参考文献_第2章 大日本帝国 関係
以下、著者名のアイウエオ順(外国人の著者は日本語読み)で掲載しています。
※1 文献名をクリックすると<寸評>が表示されます。
※2 著者の経歴はその著書に記載されている内容をもとにしています。
一坂太郎「木戸孝允」、山川出版社(日本史リブレット)、2010年7月20日
- <寸評> 著者は1966年生まれ、現在は萩博物館特別学芸員、専攻は日本近代史。この本はA5版87頁のコンパクトサイズで、木戸孝允の誕生から死までを要領よく、簡潔な文章でとても読みやすくわかりやすく、まとめている。
伊藤之雄「伊藤博文 近代日本を創った男」、講談社学術文庫、2015年3月10日(原本は2009年)
- <寸評> 著者は1952年生まれ、京都大学大学院法学研究科教授。法学部出身だが、山県有朋や明治天皇、原敬などの人物史も書いている。著者によれば、伊藤博文(1841-1909)についての従来のイメージは、(1)木戸、大久保など有力者の間を巧みに渡り歩いて出世した軽佻浮薄な人物、(2)保守反動的な憲法を創る中心となって日本の民主化の可能性をせばめ韓国の民族主義を弾圧したために暗殺された、というものだった。本書において、筆者は史料を丹念に精査し、伊藤博文は理念を持った政治家であり、剛凌強直な性格の人間だった、と結論付けている。
伊藤之雄氏の教え子でもある瀧井氏の著書は、伊藤博文の政治・思想に焦点をあてているが、伊藤之雄氏のこの著書は私生活や伊藤の政治全般について史料を提示ながらていねいに伊藤の生涯を描き出している。
伊藤之雄「山県有朋 愚直な権力者の生涯」、文春新書、2009年2月20日
- <寸評> 著者については上記を参照。山県有朋(1838-1922)は、1871年に兵部省の実質トップになって以来、西南戦争、日清・日露から第1次大戦までの長期にわたって軍(特に陸軍)のトップとして君臨し、軍の組織や軍政及び風土の形成を主導した。この本は山県有朋の生涯を私生活を含めてわかりやすく書いており、日本軍の成立過程を知ることができる。のちに満州事変などで暴走する日本軍は山県がその礎を礎を築いた、とか、山県は「狡猾・陰険・陰気」な人柄だったとか、悪いイメージで語られることが多いが、伊藤氏は「山県の陸軍は統制のとれた組織でそれがのちの暴走につながったわけではない」、また、人柄については「自分の利害や人気を勘定に入れずにやるべきと考えることを全力でやる”愚直”という言葉がふさわしい」と言う。
人柄の当否はさておき、山県の死後10年も経たずに“暴走”が始まる組織を作った結果責任は逃れられないのではないだろうか。
井上寿一編「日本の外交 第1巻」、岩波書店、2013年2月20日
大石眞「日本憲法史」、講談社学術文庫、2020年1月9日(原本は2005年)
- <寸評> 著者は1951年生まれ、京都大学名誉教授、専門は憲法学、議会法、憲法史。不平等条約の締結から、明治憲法の成立過程とその運用、さらに現行の日本国憲法の制定・運用をまでを対象にした力作である。法律に関する専門的な知識も多少要求され、難解な部分もあるが、記述内容全体が上手に構造化されており、少し頭を回転させれば理解できることが多い。
岡義武「明治政治史(上)」、岩波文庫、2019年2月15日(原本は1962年11月刊)
- <寸評> 著者・岡義武(1902-90)は、1926年東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、吉野作造に師事してヨーロッパ政治史を研究、その後近代日本の政治史に取り組み東大教授を経て1963年退官後も日本学士院会員など、20世紀を代表する歴史学者・政治学者といってよい。著者にはリベラル知識人としてのイメージとニヒリスティックな傍観者というイメージがつきまとっている。(本書「解説」より)
著者は明治維新を「民族革命」と位置付ける。{ 民族革命とは、民族の独立確保あるいは民族の対外的勢力拡大を目的としてなされる国内政治体制の変革をいう。}(本書P131) 幕府の開国策も長州などの攘夷論も、その根は同じ独立確保にあるとする。
上巻では幕末から明治憲法制定までの史実を実証的に追跡しながら、「なぜ、それが起きたのか」を分析している。特に力を入れているのが自由民権運動以降で、それまで独立の確保の意識をほとんど持たなかった民衆を、政府はどのように「国民」にしていくか、について教育勅語や鹿鳴館などの洋化運動の位置付けを分析する。
