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 参考文献

以下、著者名のアイウエオ順(外国人の著者は日本語読み)で掲載した。

※1 文献名をクリックすると<寸評>が表示される。

※2 著者の経歴はその著書に記載されている内容をもとにしている。

(1) 明石欽司「ウェストファリア条約 -その実像と神話」、慶應義塾大学出版会、2009年6月20日

  • <寸評> 著者は1958年生まれ、慶應義塾大学法学部教授。本書冒頭には次のように書かれている。{ 本書において筆者が試みた事柄は、伝統的に近代国際法や近代的欧州国際関係の「原点」とされてきた1648年の「ウェストファリア条約」の実体をよく知り、同条約を巡る伝統的評価(ウェストファリア神話)について問い直すことである。}
    ウェストファリア条約を国際法の視点から詳細に分析した大著である。

(2) 秋元英一「世界大恐慌 -1929年に何がおこったか」、慶應義塾大学出版会、2009年2月10日

  • <寸評> 著者は1943年生まれ、東京大学経済学部出身、千葉大学名誉教授。専攻はアメリカ経済史。世界大恐慌の経緯、原因、対策の評価などを経済学の視点で分析するともに、一部日本の事情とも比較している。一般の読者にもわかりやすいように書かれており、経済学の勉強にもなる。

(3) 浅田實「東インド会社 巨大商業資本の盛衰」、講談社現代新書、1989年7月20日、論創社、2014年2月25日

  • <寸評> 著者は1933年生まれ、東北大学西洋史学科卒業、創価大学名誉教授。専攻は英国近世史。イギリスの東インド会社を中心にして、東インド会社の設立から解散までを書いている。執筆したのはやや古いが、内容は現在認識されているものと変わらないようにみえる。

(4) アドルフ・ヒトラー著 平野一郎・将積茂 訳「わが闘争」(上下・続3冊合本版)、角川書店、2016年2月5日(電子書籍)

  • <寸評> 有名なヒトラーの著作。まるでヒトラーの演説を聞いているような気になってくる本である。言っていることを合理的に理解するというより、感覚に訴えてくるように感じる。とにかく、ヒトラーの思想の中心が人種主義にあることがよくわかる。

(5) アラン・テイラー著 橋川健竜訳「先住民vs帝国 興亡のアメリカ史――北米大陸をめぐるグローバル・ヒストリー――」、ミネルヴァ書房、2020年12月20日

  • <寸評> 著者は1955年生まれのアメリカ人歴史学者で、訳者によれば「北アメリカの植民地時代からアメリカ合衆国が独立したのち数十年間までの歴史に関する第一人者」である。本書も16世紀初頭にヨーロッパ人が北アメリカに入植してからアメリカ合衆国が独立する18世紀末までを主たる対象にしている。(独立戦争にはほとんど触れていない) したがって、内容は先住民(インディアン)とイギリス、スペイン、フランスの植民者――イギリス人が中心――の争いや生活などである。日本でインディアンといえば、西部劇に出てくる野蛮人のような印象が強いが、それはアメリカ人たちが自らの歴史を美化するために作り上げたドラマにすぎないことをこの本はわかりやすく示してくれる。また、七年戦争の勝利が独立革命のきっかけになったという主張はとても新鮮である。翻訳も自然な日本語になっていてとても読みやすい、2800円(税抜き)とやや高いが、価値ある一冊である。

(6) アリステア・ホーン著 大久保傭子訳「ナポレオン時代」、中公新書、2017年12月25日

  • <寸評> 著者は、1925年生まれ(2017年5月死去)のイギリス人著述家でフランス史関係の本を多数刊行している。本書はナポレオンが注目されるようになった1795年10月の反革命王党派による反乱の鎮圧から1821年にセントヘレナ島で死去するまでを描いている。ナポレオンが行ったことをつぶさに追求し分析するのではなく、フランス社会や文化への影響、あるいは民衆の反応などに多くが費やされている。ナポレオンの功績をどう評価するかは、現在でも様々だが、著者は「移りゆく時代の中、世界中でナポレオンは魅力的な存在であると同時に人々を困惑させる存在であり続けている」と、その評価は2面性があることを指摘している。

(7) アルフレッド・W・クロスビー著 佐々木昭夫訳「ヨーロッパの帝国主義」、ちくま学芸文庫、2017年4月10日

  • <寸評> アルフレッド・W・クロスビー氏は、1931年生まれのアメリカ人で、専門はアメリカ史、生態学的歴史学など。この本は副題に「生態学的視点から歴史を見る」とあるように、ヨーロッパ人が世界に侵出していくようになった経緯と結果を動植物、疫病などの面から分析している。一般的な意味での「帝国主義」の話はほとんどない。

(8) アレッサンドロ・バルベーロ著 西澤龍生監訳 石黒盛久訳「近世ヨーロッパ軍事史―ルネサンスからナポレオンまで」、論創社、2014年2月25日

  • <寸評> アレッサンドロ・バルベーロ氏は1959年生まれで、現在はイタリアの東ピエモンテ大学文哲学部の忠誠講座の正教授を務めており、小説も書いているという。本書は次の中世末期の戦争からナポレオン戦争までの戦争について、武器や戦略の変化、軍事行政などについて書かれているが、「ヨーロッパの軍事史に関する最先端の学問的成果を、それも軍事史にとどまらぬ社会史や文化史に渉る広角から、平易かつ明晰な言葉で叙述しきった好著」(訳者あとがき) である。

(9) アントニー・ビーヴァー著 平賀秀明訳「第二次世界大戦1939-45(上)」、白水社、2015年6月10日

  • <寸評> 著者は、1946年生まれ、イギリスのウィンチェスター・カレッジとサンドハースト陸軍学校で学び軍務についたのち戦史ノンフィクションの世界的ベストセラー作家として活躍している。
    本書は単行本3巻で構成され、3巻ともに500頁以上という大作である。第2次大戦全般を対象としているが、ヨーロッパでの戦争の方が分量も多い。戦史や政治だけでなく、当時の関係者たちの日記や回想録のようなものからの引用が多く、迫力のある内容になっている。歴史書というよりも、ノンフィクション物語のようだ。各巻16~18の章で構成され、時系列順にテーマ別になっているが、構造化されていないので、テーマによっては複数の章に分散しているものもあり、そのテーマの概要を知っていないと理解しにくい。また、ひとつの章が短くても20頁近く、長い章だと40頁くらいあって、その間段落タイトルもなくノベタンで書かれていて読みくいものもある。
    上巻は、なんとノモンハン事件(1939年6月)から始まり、ポーランド侵攻を経て、真珠湾攻撃(1941年12月)まで。

