国 関係

以下、著者名のアイウエオ順(外国人の著者は日本語読み)で掲載しています。

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※2 著者の経歴はその著書に記載されている内容をもとにしています。

一坂太郎「木戸孝允」、山川出版社(日本史リブレット)、2010年7月20日

  • <寸評> 著者は1966年生まれ、現在は萩博物館特別学芸員、専攻は日本近代史。この本はA5版87頁のコンパクトサイズで、木戸孝允の誕生から死までを要領よく、簡潔な文章でとても読みやすくわかりやすく、まとめている。

伊藤之雄「伊藤博文 近代日本を創った男、講談社学術文庫、2015年3月10日(原本は2009年)

  • <寸評> 著者は1952年生まれ、京都大学大学院法学研究科教授。法学部出身だが、山県有朋や明治天皇、原敬などの人物史も書いている。著者によれば、伊藤博文(1841-1909)についての従来のイメージは、(1)木戸、大久保など有力者の間を巧みに渡り歩いて出世した軽佻浮薄な人物、(2)保守反動的な憲法を創る中心となって日本の民主化の可能性をせばめ韓国の民族主義を弾圧したために暗殺された、というものだった。本書において、筆者は史料を丹念に精査し、伊藤博文は理念を持った政治家であり、剛凌強直な性格の人間だった、と結論付けている。
    伊藤之雄氏の教え子でもある瀧井氏の著書は、伊藤博文の政治・思想に焦点をあてているが、伊藤之雄氏のこの著書は私生活や伊藤の政治全般について史料を提示ながらていねいに伊藤の生涯を描き出している。

伊藤之雄「山県有朋 愚直な権力者の生涯、文春新書、2009年2月20日

  • <寸評> 著者については上記を参照。山県有朋(1838-1922)は、1871年に兵部省の実質トップになって以来、西南戦争、日清・日露から第1次大戦までの長期にわたって軍(特に陸軍)のトップとして君臨し、軍の組織や軍政及び風土の形成を主導した。この本は山県有朋の生涯を私生活を含めてわかりやすく書いており、日本軍の成立過程を知ることができる。のちに満州事変などで暴走する日本軍は山県がその礎を礎を築いた、とか、山県は「狡猾・陰険・陰気」な人柄だったとか、悪いイメージで語られることが多いが、伊藤氏は「山県の陸軍は統制のとれた組織でそれがのちの暴走につながったわけではない」、また、人柄については「自分の利害や人気を勘定に入れずにやるべきと考えることを全力でやる”愚直”という言葉がふさわしい」と言う。
    人柄の当否はさておき、山県の死後10年も経たずに“暴走”が始まる組織を作った結果責任は逃れられないのではないだろうか。

井上寿一編「日本の外交 第1巻」、岩波書店、2013年2月20日

  • <寸評> 以下、12件の論文集
    総説 井上寿一  1.条約改正外交 五百旗頭薫
    2.朝鮮永世中立化構想と日本外交(日清戦争前史) 大澤博明
    3.日英同盟と日露戦争 片山慶隆
    4.アメリカの台頭とアジアのナショナリズム 長田彰文
    5.国際連盟外交_ヨーロッパ国際政治と日本 篠原初枝
    6.二大政党制の形勢と協調外交の条件 小林啓治
    7.戦間期日本の経済外交 石井修
    8.政党政治の再編と外交の修復 井上寿一
    9.東亜新秩序をめぐる日中関係
    10.「革新外交」と日米開戦
    11.第2次世界大戦期における国際情勢認識と対外構想 武田知己

海野福寿「韓国併合」、岩波新書、1995年5月22日

  • <寸評> 著者は1931年生まれ、東京大学大学院(農業経済学)博士課程修了、執筆時点では明治大学文学部教授、専攻は日本は近代史、近代日朝関係史。江華島事件(1875年)から、韓国併合(1910年)までの日韓関係を記しているが、約7割は日露戦争までになっている。この問題を考えるためには、そのくらいの配分が適当であろう。この期間を韓国併合という問題にフォーカスして、歴史事実を分析しており、併合に至る歴史を着んと学ぶことができる。ただ、こうした問題は、本来、一方が真っ黒で他方は真っ白、ということはないのだが、政治的な問題がからむとそうはいかなくなってしまう。この本はもちろん、歴史学的に事実を記述しているが、書いた時期が日本の戦争責任が話題になっていた時代だったせいか、政治的問題を意識しすぎているように感じた。