明治維新史としては古典に属する本で、{ 個々の論点については今日の研究水準からすれば再考されるべきものも少なくないだろう。}(本書「解説」P488) が、一方で他の研究者とは異なる視点でみる明治史に新鮮さを感じる。
岡本隆司「清朝の興亡と中華のゆくえ」、講談社、2017年3月21日
- <寸評> 著者は1965年生まれ、京都大学大学院文学研究科卒業、執筆当時は京都府立大学教授、専攻は近代アジア。あとがきで、「清朝の興亡をたどることで、戦乱から平和に向かう17世紀・繁栄をきわめる18世紀・平和から相克に向かう19世紀の東アジアが一望できる」と述べており、そのことに違和感は全く感じないが、この見方は学界では異端だという。一般にこうした歴史書は、史実を丁寧に記述した上で、それをどう見るかを簡単に記述するパターンが多いが、この著者の場合、史実の記載は必要最小限にとどめ、どう見るか、どう理解するか、ということに力点を置いている。それ自身は歓迎すべきことなのだが、事実関係の記述が簡単なので因果関係がよく理解できない場合もある。
勝田政治「大政事家 大久保利通」、角川文庫、2015年3月25日(原本は2003年)
- <寸評> 著者略歴については上記を参照。著者は「本書は評伝ではない」として、大久保利通(1830~1878)の私生活などについては一切書かず、1862年の寺田屋事件の頃から暗殺される1878年までの政治活動について記している。この間の大久保の政治活動についてはわかりやすく書かれているが、やや美化しすぎているように感じる。
姜在彦「新訂 朝鮮近代史」、平凡社、1986年1月16日/1994年8月1日(新訂版)
- <寸評> 著者の姜在彦(カン・ジェオン)は1926年朝鮮(済州島)生まれ、執筆当時は花園大学教授で専門は朝鮮近代史・思想史、朝鮮戦争後は日本に在住し2017年没。(Wikipedia「姜在彦」より) 本書は19世紀から第2次世界大戦により朝鮮が日本から解放されるまでの政治史を中心に書かれている。日本による植民地支配は、「民族内部を分割して統治する方法によって、同族内部の相互不信と疑心暗鬼による人間性の破壊までもたらし、その後遺症は今日においてさえ癒えることがない」と述べる一方で、朝鮮側での歴史認識にも問題があることを指摘している。(あとがきP323-P324)
見慣れない漢字がたくさん登場するなど、読みにくい部分もあるが、価値ある一冊だと思う。
北岡伸一「明治維新の意味」、新潮選書、2020年9月20日
- <寸評> 著者は1947年生まれ、東京大学大学院法学研究を卒業後、東京大学教授、国連大使などを経て、2015年から国際協力機構(JICA)理事長。
平易な文章(うまいとは言えないが)で、専門的なことも補足説明しているので、一般の読者にも読みやすいと思う。北岡氏は明治維新を「日本が直面したもっとも重要な課題に、もっともすぐれた才能が、全力で取り組んでいた」(本書「あとがき」) と絶賛しており、本文でも随所に明治維新を美化するような表現が出てくるが、時々オーバーランする。例えば、{(壬午事変と甲甲事変で)日本は清国に敗れた。その理由は海軍力の差であった。当時清国は定遠、鎮遠など、世界最大級の7000トン級の船を保有していたのに対し、日本は最大で4000トン級だった。}(本書P251)とあるが、この2つの事変は朝鮮の内乱で複雑な事情があり、単純に清国に敗れたということには違和感があるし、定遠、鎮遠が就役したのはこれら事変の後である。
北岡氏は近代日本史への造詣も深いようだし、本書で参照している史資料は一次資料も含めて膨大な量にのぼっており、史実を大きく取り違えているところはなさそうだが、例えば、攘夷を過激化させた孝明天皇についてはほとんど触れていない、など歴史書として読むには難がありそうである。明治維新を愛する人向けのノンフィクション「明治維新物語」としての価値はあると思う。
久保田哲「帝国議会」、中央公論新社、2018年12月1日(電子書籍)