(10) アントニー・ビーヴァー著 平賀秀明訳「第二次世界大戦1939-45(中)」、白水社、2015年6月10日

  • <寸評> 中巻は、1941年末から42年初頭にかけての中国とフィリピンの戦闘から始まり、1943年暮れまでの独ソ戦と北アフリカ戦およびホロコースト関係が対象になっている。

(11) アントニー・ビーヴァー著 平賀秀明訳「第二次世界大戦1939-45(下)」、白水社、2015年6月10日

  • <寸評> 下巻は1943年9月のイタリア降伏からはじまり、ドイツの降伏、1945年8月の日本降伏までである。

(12) アンネッテ・ヴァインケ著 板橋拓己訳「ニュルンベルク裁判_ナチ・ドイツはどのように裁かれたのか」、中公新書、2015年4月25日

  • <寸評> 著者は1963年生まれ、2001年ポツダム大学で博士号取得、「人権と国際法の歴史」などに関するドイツ人研究者。本書は、「ニュルンベルク裁判の全体像を簡潔に解説した作品」であるが、よく知られている国際軍事法廷のみならず、その後に行われた「ニュルンベルク継続裁判」についても取り上げている。
    翻訳に当たり、日本語としての読みやすさを優先するため、文を複数にわけたり、学術論文ではあまりやらない意訳を取り入れたりした、とのことで、とても読みやすくなっている。

(13) 石川禎浩「革命とナショリズム 1925-1945」、岩波新書、2010年10月20日(初版)、2018年4月5日(第5刷)

  • <寸評> 著者は、1963年生まれ、京都大学人文科学研究所教授で、専門は中国近現代史。蒋介石の北伐から太平洋戦争終結までについて書かれているが、日中戦争開戦までに7割近い紙数が割かれている。

(14) 石田勇次「ヒトラーとナチ・ドイツ」、講談社現代新書、2015年6月20日(初版)、2022年5月23日(第15刷)

  • <寸評> 著者は、1957年生まれ、東京外国語大学、東京大学大学院社会学研究科(国際関係論)博士課程修了、専門はドイツ近現代史、ジェノサイド研究。この本はヒトラーの生誕から自殺するまでを描いているが、それはヒトラーの歴史であるとともに、1930年頃から第2次大戦の敗戦に至るドイツの歴史と重なる。この本では、ヒトラー政権誕生前後と、ホロコーストについて重点的に書かれている。日本人にはあまりなじみのない反ユダヤ思想についてわかりやすく書かれているが、ヒトラーとそれを支持した人々は”狂気”と言わざる得ない、というのが正直な感想である。

(15) 岩崎周一「ハプスブルク帝国」、講談社現代新書、2017年8月20日

  • <寸評> 著者は1974年生まれ、一橋大学社会学研究科卒業、京都産業大学外国語学部准教授。専門は「近世ハプスブルク史」。ハプスブルク家の出自から、神聖ローマ帝国、オーストリア帝国を経て現代に至るまでを描いた通史である。「意識したのは、学術性と読みやすさを両立させることである」(P4) とあるように、一般の人にもわかりやすく書かれているが、ヨーロッパ史に関する一定の予備知識は必要であろう。 ハプスブルク家の統治の歴史を否定的にみるか、肯定的にみるかは、冷戦終結など国際情勢の変化に応じて揺れ動いているようである。著者は「この国を特殊視せず、他のヨーロッパ諸国と共通の文脈の下で検討する」と述べており、確かにその通りに書かれているのだが、否定的な見方への反発が優っているような印象を受けた。

(16) 岩根圀和「物語 スペインの歴史」、中央公論社、2013年3月30日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は、2012年4月10日刊行(第9版)の中公新書。中世から現代までのスペインの歴史を物語風に書いていて、とても読みやすい。著者は1945年生まれのスペイン文学者(神奈川大学名誉教授)。イスラム支配時代、レコンキスタ(キリスト教徒による国土回復運動)、異端審問所までは庶民の信仰がリアルに描かれる。その後、セルバンテスの著書を参考にしながら、レパント海戦、無敵艦隊の敗北までで歴史の叙述は終わり、最後にフランコ独裁とバスク独立運動のテロが登場する。残酷なシーンが頻繁に出てくる。軽妙なタッチの文章で読み手を飽きさせないが、歴史書として期待したらがっかりするだろう。

(17) ウィリアム・H・マクニール著 増田義郎・佐々木昭夫訳「世界史(上)」、中公文庫、2008年1月25日(初版)

  • <寸評> 著者のウィリアム・マクニール博士(1917~2016年)は、カナダ生まれ、シカゴ大学で歴史学を学び、コネチカット大学で博士号を取得後、シカゴ大学で歴史学を教えていた。本書「世界史」A World History は、初版が1967年に刊行され、その後第4版まで改版された。(第4版の著者による序文は1998年4月付)日本語訳は第4版をもとにしている。 上巻は人類の始まりから、15世紀ごろまで、下巻はそれ以降1990年代までを対象にしており、文庫本で上下巻とも400ページを超える大作である。史実そのものよりもその原因や背景、意味や時代特性、さらにはその時代の思想、文化、芸術、科学技術、生活など、一般の歴史本にはあまり書かれていないようなことも豊富で、その時代ならび国や地域の歴史がとてもよくわかる。この本は、大学の教科書としても使われることが多いとのこと。 上巻は、第1部 ユーラシア大文明の誕生とその成立(~前500年)、第2部 諸文明間の平衡状態(~1500年)、下巻は、第3部 西欧の優勢(1500~1850年)、第4部 地球規模でのコスモポリタニズムのはじまり(1789-1990年代) となっている。

(18) ウィリアム・H・マクニール著 増田義郎・佐々木昭夫訳「世界史(下)」、中公文庫、2008年1月25日(初版)

  • <寸評> 上記参照

(19) ウィリアム・H・マクニール著 高橋均訳「戦争の世界史(上)」、中公文庫、2014年1月25日(初版)

  • <寸評> 本書は「世界史(上)(下)」と同じ著者によるもので、原題は、"The Pursuit of Power, Technology Armed Force, and Society since A.D.1000",(1982) の邦訳である。「戦争の世界史」と訳されているが、内容は、西暦1000年から現代にいたる軍事技術及びそれに関連した社会状況の通史である。普通の歴史書にはあまり出てこない、軍事技術や武器、戦略、社会的背景など興味深い内容がたくさんある。 上巻は、第1章 古代および中世初期の戦争と社会、から第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事に及ぼした影響(1789-1840年)、下巻は、第7章 戦争の産業化の始まり(1840-84年)から、第10章 1945年以来の軍備競争と指令経済の時代、となっている。