大石眞「日本憲法史」、講談社学術文庫、2020年1月9日(原本は2005年)

  • <寸評> 著者は1951年生まれ、京都大学名誉教授、専門は憲法学、議会法、憲法史。不平等条約の締結から、明治憲法の成立過程とその運用、さらに現行の日本国憲法の制定・運用をまでを対象にした力作である。法律に関する専門的な知識も多少要求され、難解な部分もあるが、記述内容全体が上手に構造化されており、少し頭を回転させれば理解できることが多い。

大江志乃夫「日露戦争の軍事史的研究」、岩波書店、1976年11月26日

  • <寸評> 著者は1928年生まれ、2009年9月20日没。陸軍航空士官学校入学中に敗戦、名古屋大学経済学部卒業。歴史学者、茨城大学名誉教授(以上、Wikipediaより)。この本は、日露戦争における陸軍の編制、動員、人員の損害、兵力の補充、下士卒の意識と行動、俘虜の発生、軍需生産、輸送、などについて当時の様々な史料を多数引用して、細かい分析を行ったあと、最後の章は「帝国主義国家体制樹立への展望」というタイトルで日露戦争が軍国主義化への出発点となったことを述べている。文章は現代の口語体で書かれているが、単語や使用する漢字が現代ではほとんど使われていないものであったり、形容詞がたくさんついていて主語と述語の関係が読んでいるうちにわからなくなってしまうような文が多くて読みにくいが、内容はしっかりしている。

大谷正「日清戦争」、中公新書、2014年6月25日

  • <寸評> 著者は1950年生まれ、大阪大学文学部卒、専修大学歴史学科教授、専門は日本近代史・メディア史。日清戦争前夜(壬午軍乱など)から開戦、メディアと国民、終戦と講和条約、そして最後は「日清戦争とは何だったのか」でまとめる、という素直な構成で内容も分かりやすく書かれており、日清戦争入門書としては現在刊行されている本の中で最もよくできているのではないだろうか。

岡義武「明治政治史(上)」、岩波文庫、2019年2月15日(原本は1962年11月刊)

  • <寸評> 著者・岡義武(1902-90)は、1926年東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、吉野作造に師事してヨーロッパ政治史を研究、その後近代日本の政治史に取り組み東大教授を経て1963年退官後も日本学士院会員など、20世紀を代表する歴史学者・政治学者といってよい。著者にはリベラル知識人としてのイメージとニヒリスティックな傍観者というイメージがつきまとっている。(本書「解説」より)
    著者は明治維新を「民族革命」と位置付ける。{ 民族革命とは、民族の独立確保あるいは民族の対外的勢力拡大を目的としてなされる国内政治体制の変革をいう。}(本書P131) 幕府の開国策も長州などの攘夷論も、その根は同じ独立確保にあるとする。
    上巻では幕末から明治憲法制定までの史実を実証的に追跡しながら、「なぜ、それが起きたのか」を分析している。特に力を入れているのが自由民権運動以降で、それまで独立の確保の意識をほとんど持たなかった民衆を、政府はどのように「国民」にしていくか、について教育勅語や鹿鳴館などの洋化運動の位置付けを分析する。
    明治維新史としては古典に属する本で、{ 個々の論点については今日の研究水準からすれば再考されるべきものも少なくないだろう。}(本書「解説」P488) が、一方で他の研究者とは異なる視点でみる明治史に新鮮さを感じる。

岡本隆司「清朝の興亡と中華のゆくえ」、講談社、2017年3月21日

  • <寸評> 著者は1965年生まれ、京都大学大学院文学研究科卒業、執筆当時は京都府立大学教授、専攻は近代アジア。あとがきで、「清朝の興亡をたどることで、戦乱から平和に向かう17世紀・繁栄をきわめる18世紀・平和から相克に向かう19世紀の東アジアが一望できる」と述べており、そのことに違和感は全く感じないが、この見方は学界では異端だという。一般にこうした歴史書は、史実を丁寧に記述した上で、それをどう見るかを簡単に記述するパターンが多いが、この著者の場合、史実の記載は必要最小限にとどめ、どう見るか、どう理解するか、ということに力点を置いている。それ自身は歓迎すべきことなのだが、事実関係の記述が簡単なので因果関係がよく理解できない場合もある。