- <寸評> 原本は中公新書(2018/6/25)。著者は1982年生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒業、現在は武蔵野学院大学准教授、専攻は近現代日本政治史。幕末の「公議・公論」に始まり、民撰議院の要求、元老院の開設を経て明治憲法の制定、帝国議会の設立にいたる経緯を全体の半分ほどの紙数を使って述べたあと、明治憲法と初期の帝国議会の史実とそれに対する評価がわかりやすく述べられている。この分野の入門書として良いと思う。
佐々木雄一「近大日本外交史」、中公新書、2022年10月25日
瀧井一博「文明史のなかの明治憲法」、ちくま学芸文庫、2023年3月10日
- <寸評> 原本(講談社、2003/12/10)の増補版。著者は、1967年生まれ、国際日本文化研究センター教授、専門は法制史。この本は、次の6つのテーマで構成されている。①岩倉使節団の憲法体験、②伊藤博文のドイツ遊学、③山県有朋の憲法観、④外国人から見た明治憲法(大日本帝国憲法)、⑤大久保利通の憲法観、⑥伊藤博文にとっての明治憲法。山県有朋のように国民が政治に参加す立憲政体を嫌った政治家もいたけれど、当時の世界の法学者などからは一定の評価を得ており、伊藤博文も「主権は天皇にあり」と言いつつも、将来的に国民の政治参加を望んでいた、という。もう一歩踏み込んで、なぜ明治憲法下で軍国主義に向かって突っ走ることが出来たのか、を分析して欲しかった。
瀧井一博「伊藤博文 知の政治家」、中公新書、2010年4月25日
- <寸評> 著者は1967年生まれ、京都大学法学部卒業、2006年兵庫県立大学経営学部教授、2007年より国際日本文化研究センター准教授。本書により第32回サントリー学芸賞受賞。伊藤之雄氏のゼミでの出会いが伊藤博文に本格的に取り組むきっかけになったという。伊藤之雄氏の研究成果を生かしつつ、「文明、立憲国家、国民政治の3つの視覚から伊藤博文の生涯をたどり、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかに」したものである。それは、「強大な天皇大権を定めた明治憲法を創って軍国主義への道を開いた」政治家としての伊藤博文ではなく、「近代日本を代表するデモクラシーの政治家」=知の政治家として実証的に論じている。
中本崇智「板垣退助」、中公新書、2020年11月25日
- <寸評> 著者は1978年生まれ、中京大学歴史文化学科教授、専門は日本近代史。板垣退助は明治の自由民権運動の指導者で著名な人物だが、その人物史は極めて少なく、新書版としてコンパクトにまとめられたこの本は価値がある。板垣は1837年生まれ、青年期まで封建社会で教育を受けており、天皇を絶対的存在としてあがめるなど、初期の「自由民権」運動においては、自由・平等を求めた活動というよりも、反政府運動あるいは自身の権力獲得のための材料としてそうしたテーマを利用したのではないか、という印象を受けた。
坂野潤治「明治憲法史」、ちくま新書、2020年9月10日
- <寸評> 著者は1937年生まれ、東京大学名誉教授、専攻は日本近代政治史。2020年10月14日に83歳で亡くなっており、この本が最後の著作になったと思われるが、80歳を越えて書かれたものとは思えないほど、気迫のある文章である。明治憲法の設立経緯を簡単に記したあと、その構造・特徴などを述べ、大正デモクラシーまでにおよそ半分の紙数を割き、残り半分を浜口雄幸政権の時代から、統帥権干犯問題、天皇機関説論争、軍による憲法蹂躙、などを経て日中戦争で議会政治が崩壊するまでに費やしている。著者は終章で次のように述べている。{
明治憲法の時代は、ほとんどそのまま、“戦後憲法の時代”に引き継がれており、時には“明治憲法の時代”の方が優れていたと感じることさえある。8年強の“総力戦の時代”を明治憲法に負わせてしまえば、戦争責任は放棄できるが、同時に誇るべき日本近代の歴史も失ってしまう。それよりは”明治憲法の時代”と”総力戦の時代”と”日本国憲法の時代"の3つの時代に分けた方がいいように思う。}と述べており、とっても興味深い。ただ、私はさらに一歩踏み込んで、なぜ「総力戦の時代」が成立してしまった、のかを分析して欲しかった、と思うが、彼にはその時間がなかったのが残念。
牧原憲夫「民権と憲法」、岩波新書、2006年12月20日