(20) ウィリアム・H・マクニール著 高橋均訳「戦争の世界史(下)」、中公文庫、2014年1月25日(初版)

  • <寸評> 上記参照

(21) I.ウォーラーステイン著 川北稔訳「近代世界システムⅠ」、名古屋大学出版会、2013年10月15日

  • <寸評> 著者は1930年ニューヨーク生まれ。アメリカの社会学者。2019年8月1日逝去。 訳者の川北稔氏によれば、世界システム論とは、「近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方」であるが、本書の「訳者解説」では、「近代世界システムは、あくまで経済的分業の体制」と述べているように、歴史を社会科学、特に経済とそれに関連した政治の視点から分析している。確かに、近代世界、特に欧米列強において、歴史を動かしている主たる要素は経済である、といえるかもしれないが、日本については経済が占める割合は欧米ほどは大きくないのではないだろうか。 著者は、この本の読者を欧米の歴史・経済・社会学などの研究者を想定して書いていると思われるので、世界史や経済・社会科学に詳しくない日本人が読むのはとても苦労すると思う。とはいえ、じっくり読めばアジのある本であるし、歴史学者の書く歴史書とは違った新鮮さもある。詳しくは、小論報「『近代世界システム』感想文」を参照願う。 第1巻の原書が刊行されたのは1974年で、16世紀前後を対象に近代世界システムの成立が中心になっている。
    ・封建制崩壊の原因と新世界への進出
    ・近代世界システムの成立
    ・絶対王政と国家機構の強化
    ・スペインの没落とオランダの伸張
    ・伸びるイギリス、出遅れたフランス
    ・ヨーロッパ世界経済の範囲

(22) I.ウォーラーステイン著 川北稔訳「近代世界システムⅡ」、名古屋大学出版会、2013年10月15日

  • <寸評> 第2巻の原書が刊行されたのは1980年で、17世紀前後を対象にしている。
    ・17世紀の危機
    ・オランダのヘゲモニー
    ・英仏抗争
    ・17世紀の周辺諸地域(東欧、スペイン領アメリカなど)
    ・半周辺地域の盛衰(スペイン・ポルトガル、プロイセン、など)

(23) I.ウォーラーステイン著 川北稔訳「近代世界システムⅢ」、名古屋大学出版会、2013年10月15日

  • <寸評> 第3巻の原書が刊行されたのは1989年で、18世紀前後を対象にしている。
    ・産業革命とフランス革命
    ・英仏抗争
    ・世界システムの拡張(インド、オスマン、ロシア、西アフリカ)
    ・南北アメリカの独立運動

(24) I.ウォーラーステイン著 川北稔訳「近代世界システムⅣ」、名古屋大学出版会、2013年10月15日

  • <寸評> 第4巻の原書が刊行されたのは2011年で、フランス革命後のヨーロッパと、自由主義の社会運動、社会科学の歴史などを対象にしている。

(25) I.ウォーラーステイン著 川北稔訳「史的システムとしての資本主義」、岩波書店、1997年8月22日

  • <寸評> 訳者が、「本書はウォーラーステインの歴史観・世界観を凝縮されたかたちで知りうる作品」(新版訳者あとがき)でいうように、難解な「近代世界システム」を読む上で事前に読んでおくべき本である。
    大きく2つの部に分かれており、前半は1983年の初版で、本のタイトル同じ「史的システムとしての資本主義」という標題のもと、ウォーラーステインなりの資本主義観が4つの章で述べられる。後半は1995年に追加されたもので、「資本主義の文明」の標題で、資本主義の功罪と将来について語っている。前半を読むと、この人はマルクス主義者か?と思わせるような記述が目立つが、後半は資本主義の功と罪を冷静に比較したあと、資本主義は終わりを迎えており、次はより平等な世界に移行していくだろう、と予想している。

(26) 大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」、岩波新書、2019年7月19日(初版)、2019年12月16日(第9刷)

  • <寸評> 著者は千葉大学他の非常勤講師、防衛相防衛研究所講師などを経て、現在は著述業。ドイツ現代史が専門のようだ。この本は、2020年新書大賞を受賞している。著者がこの本で描きたかったのは、生き地獄のような独ソ戦の実態を明らかにするだけでなく、従来の「数で勝るソ連軍に質で勝るドイツ軍」というイメージは正しくなく、ソ連軍勝利の原因は、ソ連軍の人的・物的資源の優位だけでなく、「作戦術」に基づく、戦略の優位性も重要な要因だった、ことを訴求したかったようだ。確かに、中半以降のソ連軍の作戦が優れたものであることは理解できるが、やはり資源の豊富さが決定的だったように思える。

(27) 岡 義武「国際政治史」、岩波現代文庫、2009年9月16日(初版)、2021年11月10日(第7刷)

  • <寸評> 岡義武(1902-90年)は、東京大学名誉教授で、東大法学部で日本政治外交史やヨーロッパ政治史を講義した。この本は1955年110月岩波全書の一冊として刊行されたものを復刻したもので、国際政治史の名著、必読書といわれている。
    絶対王政期から第2次大戦終戦直後までの国際政治の変動を、「国内体制の変動ととの関連においてとらえ、国際政治の構造の歴史的変化として描き出すという視点」(本書解説より)で書かれている。入門書としてはやや難解かもしれないが、国際政治・外交史を知るうえで欠かせない書であろう。ただ、文体が旧文語体になっているので、現代口語に慣れている者にとってやや冗長な文章に感じる部分もある。

(28) 岡本隆司「世界史とつなげて学ぶ 中国全史」、東洋経済新報、2019年7月18日(初版)

  • <寸評> 著者は1965年生まれ、京都府立大学教授で専攻は東洋史、となっているが中国史が専門のようだ。標題のとおり、中国の黄河文明から現代までの歴史を主として遊牧民族との関係という新しい視点で描いており、興味深い。

(29) 岡本隆司「中国史とつなげて学ぶ 日本全史」、東洋経済新報、2021年11月4日(初版)

  • <寸評> 著者については、上記を参照。標題のとおり、日本の古代から昭和までの歴史を中国との関係という視点で描いている。なぜ、日本という国名になったのか、なぜ、中国文明を取り込んだのか、蒙古は何のための襲来したのか、徳川幕府が鎖国した本当の理由、など、とてもわかりやすく書いている。

(30) 小川浩之、板橋拓己、青野利彦「国際政治史-主権国家体系のあゆみ」、有斐閣、2018年4月10日(初版)、2021年11月10日(第6刷)