呉善花(おそんふぁ)「韓国併合への道 完全版」、文春新書、2012年7月20日

  • <寸評> 未

勝田政治「大政事家 大久保利通」、角川文庫、2015年3月25日(原本は2003年)

  • <寸評> 著者略歴については上記を参照。著者は「本書は評伝ではない」として、大久保利通(1830~1878)の私生活などについては一切書かず、1862年の寺田屋事件の頃から暗殺される1878年までの政治活動について記している。この間の大久保の政治活動についてはわかりやすく書かれているが、やや美化しすぎているように感じる。

加藤陽子「それでも日本人は「戦争」を選んだ」、朝日出版社、2009年7月30日)

  • <寸評> 著者は1960年生まれの東京大学教授、文学博士(日本現代史専攻)。2007年の年末から翌年正月にかけて5日間、神奈川県の高校生を対象にして行った講義を単行本化したもの。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争、について、日本側だけでなく相手国からの見方も合わせて紹介している。教科書に出ていない裏話的な話も多い。

川島真「近代国家への模索 シリーズ中国近現代史②、岩波新書、2010年12月17日)

  • <寸評> 著者は1968年生まれ、執筆当時は東京大学准教授で、専攻は中国近現代史、アジア政治外交史。この本は「シリーズ中国近現代史」の第2巻で、清から中華民国に移行する1894年~1925年頃の中国の歴史について書かれている。1894年は日清戦争が始まった年であり、1900年の義和団事件、1911年の辛亥革命により、1912年に清朝崩壊、その後南北に分れて抗争をくり返し、蒋介石の北伐で統一が完了する1928年の直前、孫文が死去する1925年ごろまでの歴史を書いている

姜在彦(カン・ジェオン)「新訂 朝鮮近代史」、平凡社、1986年1月16日/1994年8月1日(新訂版)

  • <寸評> 著者の姜在彦は1926年朝鮮(済州島)生まれ、執筆当時は花園大学教授で専門は朝鮮近代史・思想史、朝鮮戦争後は日本に在住し2017年没。(Wikipedia「姜在彦」より) 本書は19世紀から第2次世界大戦により朝鮮が日本から解放されるまでの政治史を中心に書かれている。日本による植民地支配は、「民族内部を分割して統治する方法によって、同族内部の相互不信と疑心暗鬼による人間性の破壊までもたらし、その後遺症は今日においてさえ癒えることがない」と述べる一方で、朝鮮側での歴史認識にも問題があることを指摘している。(あとがきP323-P324)
    見慣れない漢字がたくさん登場するなど、読みにくい部分もあるが、価値ある一冊だと思う。

北岡伸一「明治維新の意味」、新潮選書、2020年9月20日

  • <寸評> 著者は1947年生まれ、東京大学大学院法学研究を卒業後、東京大学教授、国連大使などを経て、2015年から国際協力機構(JICA)理事長。
    平易な文章(うまいとは言えないが)で、専門的なことも補足説明しているので、一般の読者にも読みやすいと思う。北岡氏は明治維新を「日本が直面したもっとも重要な課題に、もっともすぐれた才能が、全力で取り組んでいた」(本書「あとがき」) と絶賛しており、本文でも随所に明治維新を美化するような表現が出てくるが、時々オーバーランする。例えば、{(壬午事変と甲甲事変で)日本は清国に敗れた。その理由は海軍力の差であった。当時清国は定遠、鎮遠など、世界最大級の7000トン級の船を保有していたのに対し、日本は最大で4000トン級だった。}(本書P251)とあるが、この2つの事変は朝鮮の内乱で複雑な事情があり、単純に清国に敗れたということには違和感があるし、定遠、鎮遠が就役したのはこれら事変の後である。
    北岡氏は近代日本史への造詣も深いようだし、本書で参照している史資料は一次資料も含めて膨大な量にのぼっており、史実を大きく取り違えているところはなさそうだが、例えば、攘夷を過激化させた孝明天皇についてはほとんど触れていない、など歴史書として読むには難がありそうである。明治維新を愛する人向けのノンフィクション「明治維新物語」としての価値はあると思う。