- <寸評> 著者は1943年生まれ、東京都立大学博士課程修了後、東京経済大学教員を経て2009年3月退職、専門は日本近代史。本書は、近代日本の国家と社会の枠組みが出来上がった時期として、西南戦争(1877年)後から明治憲法発布(1889年)の頃までをとりあげ、自由民権運動の高揚と敗北によって帝国憲法が出来上がった、という基本的なストーリーをもとに、自由民権運動、民衆の生活や意識、政府の活動などを描いたものである。簡潔でわかりやすい文章はとっても読みやすい。
松沢裕作「自由民権運動」、岩波新書、2016年6月21日
- <寸評> 著者は1976年生まれ、慶應義塾大学経済学部准教授、専門は近世・近代移行期の村落社会史研究。自由民権運動というと現代の自由と民主主義のイメージを想像する人もいるかもしれないが、明治初期のこの運動は「近世身分制社会」にかわる新しい社会を作り出そうとする運動、と著者が位置付けているように、実際に行われたのは単なる反政府運動的なものや百姓一揆のようなものまで、「自由民権」という現代人の感覚からは程遠い運動が少なくない。この本で取り上げているのは、戊辰戦争後から大日本帝国憲法の発布と国会の召集が決定し、板垣退助が創設した自由党が解散する1884(明治17)年頃までを対象にしており、自由民権運動の入門書として価値ある一冊だと思う。
村瀬信一「帝国議会」、講談社、2015年11月10日
- <寸評> 著者は1954年生まれ、東京大学文学部日本史学科卒業、文学博士、皇学館大学及び帝京平成大学助教授を経て、執筆時は文部科学省主任教科書調査官。本書はまず、帝国議会の発足と政党の出現・発展などを述べた後、代議士の出自、選挙の様子、弁論力、失言・暴言・暴力などを含めた課題や、初期から中期の帝国議会の活動状況を紹介し、議会の政治への影響力が一般に想像する以上にあったことを強調する。後半は昭和初期から始まる戦時体制の中での帝国議会の活動や、選挙制度・議院制度の改革への取り組みを紹介し、最後に戦後GHQによる議会改革について批判的な評価を述べている。
著者は、帝国議会の役割に一定の評価を与えた上で、その問題点等も指摘し、最後に「現在の国会をよりよく”見る”ためにも、帝国議会という過去を直視する必要があるのではないか」と投げかけている。そのことには大賛成だが、帝国議会(明治憲法も含む)の現代につながる根源的問題にも触れて欲しかった、というのが私の感想である。
明治維新史学会編「講座 明治維新 第4巻 近代国家の形成」、有志社、2012年3月20日
- <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻では、征韓論政変から自由民権運動までのテーマを集めている。
総論: 近代国家の形成(勝田政治)、①文明開化政策の展開(今西一)、②征韓論政変と大久保政権(勝田政治)、③近代化と士族(猪飼隆明)、④自由民権運動と明治14年の政変(大日方純夫)、⑤太政官制の構造と内閣制度(中野目徹)、⑥国境の画定(麓慎一・川畑恵)、⑦明治天皇の形成(坂本一登)
明治維新史学会編「講座 明治維新 第5巻 立憲制と帝国への道」、有志社、2012年11月10日
- <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻では、西南戦争(1877年)後から20世紀に入る頃までの時期を対象に、以下7本の主として立憲体制の成立に関する論文を集めている。
総論: 立憲制と帝国への道(原田敬一)、①自由民権運動と憲法論(新井勝紘)、②初期議会と民党(飯塚一幸)、③松方財政から軍拡財政へ(池田憲隆)、④日清戦争(大谷正)、⑤19世紀末日本統治期の台湾(栗原純)、⑥軍隊と社会(一ノ瀬俊也)、⑦近代法体系の成立(三阪佳弘)
明治維新史学会編「講座 明治維新 第12巻 明治維新史研究の諸潮流」、有志社、2018年8月30日
- <寸評> 明治維新史に関する論文集。この巻に記載の論文と執筆者は次の通り。
Ⅰ-1維新政治史の研究(三谷博)、Ⅰ-2 明治維新論争とマルクス主義史学(佐々木寛司)、Ⅱ-1 立憲国家と明治維新(勝田政治)、Ⅱ-2 資本主義と明治維新(谷本雅之)、Ⅱ-3
帝国と明治維新(小風秀雅)、Ⅱ-4 明治維新はなぜ可能だったのか(高木不二)、Ⅱ-5 地域社会形成史と明治維新(奥村弘)、Ⅱ-6 女性史と明治維新(薮田貫)、Ⅱ-7
フランス絶対王政と幕藩体制(岡本明)