  • <寸評> 小川氏が取りまとめ役で1972年生まれ、東京大学准教授で専門はイギリス政治外交史、板橋氏は1978年生まれ、成城大学教授、専門は国際政治史、青野氏は1973年生まれ、一橋大学教授、専門はアメリカ政治外交史。この本は大学生向けの教科書として書かれたもので、30年戦争~ウィーン体制を序として、帝国主義時代からが本文になっており、21世紀初頭までの国際政治史を対象にしている。内容は”広く浅く”で、参考文献もていねいに説明されているので入門書として申し分ない。

(31) E.H.カー、塩川伸明訳「ロシア革命」、岩波現代文庫、2000年2月16日、2022年6月6日(第9刷)

  • <寸評> Edward Hallett Carr(1892-1982)は、イギリスの歴史家で、ソヴィエト・ロシア史の権威。この本は、大作「ソヴィエト・ロシア史」をもとに、一般読者向けに書き下ろした(著者は「蒸留」と表現している)ものである。「ソヴィエト・ロシア史」は第1巻が1950年に刊行され、最終巻はそれから28年後の1978年に刊行されている。1917年の10月革命からスターリンの政治的勝利が確定した1929年4月までを対象に全6000頁を超える大著である。一方、「ロシア革命」は1978年に刊行されたものをもとに1979年に岩波現代選書の一冊として出され、その翻訳を一部改訂したのがこの本である。
    「大作」と同様にこの本が対象とするのも1917年から1929年頃までである。副題が「From Lenin to Stalin」となっているように、レーニンの目指した革命からスターリンが実行した革命への移行として描かれている。極めて単純に言えば、「ロシア革命が達成したのは”社会主義”ではないが、莫大な犠牲や暴力にもかかわらず、資本主義列強の妨害と干渉を排して達成された工業化、教育、文化、社会保障などの偉業は否定されるべきでない」というのがこの本における著者の主張である。
    他の外国語の著作と同様、この本の翻訳も原文に忠実になっているので、日本語としては読みくい箇所もたくさんある。また、史実の記述はわずかしかないので、この時代の世界史に関する基礎的知識がないと読むのに苦労するが、様々な視点からロシア革命を見ており、とても参考になる。

(32) カエサル著 近山金次訳「ガリア戦記」、岩波文庫、1942年2月5日(初版)、2012年5月25日(第73刷)

  • <寸評> 原本は、紀元前58年から同51年にかけて行われたローマ軍のガリア(現在のフランス)遠征の様子を、その指揮官であったユリウス・カエサルがローマの元老院に送った報告書だといわれており、2000年前に書かれたとは思えない、リアルさで遠征の模様が描かれている。カエサルはかなりの名文家だったようで、ラテン語を勉強する学生は、以下の冒頭の分を暗記させられるそうだ。
    「ガリアは全部で3つにわかれ、その1にはベルガエ人、2にはアクィーターニー人、3にはその仲間の言葉でケルタエ人、ローマでガリー人と呼んでいる者が住む」

(33) 加藤雅彦「図説 ハプスブルク帝国」、河出書房新社、1995年5月15日(初版)、2018年5月30日(新装版)

  • <寸評> 著者は1927年生まれ(2015年没)でNHKベオグラード・ボン支局長、NHK解説委員などを歴任した「欧州問題研究家」。ハプスブルク家発祥から第一次大戦あたりまでを、写真や図などを取り混ぜながら、わかりやすく書いている。本文約120ページのうち、6割以上が18世紀以降を対象にしており、著者がエピローグで言う「ハプスブルク帝国の超民族的理念は、… 偉大な精神的遺産として現代に引き継がれた」という、ハプスブルク帝国の功罪のうち、功の側に重点を置いているように感じる。

(34) 川北稔「イギリス近代史講義」、講談社、2016年8月1日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は2010年10月刊行の 講談社現代新書。著者の川北稔氏は、1940年生まれ、イギリス近世・近代史を専門とする歴史学者で大阪大学名誉教授。
    エピローグで著者自身が述べるように、「この本の原稿は4人の方に聞き役になってもらい、私が7時間前後、一気に、しかも一方的に話させていただいたもの」であり、「近代経済史のような、社会史のような、文化史のような、何だかはっきりしない構成になっている」ので、読みにくいところもある。
    対象としているのは、大航海時代から第二次大戦後のイギリスの「衰退」までだが、一般の歴史書のように史実をていねいに説明していくのではなく、なぜ、ヨーロッパが植民地開拓を始めたのか、イギリスで初めての産業革命が起きたのはなぜか、それがなぜアメリカやドイツに追い越されたのか、というような視点で語られていく。国のリーダの動きよりも、国の動きを左右した「ジェントルマン」層や、一般庶民が何を考え、どんな生活をしていたのか、そうい話が中心になっており、とても興味深い。なお、内容は下記の「世界システム論講義」とかなり重複するので、もしどちらか1冊を読むというのであれば、「世界システム論講義」をお勧めする。

(35) 川北稔「世界システム論講義」、筑摩書房、2016年4月1日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は「ちくま学芸文庫」(2016年1月)だが、それも2001年3月20日、放送大学教育振興会より刊行された「改訂版 ヨーロッパと近代世界」を改題・改訂したものである。
    世界システム論とは、アメリカの社会学者・歴史学者である「I・ウォーラーステイン(Immanuel Wallerstein、1930-2019)が提唱した「巨視的歴史理論」で、歴史をひとつの国の歴史の集合体のように見るのではなく、{ 世界をひとつの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる }(本書)見かたである。
    本書では、大航海時代(16世紀ごろ)から現代にいたる主としてヨーロッパを中心とした歴史を「世界システム論」的に解説している。

(36) 川島真「近代国家への模索 1894-1925」、岩波新書、2010年12月17日

  • <寸評> 著者の専門は中国近現代史、アジア政治外交史であり、この本はタイトルにもあるように、清から中華民国に移行する1894年~1925年頃の中国の歴史について書かれている。1894年は日清戦争が始まった年であり、1900年の義和団事件、1911年の辛亥革命により、1912年に清朝崩壊、その後南北に分れて抗争をくり返し、蒋介石の北伐で統一が完了する1928年の直前、孫文が死去する1925年ごろまでの歴史を書いている。

(37) 菊池良生「戦うハプスブルク家 近代の序章としての三十年戦争、講談社現代新書、1995年12月10日

  • <寸評> 著者は1948年生まれ、明治大学名誉教授。専攻はオーストリア文学。ハプスブルクがタイトルになっているが、内容は副題にあるとおり30年戦争に絞られている。おそらく、30年戦争を詳しく書いた本で手軽に入手できるのはこの本だけではないだろうか。戦争の経緯や位置づけなどが、新書版約200ページにわたって、簡潔な文章で書かれている。