君塚直隆「近代ヨーロッパ国際政治史」、有斐閣、2010年10月30日

  • <寸評> 著者は1967年生まれ、関東学院大学国際文化学部教授、専門はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。この本は、神聖ローマ帝国皇帝カール5世(在位1519-56年)の時代から第1次世界大戦(1914-18年)までのヨーロッパの国際政治を対象にしている。国際政治といってもその多くは戦争であるが、戦史ではなく、戦争に至る経緯やその影響などを簡潔、リズミカルに描いており、とても分かりやすく読みやすい。

久保田哲「帝国議会」、中央公論新社、2018年12月1日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は中公新書(2018/6/25)。著者は1982年生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒業、現在は武蔵野学院大学准教授、専攻は近現代日本政治史。幕末の「公議・公論」に始まり、民撰議院の要求、元老院の開設を経て明治憲法の制定、帝国議会の設立にいたる経緯を全体の半分ほどの紙数を使って述べたあと、明治憲法と初期の帝国議会の史実とそれに対する評価がわかりやすく述べられている。この分野の入門書として良いと思う。

黒岩比佐子「日露戦争 勝利のあとの誤算」、文春新書、2005年10月20日

  • <寸評> 著者は1958年生まれのノンフィクション・ライターで、歴史研究者ではない。この本は、日露戦争後に起きた「日比谷焼討事件」と、その後1910年の大逆事件までの日本社会の動きを新聞などの史料をもとに描いたもので、筆者独自の考えは随所に出てくるが、その根拠とした史料などは明確になっており、ジャーナリズムや庶民の動きを知ることができる。

栗生沢猛夫「図説 ロシアの歴史」、河出書房新社、2010年5月30日(初版)、2019年9月10日増補新装版

  • <寸評> 著者は1944年生まれ、北海道大学名誉教授で専門はロシア中近世史。近代ロシアの通史を書いた本は少ないが、この本は写真や絵画をふんだんに使って、とても読みやすく編集されており、ロシア史の入門書として最適と思われる。

小林道彦「桂太郎」、ミネルヴァ書房、2006年12月10日

  • <寸評> 著者は1956年生まれ、執筆時点では北九州市立大学教授、専門は日本政治外交史。桂太郎は周知のように軍人出身で総理大臣になり、それも歴代最長の在任期間を誇るが、著者が「日英同盟、日露戦争、韓国併合を主導」と言うように、日本の帝国主義の基盤を築いた、といってよいだろう。この本は、その生い立ちから死までを書いているが、全編に漂っているのは暗い空気である。

小林道彦「近代日本と軍部」、講談社現代新書、2020年2月20日

  • <寸評> 著者は1956年生まれ、執筆時点では北九州市立大学教授、専門は日本政治外交史。本書は、日本近代(1868-1945年)における政治権力としての軍部の通史である。筆者は、軍部の動きを感情的にならず冷静に見つめているように感じる。その筆者が「日露戦争後の日本は"国のかたち"を真剣に検討することなしに大陸国家への道を歩み始め、帝国主義の報復を自ら招き寄せた。日露戦争の勝利という「目もくらむような成功体験」は、国家的自己肯定の培養基となり、国政改革に向けての気運は急速にしぼんでいった」と、述べている。

佐々木雄一「近代日本外交史」、中公新書、2022年10月25日

  • <寸評> 著者は1987年生まれ、執筆時点は首都大学東京法学部助教授、専攻は日本政治外交史。本書はペリー来航から日中戦争あたりまでの長い期間を対象にしており、そのためか、的を絞り切れていない印象を受けた。

高橋秀直「日清戦争への道」、東京創元社、1995年6月30日

  • <寸評> 著者は1954年生まれ、執筆時点で京都大学文学部助教授、日本近代政治史専攻。壬午事変(1882年)から、日清戦争開戦直後(1894年夏)までの経緯を詳細に検討し、日清戦争に至る明治国家の歩みとして、①明治政府はこの時期、大陸国家化を一貫してめざしていたのか、②日本の経済発展に大陸国家化は不可欠あるいはそれを促進するものだったのか、③この時期の国際状勢は帝国主義国か植民地か、の二者択一を迫るものだったのか、というテーマを中心にして、実証的かつ論理的に記されており、全部でA5版580頁にも及ぶ大作である。

瀧井一博「文明史のなかの明治憲法」、ちくま学芸文庫、2023年3月10日

  • <寸評> 原本(講談社、2003/12/10)の増補版。著者は、1967年生まれ、国際日本文化研究センター教授、専門は法制史。この本は、次の6つのテーマで構成されている。①岩倉使節団の憲法体験、②伊藤博文のドイツ遊学、③山県有朋の憲法観、④外国人から見た明治憲法(大日本帝国憲法)、⑤大久保利通の憲法観、⑥伊藤博文にとっての明治憲法。山県有朋のように国民が政治に参加す立憲政体を嫌った政治家もいたけれど、当時の世界の法学者などからは一定の評価を得ており、伊藤博文も「主権は天皇にあり」と言いつつも、将来的に国民の政治参加を望んでいた、という。もう一歩踏み込んで、なぜ明治憲法下で軍国主義に向かって突っ走ることが出来たのか、を分析して欲しかった。

瀧井一博「伊藤博文 知の政治家、中公新書、2010年4月25日

  • <寸評> 著者は1967年生まれ、京都大学法学部卒業、2006年兵庫県立大学経営学部教授、2007年より国際日本文化研究センター准教授。本書により第32回サントリー学芸賞受賞。伊藤之雄氏のゼミでの出会いが伊藤博文に本格的に取り組むきっかけになったという。伊藤之雄氏の研究成果を生かしつつ、「文明、立憲国家、国民政治の3つの視覚から伊藤博文の生涯をたどり、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかに」したものである。それは、「強大な天皇大権を定めた明治憲法を創って軍国主義への道を開いた」政治家としての伊藤博文ではなく、「近代日本を代表するデモクラシーの政治家」=知の政治家として実証的に論じている。

谷寿夫「機密日露戦史」、原書房、2004年5月25日(原本は1925年)

  • <寸評> 著者は1882(明治15)年生れ、日露戦争参加後、陸軍大学校を卒業後、参謀本部などを経て1919(大正8)年から陸軍大学の教官を務め、日中戦争開始時第6師団長(中将)として南京攻略戦に参加したが、この時の南京事件の責任を問われて戦後1947年南京軍事法廷で死刑判決を受けて処刑された。他の師団長クラスが他界していたため、彼がその罪を一身に背負わされた可能性もある。この本は彼が陸軍教官時代に教材として作ったが、長らく機密扱いされていたものを編者の稲葉正夫氏が、文語体の「軍用文」を当用漢字とひらがなに置き換えるなど、原文を尊重しつつ読みやすくしたものである(とは言っても読みにくい)。A5版全700ページ近い大作で、主として、陸軍上層部の動きや作戦計画などについて記載されており、本人の感想なども一部にある。

中本崇智「板垣退助」、中公新書、2020年11月25日

  • <寸評> 著者は1978年生まれ、中京大学歴史文化学科教授、専門は日本近代史。板垣退助は明治の自由民権運動の指導者で著名な人物だが、その人物史は極めて少なく、新書版としてコンパクトにまとめられたこの本は価値がある。板垣は1837年生まれ、青年期まで封建社会で教育を受けており、天皇を絶対的存在としてあがめるなど、初期の「自由民権」運動においては、自由・平等を求めた活動というよりも、反政府運動あるいは自身の権力獲得のための材料としてそうしたテーマを利用したのではないか、という印象を受けた。

中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」、河出書房新社、2013年4月30日(電子書籍)

  • <寸評> 本書の原本である、カラー版「世界の歴史第21巻」は1970年1月刊、その文庫版(2004年9月30日)をもとに電子書籍化されているので、著者も述べているように、本書が提示している歴史観は1960年代末のものである。それから50年以上たっているが、私が読んだ限りで、違和感はほとんど感じられない。
    本書は、ベルリン会議(1878年)からワシントン会議(1922年)までの世界の全体的な動きを対象にしている。この時代はまさに「帝国主義時代」と呼ばれた時代であり、イギリス、フランス、ロシア、ドイツなどの「列強」が、相互に牽制しあいながら、自国の利権を拡大するために、他の国の領土や利権を武力で獲得もしくは取引していた時代だった。筆者はその様子をとてもわかりやすく解説している。