(38) 北村暁夫「イタリア史10講」、岩波書店、2019年7月25日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は2019年3月20日刊行の岩波新書。著者は、1959年生まれ、本書刊行時には日本女子大学文学部教授で、専門はイタリア近現代史。
    10講シリーズの第4作目であり、前3作の製作方針を受け継いでいる。古代ローマから現代イタリアまで、主要な史実や文化について簡潔かつわかりやすく書いている。英仏独を中心としたヨーロッパ史において、それを少し違う角度から見ることができるのはうれしい。

(39) 貴堂嘉之「南北戦争の時代 19世紀 シリーズ アメリカ合衆国史②、岩波新書、2019年7月19日

  • <寸評> 本書は、和田光弘氏の「植民地から建国へ」、中野耕太郎氏の「20世紀アメリカの夢」とシリーズになっており、全体取り纏めを貴堂氏が行っているようだ。
    貴堂氏は、1966年生まれ、現在は一橋大学教授で専門はアメリカ合衆国史。この本が対象にしているのは、1812年戦争(米英戦争)から南北戦争(1861-65年)、戦後の「債権の時代」と「金ぴかの時代」19世紀末までである。歯切れの良いわかりやすい文章なのだが、ある一連の流れの話の途中でコラム的な話題が挿入され、思考回路の連続性が途切れてしまうことがあるのは残念。  

(40) 木畑洋一「20世紀の歴史」、岩波新書、2014年9月19日(初版)、2022年2月4日(第11刷)

  • <寸評> 著者は1946年生まれ、東京大学・成城大学の名誉教授で、専門はイギリス帝国史、国際関係史、国際関係論である。本書が対象とする「長い20世紀」は、世界が帝国主義的な支配構造、すなわち支配する側の国と支配される側の国に分かれはじめた時期(1870年代)から、支配されていた国々の多くが独立した主権国家になった時代(1990年代初め)までをさす。したがって、本書は支配と被支配という視点で書かれており、一般の歴史書では味わえない面白さがある。

(41) E.ギボン著 中倉玄喜編訳「[新訳]ローマ帝国衰亡史」、PHP研究所、2020年7月3日

  • <寸評> 原本は、同名のPHP文庫(2020年6月18第1版第1刷)。原著者のエドワード・ギボン(Edward Gibbon)は、18世紀(1737生~1794没)のイギリス人歴史家、編訳者の中倉玄喜氏は1948年生まれの翻訳家である。
    「ローマ帝国衰亡史」の原書は、1776年に5賢帝時代から始まる第1巻、1781年に第2巻と第3巻、1788年にビザンツ帝国(=東ローマ帝国)の滅亡までの第4,5,6巻が刊行されている。刊行時から大好評を得て、「国富論」のアダム・スミスも絶賛、20世紀になってから、英首相ウィンストン・チャーチルや印首相ネルーなどからも評価されている。本書は、その原著から「各時代の代表的な章を選んで訳した」ものである。
    フランス革命の直前に書かれたものだが、ところどころに世界の覇権を握ったヨーロッパ人の傲岸さを感じるところもあるが、それ以外は現代人の解釈と大きくは変わらないように感じた。

(42) 君塚直隆「近代ヨーロッパ国際政治史」、有斐閣、2010年10月30日

  • <寸評> 著者は1967年生まれ、関東学院大学国際文化学部教授、専門はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。この本は、神聖ローマ帝国皇帝カール5世(在位1519-56年)の時代から第一次世界大戦(1914-18年)までのヨーロッパの国際政治を対象にしている。国際政治といってもその多くは戦争であるが、戦史ではなく、戦争に至る経緯やその影響などを簡潔、リズミカルに描いており、とても分かりやすく読みやすい。

(43) 木村靖二「第1次世界大戦」、ちくま新書、2014年7月10日

  • <寸評> 著者は1945年生まれ、東京大学名誉教授、専門はドイツ近現代史である。本書の目的について「近年あらたな高まりを見せている大戦史研究の成果を踏まえて、第1次世界大戦史研究が現在どのような段階に達しているかを示し、それによって大戦像がどのように変わってきたかを確認する。もちろん、基礎的な事項についても説明し、第1次大戦の入門書として活用できるよう配慮した」と書いているが、まさにその通りの本である。歴史家は戦史については、あまり触れないことが多いが、ここでは必要最小限の戦史にも触れているのもありがたい。盛りだくさんの内容であるが200ページほどの新書にコンパクトにまとめられており、日本では数少ない第一次大戦を主題にした本としても貴重な書である。

(44) 栗生沢猛夫「図説 ロシアの歴史」、河出書房新社、2010年5月30日(初版)、2019年9月10日増補新装版

  • <寸評> 著者は、1944年生まれ、北海道大学名誉教授で専門はロシア中近世史。近代ロシアの通史を書いた本は少ないが、この本は写真や絵画をふんだんに使って、とても読みやすく編集されており、ロシア史の入門書として最適と思われる。
    近代化が遅れたロシアが、共産主義革命を経て、超大国の一角を占めるまでになったのは、資源の豊富さとロシア人の我慢強さによるところが大きいのだろうが、それまでに払った犠牲の大きさも半端ではない。共産主義実現の名のもとに、300万人以上の餓死者、スターリンによる粛清の犠牲者100万人以上、さらにドイツとの戦争による犠牲者が2000万人以上、という膨大な数の犠牲者には驚かされる。それだけでなく、本来救われるはずの農民や労働者の自由が抑圧された実態は、ペレストロイカ以降になるまで外部には知らされず、独裁政権が発表する共産主義の成果に踊らされた知識人がいかに多かったか、を思い知らされた。

(45) 小泉徹「宗教改革とその時代」、山川出版社、1996年6月25日

  • <寸評> 「世界史リブレット」シリーズ第27巻。著者は、1952年生まれ、聖心女子大学文学部教授で、専門はイギリス近代史。
    著書が冒頭で述べている通り、この書の目的は「宗教改革の背景について簡単な見取り図を与えること」であり、「宗教改革の詳細には触れない」。A5版で90ページしかなく、事実関係はほとんど書いていないのである程度予備知識が必要だが、宗教改革の背景やその影響などがわかりやすく書かれており、中身はとても濃い。

(46) 高坂正堯「国際政治」、中公新書、1966年8月25日(初版)、2022年6月5日(改版5版)