成田龍一「大正デモクラシー」、岩波新書、2007年4月20日

  • <寸評> 未

原田敬一「日清・日露戦争」、岩波新書、2007年2月20日

  • <寸評> 著者は1948年生まれ、大阪大学大学院文学研究科博士課程卒業、2007年時点で佛教大学文学部教授、専攻は日本近代史。この本は帝国議会が開設された1890年から韓国併合が行われた1910年までを対象にしているが、その視点は「アジアと日本の国家と社会に二つの戦争がいかに大きな変化をもたらしたのか」を考えることだと言う。もう少し具体的に言えば、日本は1945年の敗戦という外圧によって台湾や朝鮮という植民地を開放したが、そもそもそれらの植民地は日清・日露の戦争で獲得したものであり、なぜ、どのようにして植民地を獲得したのか、をきちんと理解する必要がある、という問題意識が出発点になっている。

原田敬一「日清戦争論」、本の泉社、2020年4月24日

  • <寸評> 著者については上記を参照。著者はプロローグで次のように述べている。伊藤博文や陸奥宗光は何を考えて戦争に踏み切ったのか、日本の軍隊は外国でどのように戦ったのか、そこには焦点をあてず、長いスパンで日本の戦争をとらえなおす第1部、日清戦争を受けとめた国民を考察した第2部、日清戦後の日本を述べた第3部の構成とした。その意味で本書はいわゆる司馬史観への反論である。要は、「明治・大正の日本はまともだったが、昭和の日本が道を誤った」という司馬史観は誤りで、戦争への道は日清戦争から始まった、という。

半藤一利「日露戦争史1」、平凡社ライブラリー、2016年4月8日

  • <寸評> 半藤一利氏は、1930年生まれの作家、歴史家ではないが昭和史関係の著作が多数ある。2021年1月逝去。この本は2011年6月、著者が81歳のときに平凡社の総合文芸誌「こころ」に連載されたものを文庫化したものである。80歳を超えてこのような大作を出したことには敬意を表したい。私は、この本には2つの特徴があると思う。一つは昭和史、特に太平洋戦争との対比――つまり太平洋戦争時の政治家や軍人たちのだらしなさと対比していること、もう1点は民衆――著者は「民草」という言葉を多用しているが、民衆を見下しているようで抵抗がある…――の視点を取り込んでいることである。
    また、時系列に忠実に書かれているので、時間的に長期にわたる事実は細切れにされてあちこちに出てくる。臨場感を出すにはそれがいいのかもしれないが、それまでの経緯を覚えきれないとページを前にひっくり返してみなければならなくなることも難点である。
    第1巻は、日英同盟締結前後(1901年頃)から日露戦争開戦(鴨緑江渡河、旅順港閉塞戦など、1904年5月頃)までが対象である。

半藤一利「日露戦争史2」、平凡社ライブラリー、2016年5月10日

  • <寸評> 第2巻は、旅順攻防戦が中心。(1904年初~1905年初)

半藤一利「日露戦争史3」、平凡社ライブラリー、2016年6月10日

  • <寸評> 第3巻は、日本海海戦とポーツマス講和交渉が中心。(1905年初~1906年初)

半藤一利、秦郁彦,他「徹底検証 日清・日露戦争」、文春新書、2011年10月20日

  • <寸評> 半藤一利(1930生 作家)、秦郁彦(1932生 歴史学者)、原剛(1937生 軍事史研究家)、松本健一(1946生 作家・評論家)、戸高一成(1948生 呉市海事歴史資料館 館長他)の5人による対談集。

坂野潤治「明治憲法史」、ちくま新書、2020年9月10日

  • <寸評> 著者は1937年生まれ、東京大学名誉教授、専攻は日本近代政治史。2020年10月14日に83歳で亡くなっており、この本が最後の著作になったと思われるが、80歳を越えて書かれたものとは思えないほど、気迫のある文章である。明治憲法の設立経緯を簡単に記したあと、その構造・特徴などを述べ、大正デモクラシーまでにおよそ半分の紙数を割き、残り半分を浜口雄幸政権の時代から、統帥権干犯問題、天皇機関説論争、軍による憲法蹂躙、などを経て日中戦争で議会政治が崩壊するまでに費やしている。著者は終章で次のように述べている。{ 明治憲法の時代は、ほとんどそのまま、“戦後憲法の時代”に引き継がれており、時には“明治憲法の時代”の方が優れていたと感じることさえある。8年強の“総力戦の時代”を明治憲法に負わせてしまえば、戦争責任は放棄できるが、同時に誇るべき日本近代の歴史も失ってしまう。それよりは”明治憲法の時代”と”総力戦の時代”と”日本国憲法の時代"の3つの時代に分けた方がいいように思う。}と述べており、とっても興味深い。ただ、私はさらに一歩踏み込んで、なぜ「総力戦の時代」が成立してしまった、のかを分析して欲しかった、と思うが、彼にはその時間がなかったのが残念。

牧原憲夫「民権と憲法」、岩波新書、2006年12月20日

  • <寸評> 著者は1943年生まれ、東京都立大学博士課程修了後、東京経済大学教員を経て2009年3月退職、専門は日本近代史。本書は、近代日本の国家と社会の枠組みが出来上がった時期として、西南戦争(1877年)後から明治憲法発布(1889年)の頃までをとりあげ、自由民権運動の高揚と敗北によって帝国憲法が出来上がった、という基本的なストーリーをもとに、自由民権運動、民衆の生活や意識、政府の活動などを描いたものである。簡潔でわかりやすい文章はとっても読みやすい。

松沢裕作「自由民権運動」、岩波新書、2016年6月21日

  • <寸評> 著者は1976年生まれ、慶應義塾大学経済学部准教授、専門は近世・近代移行期の村落社会史研究。自由民権運動というと現代の自由と民主主義のイメージを想像する人もいるかもしれないが、明治初期のこの運動は「近世身分制社会」にかわる新しい社会を作り出そうとする運動、と著者が位置付けているように、実際に行われたのは単なる反政府運動的なものや百姓一揆のようなものまで、「自由民権」という現代人の感覚からは程遠い運動が少なくない。この本で取り上げているのは、戊辰戦争後から大日本帝国憲法の発布と国会の召集が決定し、板垣退助が創設した自由党が解散する1884(明治17)年頃までを対象にしており、自由民権運動の入門書として価値ある一冊だと思う。

村瀬信一「帝国議会」、講談社、2015年11月10日

  • <寸評> 著者は1954年生まれ、東京大学文学部日本史学科卒業、文学博士、皇学館大学及び帝京平成大学助教授を経て、執筆時は文部科学省主任教科書調査官。本書はまず、帝国議会の発足と政党の出現・発展などを述べた後、代議士の出自、選挙の様子、弁論力、失言・暴言・暴力などを含めた課題や、初期から中期の帝国議会の活動状況を紹介し、議会の政治への影響力が一般に想像する以上にあったことを強調する。後半は昭和初期から始まる戦時体制の中での帝国議会の活動や、選挙制度・議院制度の改革への取り組みを紹介し、最後に戦後GHQによる議会改革について批判的な評価を述べている。
    著者は、帝国議会の役割に一定の評価を与えた上で、その問題点等も指摘し、最後に「現在の国会をよりよく”見る”ためにも、帝国議会という過去を直視する必要があるのではないか」と投げかけている。そのことには大賛成だが、帝国議会(明治憲法も含む)の現代につながる根源的問題にも触れて欲しかった、というのが私の感想である。

明治維新史学会編「講座 明治維新 第4巻 近代国家の形成」、有志社、2012年3月20日

  • <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻では、征韓論政変から自由民権運動までのテーマを集めている。
    総論: 近代国家の形成(勝田政治)、①文明開化政策の展開(今西一)、②征韓論政変と大久保政権(勝田政治)、③近代化と士族(猪飼隆明)、④自由民権運動と明治14年の政変(大日方純夫)、⑤太政官制の構造と内閣制度(中野目徹)、⑥国境の画定(麓慎一・川畑恵)、⑦明治天皇の形成(坂本一登)

明治維新史学会編「講座 明治維新 第5巻 立憲制と帝国への道」、有志社、2012年11月10日

  • <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻では、西南戦争(1877年)後から20世紀に入る頃までの時期を対象に、以下7本の主として立憲体制の成立に関する論文を集めている。
    総論: 立憲制と帝国への道(原田敬一)、①自由民権運動と憲法論(新井勝紘)、②初期議会と民党(飯塚一幸)、③松方財政から軍拡財政へ(池田憲隆)、④日清戦争(大谷正)、⑤19世紀末日本統治期の台湾(栗原純)、⑥軍隊と社会(一ノ瀬俊也)、⑦近代法体系の成立(三阪佳弘)