  • <寸評> 高坂正堯(こうさか・まさたか)(1934-96年)は、京都大学教授で専攻は国際政治学。「行動する学者」でもあり、1960年代以降、佐藤栄作、三木武夫、大平正芳、中曽根康弘といった歴代総理のブレーンとしても長く活動することとなり、佐藤栄作のノーベル平和賞授賞に一役買った。(Wikipedia「高坂正堯」)
    「国際政治」というと経済などを含めたもっと広い意味での国際関係を想定していたけれど、この当時「国際政治」といえば安全保障と戦争のことを指すものであったようで、この本もまさに「戦争の傾向と対策」といった内容になっている。
    「現実主義者」として知られる著者は、「国家は、力の体系、利益の体系、価値の体系という3つの体系の複合物である」とした上で、近代世界のさまざまな戦争や紛争を分析しながら、勢力均衡と軍備縮小という戦争防止対策の限界を指摘したあと、経済交流と戦争の関係、国際機構が平和維持に及ぼす影響力などについて述べている。著者は、強力な権限を持った「国際連邦」による平和は非現実的だ、としたうえで、軍国主義や専制国家でない国家権力の制約が可能な国家による国際機構が現実的な調整、すなわち本質的な問題を棚上げした上で、双方が一定の満足を得る調停によって戦争を防止することはできる、という。
    最後に著者は次のように述べて締めくくっている。「戦争はおそらく不治の病であるかもしれない。しかし、われわれはそれを治療するために努力し続けなくてはならないのである。つまり、われわれは懐疑的にならざるを得ないが、絶望してはならない。それは医師と外交官と、そして人間の務めなのである」。

(47) 近藤和彦「イギリス史10講」、岩波新書、2013年12月20日

  • <寸評> 著者は1947年生まれ、東京大学名誉教授で専門はイギリス近世・近代史。本書は、ブリテン諸島が形成される先史時代から、古代、中世、近世、近代、現代までを対象としているが、16世紀の近世以降を重点的に記している。また、他の「10講」シリーズにはあまりみられない、日本との関係や、王や宰相の人柄や個人的な行動も詳しく述べている。ふたつの革命(ピューリタン革命と名誉革命)および産業革命については、著者独自の見解もふくめてかなり力が入っており、とても興味深いが、植民地支配については、軽くしかふれていないのが少し残念。「あまり理屈っぽい本にはしたくないが、…」と「あとがき」に書いているように著者自身も意識されているようだが、ワインや男女関係などソフトな話題があるものの、どうしてもかたい文体になってしまうのは、著者ご自身の性格的なものもあるのかもしれない。

(48) 斎藤孝「戦間期 国際政治史」、岩波現代文庫、2015年5月15日(初版)

  • <寸評> 本書は1978年5月に岩波全書として刊行されたものを文庫化したものである。著者は、1928~2011年、東京大学西洋史学科卒業、学習院大学名誉教授、国際政治史が専攻。本書は、第1次大戦直後から第2次大戦直前までの戦間期における国際政治史を対象にしている。

(49) 坂井榮八郎「ドイツ史10講」、岩波新書、2017年5月18日(電子書籍)

  • <寸評>  原本は、同じ題名の2017年2月6日第22刷である。なお、あとがきの日付は2003年1月となっている。著者は1935年生まれ、東京大学西洋史学科卒業後、1962~65年にドイツのマールスブルク大学に留学、専攻はドイツ近代史、本書出版時点では東京大学名誉教授である。
    本書は、「フランス史10講」、「イギリス史10講」とともに、「学問的水準を守りつつ、それぞれの国の国家と社会の発展のありようを10回でコンパクトに語る」という趣旨で書かれたもので、3つのなかで本書が最初に出版された。「10講」は、基本的に概説的な小歴史書であるが、著者それぞれの歴史の見方・捉え方がにじみ出た通史」として執筆されている。確かに、ゲルマン民族の移動から東西ドイツの統合までの主な歴史事象をコンパクトにわかりやすくまとめてあるだけでなく、著者の歴史観も示されており、とてもいい企画だと思う。

(50) 鯖田豊之「世界の歴史9 ヨーロッパ中世」、河出書房新社、2013年4月30日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は、同名の河出文庫で2004年5月20日刊行だが、「文庫版あとがき」は1989年6月になっている。著者の鯖田(さばた)氏は、1926年生まれ、京都府立医科大学名誉教授で専攻は西洋中世史。
    著者は「文庫版あとがき」で次のように述べている。「世界の歴史のなかでも前近代に封建時代をもったのはヨ―ロッパと日本にかぎられる。わたくしは、ヨーロッパ文化の構成要素をゲルマン文化、古典古代文化、キリスト教文化の3つの柱にもとめ、同じく伝統的な日本文化に欠かせない、やまと文化、中国古典文化、仏教文化の3要素と対比させながら、ヨーロッパ中世論を展開することにした」。
    まさに、このとおり、要所で日本の場合と対比しながら書かれており、とてもわかりやすい。

(51) 塩野七生「ローマ人の物語 (1)~(43)」、新潮文庫、2002年6月1日(1)~2011年9月1日(43)

  • <寸評> 原本である単行本は、1992年に第1巻が発刊され、最後の第15巻が刊行されたのは2006年である。 著者は、1937年7月7日生まれ、学習院大学文学部哲学科卒業の作家。1970年からローマ在住。ローマ人の物語は、ローマ建国(紀元前8世紀)からイタリア半島が蛮族に奪い取られる6世紀ごろまでの通史を描いた大作である。同時代人の著作や後世の研究者の研究書などをもとに書いており、史実に沿ったものではあるが、著者の思いが非常に強くてそれに引き込まれていくうちに見方が一面的になってしまう恐れがある。もっともそれがこの本の魅力なのだが、歴史書というよりは、司馬遼太郎の小説ほどではないにしろ、ノンフィクション歴史物語として読むべきであろう。決して美文ではないが、読者の共感をよびやすいシナリオはスイスイと読んでいける。 なお、西洋史学が専門の本村凌二氏は、「リーダーシップ論の歴史教科書として読めば秀逸である」と評している。

(52) 塩野七生「ローマ亡き後の地中海世界(上)」、新潮社、2008年12月20日

  • <寸評> 「ローマ人の物語」が終る6世紀頃以降、地中海周辺で繰り広げられたキリスト教徒とイスラム教徒の争いを描いており、「ローマ人の物語」の続編とでもいうべきもの。少なくとも上巻に限れば、サラセン人(イスラム教徒)の海賊とキリスト教徒の戦いがメインテーマで、海賊の襲撃とそれへの反撃の話が続き、その間に十字軍やヴェネツィアなどの都市国家の活躍の話が入るが、似たような話の繰り返しになっている。
    下巻は読んでいないが、目次をみると「並び立つ大国の時代」からはじまり「地中海から大西洋へ」で終わっているので、西欧の中世から大航海時代の初めごろまでを書いているようだ。