明治維新史学会編「講座 明治維新 第12巻 明治維新史研究の諸潮流」、有志社、2018年8月30日

  • <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻に記載の論文と執筆者は次の通り。
    Ⅰ-1維新政治史の研究(三谷博)、Ⅰ-2 明治維新論争とマルクス主義史学(佐々木寛司)、Ⅱ-1 立憲国家と明治維新(勝田政治)、Ⅱ-2 資本主義と明治維新(谷本雅之)、Ⅱ-3 帝国と明治維新(小風秀雅)、Ⅱ-4 明治維新はなぜ可能だったのか(高木不二)、Ⅱ-5 地域社会形成史と明治維新(奥村弘)、Ⅱ-6 女性史と明治維新(薮田貫)、Ⅱ-7 フランス絶対王政と幕藩体制(岡本明)

森万世子「韓国併合」、中公新書、2022年8月25日

  • <寸評> 未

山室信一「日露戦争の世紀」、岩波新書、2005年7月20日

  • <寸評> 著者は1951年生まれ。東京大学法学部卒業、執筆時点で京都大学人文科学研究所教授、専攻は法政思想連鎖史。本書でいう「世紀」は、日露和親条約(1855年)から日露戦争(1905年~)に至る50年間と、それからおよそ50年後の第2次世界大戦終了までを示している。前半については、なぜ和親条約から戦争に至ったのか、という視点で考え、後半については「戦争と革命の世紀」といわれた20世紀の出発点に日露戦争があったという視点で見直す、というのが本書の狙いだ、と「はじめに」で述べている。したがって、一つ一つの事象を分析するというのではなく、全体の流れをどう見るか、という内容になっている。そして、著者は最後のページで中江兆民の言葉を借りて次のように述べている。(兆民は)「言辞としては陳腐、実行としては新鮮なる非戦」という理想を迂闊なまでに守り、実行するか否かは、21世紀の日本人に課せられた選択として、いま私たちの前に現れてきている。

横手慎二「日露戦争史」、中公新書、2005年4月25日

  • <寸評> 著者は1950年生まれ。東京大学教養学部卒業、同博士課程中退後、外務省調査員としてモスクワの日本大使館に勤務、本書執筆時点で慶應義塾大学法学部教授。本書は、義和団事件あたりからポーツマス条約、その後の日露の動き、第1次大戦以降への影響などについて、ロシア側の視点もふんだんに取り込みつつ書かれている。日露戦争を知るうえで必読の書である。

吉田裕「続・日本軍兵士」、中公新書、2025年1月25日

  • <寸評> 著者は、1954年生まれ、執筆時点で一ツ橋大学名誉教授、専攻は日本近現代軍事史・政治史。ベストセラーの前作(2017年初版)の続編。「本書では、無残な大量死が発生した歴史的背景について、明治以降の帝国陸海軍の歴史に即しながら、できる限り具体的に明らかにしたい」と著者は"はじめに"で述べている。

歴史学研究会編「強者の論理―帝国主義の時代」、東京大学出版会、1995年10月25日(初版)

  • <寸評> 16人の歴史学者がテーマを分担し、全15件の論稿で構成される。読者には歴史研究を志す学生や研究者のタマゴを対象にしていると思われ、一定の基礎知識がないと読むのに苦労する。論稿は、帝国主義のきっかけになった「大不況」から、世界の植民地競争の状況、南アフリカ戦争、ロシアの中央アジア植民地、東アジアと日本、黄禍論、ホブソンの帝国主義論、第一世界大戦関連、ロシア革命、など、いずれも専門的なもの。

渡辺惣樹「朝鮮開国と日清戦争」、草思社文庫、2016年10月10日

  • <寸評> 著者は、1954年生まれ、東京大学経済学部卒業の日本近現代史研究家でカナダ在住。この本は、明治6年政変(征韓論政変)から日清戦争直後までの日朝間の動きをアメリカ側の史料を中心にまとめたもので、「明治の指導者は朝鮮王朝に抑制的な外交を展開していた」ことを強調している。日清戦争はあくまでも朝鮮の独立を確保するための戦争だった、というのが著者の主張ようで日本の正当性を強調しているが、なぜ朝鮮の独立を掲げたのか、については一切ふれていないし、朝鮮や台湾民衆との衝突にもほとんどふれておらず、この本に歴史学的意義を見出すことはできない。