(53) 篠原初枝「国際連盟――世界平和への夢と挫折」、中央公論新社、2013年2月28日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は、中公新書「国際連盟-世界平和への夢と挫折」(2010年5月25日)である。著者は1959年生まれ、早稲田大学大学院教授、専門は国際関係史、国際関係論。2005年時点で、「国際連盟についての日本語の一般書は戦後ないので、書いてみないか」と中公新書編集部からいわれて書いた、とのこと。国際連盟については否定的に評価されることが多いが、この本では国際連盟の課題を指摘しつつ、初めての国際組織として果たした役割についてポジティブに書いている。

(54) 新潮社編「塩野七生『ローマ人の物語』スペシャル・ガイドブック」、新潮社、2007年5月20日

  • <寸評> 「ローマ人の物語」の概説書。

(55) 柴田三千雄「フランス史10講」、岩波新書、2006年5月19日

  • <寸評> 著者は、1926年生まれ、東京大学名誉教授、2011年5月逝去。専門はフランス近代史。本書は、「ドイツ史10講」、「イギリス史10講」とともに、「学問的水準を守りつつ、それぞれの国の国家と社会の発展のありようを10回でコンパクトに語る」という趣旨で書かれたもので、柴田氏がその発案者である。
    本書の構成は、1講で古代から中世前期(~10世紀)、2~3講は中世中・後期(~15世紀)、4~6講はナポレオン帝政までの近代(~19世紀初め)、7~8講は(~20世紀初頭)、9講は2つの世界大戦、10講が第二次世界大戦以降の現代、となっている。
    著者があとがきで述べているように、「史実には十分に立ち入っていない」が、フランスおよびそれを中心としたヨーロッパの歴史を知る上で、史実の記述が不足だとは感じなかった。10講シリーズのいずれにもあてはまることだが、一般的な歴史教科書ではなく、学術的要素を新書という限られたページに凝縮したものになっており、専門用語も頻繁に登場するので読みにくいところもあるが、とてもいい勉強になる本である。

(56) 柴田三千雄「フランス革命」、岩波セミナーブックス、1989年6月30日

  • <寸評> 1988年10月6日から11月17日まで6回にわたって行った「岩波市民セミナー」で筆者が講演した内容を聞き起こして作成されたもの。フランス革命勃発前夜から、ナポレオン独裁までに起こったこと、その背景や意味、影響などをわかりやすく書いている。特に、フランス革命の一般的な本では省略することが多い、ロベスピエール処刑後の革命の展開についても詳しく書かれている。 

(57) 成美堂「図解 世界史」、成美堂出版、2012年1月20日

  • <寸評> 概観するにはとてもよい。

(58) 太平洋戦争研究会「第二次世界大戦」、河出書房新社、1998年8月10日(初版)、2019年8月30日(新装初版)

  • <寸評> 太平洋戦争研究会は、おもに日清・日露戦争から太平洋戦争、米軍占領下の日本にいたる近現代史に関する取材・執筆・編集グループ。この本は、太平洋戦争をヨーロッパ戦線を中心に概説したもので、とてもわかりやすく書かれていて、入門書としておすすめ。

(59) 田所昌幸「国際政治経済学」、名古屋大学出版会、2008年4月20日

  • <寸評> 国際政治経済学の教科書として出版されたもので、歴史的な記述もあるが、主題ではない。

(60) 立石博高,内村俊太編著「スペインの歴史を知るための50章」、明石書店、2016年10月31日

  • <寸評> 古代から現代まで50のテーマを12人のスペイン史の専門家がそれぞれ得意の分野を分担して執筆しており、論稿集のようなかたちになっている。

(61) 田中仁・菊池一隆・加藤弘之・日野みどり・岡本隆司・梶谷懐「図説 中国近現代史」、法律文化社、2012年3月30日(初版)、2020年2月29日(改訂版)

  • <寸評> 1988年に発行された同名の書が数回の改定を重ね、「中国現代史研究会」に参加する若手研究者によって2020年に更改されたのが本書である。見開き左側に本文、右側に関連した図版という構成で、19世紀の清朝から21世紀現代中国までを対象としており、中国近現代史の入門書としておすすめできる。

(62) 遅塚忠躬「フランス革命 歴史における劇薬」、岩波ジュニア新書、1997年12月22日

  • <寸評> 著者は1932年生まれ(2010年没)、東京大学西洋史学科を卒業し、東京大学やお茶の水女子大学の教授を歴任。本書はフランス革命を劇薬にたとえて、その大きな効能と強い副作用について述べている。効能で最大なものは、旧体制の廃棄であり、提起されたが実現までに時間がかかったものとして生存権を指摘している。副作用は、何といっても恐怖政治に象徴される多数の犠牲者が出たことだが、著者は革命の性格上、犠牲を避けることは難しかったのではないか、と言いつつ、読者に考えて欲しい、と述べている。
    対象読者は高校生ぐらいを想定しているようで、とてもわかりやすく書いているが、それでも一定の予備知識がないと苦労するかもしれない。

(63) 永田諒一「宗教改革の真実 カトリックとプロテスタントの社会史」、講談社現代新書、2004年3月20日

  • <寸評> 著者は1947年生まれ、岡山大学名誉教授、専門はドイツ近世史、西ヨーロッパ教会史。本書は宗教改革の社会史ともいうべきもので、一般の宗教改革の本と違って君主など社会の上層にいる人たちを中心にしたものではなく、庶民は何を考え、どう行動したかを書いている。章タイトルをいくつか引用すると、「書物の増大と識字率」、「素朴で信仰に篤い民衆」、「宗派が異なる男女の結婚」、といった具合である。 確かに視点は面白いが、史料が少ないせいもあって、一般の歴史書に書かれていることとの関連性までは分析し切れていないのが残念。

(64) 中野耕太郎「20世紀アメリカの夢 世紀転換期から1970年代 シリーズ アメリカ合衆国史③、岩波新書、2019年10月18日

  • <寸評>  著者は1967年生まれ、東京大学大学院教授、専門はアメリカ近現代史。著者が「はじめに」で、「20世紀アメリカの社会的な国民国家がいかにして形成されていったのか、それは同時に侵攻していたアメリカの帝国化とどのような関係があったのか…」と書いているように、本書は1901年から1973年までのアメリカの歴史を社会的な問題――人種差別、貧困、女性運動、労働運動、平和運動など――に多くの紙数をさきながら書いている。

(65) 中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」、河出書房新社、2013年4月30日(電子書籍)

  • <寸評> 本書の原本である、カラー版「世界の歴史第21巻」は1970年1月刊、その文庫版(2004年9月30日)をもとに電子書籍化されているので、著者も述べているように、本書が提示している歴史観は1960年代末のものである。それから50年以上たっているが、私が読んだ限りで、違和感はほとんど感じられない。
    本書は、ベルリン会議(1878年)からワシントン会議(1922年)までの世界の全体的な動きを対象にしている。この時代はまさに「帝国主義時代」と呼ばれた時代であり、イギリス、フランス、ロシア、ドイツなどの「列強」が、相互に牽制しあいながら、自国の利権を拡大するために、他の国の領土や利権を武力で獲得もしくは取引していた時代だった。筆者はその様子をとてもわかりやすく解説している。

(66) 成瀬治「近代ヨーロッパへの道」、講談社学術文庫、2011年4月11日

  • <寸評> 原本は1978年に「世界の歴史15」として刊行されたもの。著者は1928年生まれ、東京大学名誉教授、専攻は中近世ドイツ史。 15世紀末から18世紀半ばごろまでの近世ヨーロッパ、とくに西欧(英仏独伊蘭西など)を中心に描いている。オスマン・トルコの勃興からはじまり、イタリア戦争、宗教改革を経て、オランダの覇権、スペインの優位、30年戦争、ピューリタン革命・名誉革命、ルイ14世などの絶対主義王政、啓蒙主義、などを市民の視点を含めて、とても分かりやすく書かれている。

(67) 羽田正「興亡の世界史 東インド会社とアジアの海」、講談社学術文庫、2017年11月10日

  • <寸評> 原本は2007年12月「興亡の世界史」第15巻として刊行。著者は1953年生まれ、東京大学執行役・副学長、2017年紫綬褒章受章。 ポルトガルのアジア進出から、イギリス・オランダなどの東インド会社が解散するまでを、会社や社員の活動、当時の社会や政治体制などをとてもわかりやすい文体で書いている。 著者は東インド会社の行動を次のように述べているが、この本はヨーロッパ人を否定的に見るものではなく、むしろ肯定的に書いている。また、日本の記述も多い。 { 東インド会社の行動は、たとえて言えば、ほとんど元手をかけずに人の家から持ち出したお金を使って、本来足を踏み入れることのできないはずの店の一流品を買い、それを自分の家に持ち帰って利用したり、売却して利益を得たりしていたということである。}(本書P367)

(68) 服部春彦・谷川稔編著「フランス近代史」、ミネルヴァ書房、1993年1月31日

  • <寸評>   著者の服部氏は1934年生まれの京都橘大学教授、谷川氏は1946年生まれの京都大学大学院文学研究科教授。本書はフランス絶対王政期(17世紀)から第2大戦後20世紀半ば過ぎあたりまでを対象に主要な政治的・軍事的史実とともに、社会や文化市民生活などについて書かれている。後者の社会的内容が半分近くを占める。

(69) 福井憲彦「近代ヨーロッパ史」、筑摩書房、2012年10月5日(電子書籍)

  • <寸評> 本書は、放送大学の教材として2005年3月に刊行されたものに、一部加筆したものである。著者は出版時点で学習院大学学長、専門はフランス近現代史。
    15世紀後半のいわゆる大航海時代から、第一次大戦までのヨーロッパの歴史が、まさに教科書らしく書かれており、西洋近代史の入門書として申し分ないのではないかと思う。

(70) 藤瀬浩司「近代ドイツ農業の形成」、御茶ノ水書房、1967年3月25日

  • <寸評> 著者は1933年生まれの経済学者(執筆当時は名古屋大学経済学部助教授)。本書は、15世紀から20世紀初頭までのドイツ農業の歴史的展開過程を分析したものである。

(71) 古川隆久「昭和史」、ちくま新書、2018年5月10日

  • <寸評> 著者は1962年生まれ、日本大学文理学部教授。

(72) 堀越孝一「中世ヨーロッパの歴史」、講談社、2016年12月1日(電子書籍)

  • <寸評>  原本は、2006年5月刊行の講談社学術文庫。著者は1933年生まれ、学習院大学名誉教授で専攻は西洋史。
    西ローマ帝国滅亡から、百年戦争終了までを独自の視点で書いている。講談社学術文庫は、歴史にちょっと詳しい一般人を読者に想定していると思われるが、この本は人名、地名、既存の歴史解釈などが解説もなしにポンポン飛び出してくるので、ヨーロッパ中世史をよく知っている人でないと読むのに苦労するだろう。ただ、他の一般的な歴史書では書いていないようなことが時々出てきてそれはとても参考になる。

(73) マイケル・ハワード著、奥村房夫・大作訳「ヨーロッパ史における戦争」、中公文庫、2010年5月25日(電子書籍)

  • <寸評> 著者のマイケル・ハワードは、1922年生まれのイギリスを代表する歴史学者。国際戦略研究所(IISS)の名誉所長で戦争史の世界的権威者。第2次世界大戦にも従軍し負傷している。2019年11月30日逝去。
    訳者あとがきにあるとおり、「本書は、中世から現代までのヨーロッパの戦争の歴史であるが、… 軍事や戦争に関心を持つ人々ばかりでなく、広く一般にヨーロッパ史に関心を持つ人々のためのもの」であり、一般の人にも理解できるような歴史書として書かれている、という。確かに世界史に関する基礎的知識があれば読みこなせるが、文章構造をそのままに訳しているので、英文構造の日本語を読んでいるような感覚になるところが少なくない。意訳をすれば読みやすくはなるが、原文に忠実に訳すためにはしかたがない。
    7章から構成されており、ヨーロッパ中世の戦争から第2次世界大戦までの戦争の目的、戦略、技術、国民とのかかわり、などについて各時代の戦争の特徴を代表するような章タイトルがつけられている。1章から順にいえば、封建騎士の戦争、傭兵の戦争、商人の戦争、専門家の戦争、革命の戦争、民族の戦争、技術者の戦争、となる。海賊や異教徒などの略奪者を相手にした戦争、国王が傭兵を使って行った戦争、ヨーロッパ人自身が略奪者になった植民地での戦争、国民を巻き込んだ革命の戦争(ナポレオン戦争)、そしてナショナリズムをあおり市民も巻き込んだ戦争、などである。島国で他民族の侵入をほとんど受けなかった日本人にはあまりなじみのない戦争は興味深い。エピローグでは第2次大戦後のアジアや中東の戦争、イスラムによるテロなどが淡々と記述される。

(74) マキアヴェッリ著 池田廉訳「新訳 君主論」、中公文庫、1995年3月18日(初版)、2002年4月25日(改版)

  • <寸評>  一度読んでおいて損はない本。

(75) 増田義郎「図説 大航海時代」、河出書房新社、2008年9月30日

  • <寸評>   「大航海時代」という言葉は、この本の著者である増田義郎氏が命名したという。ご本人はこの本のあとがきで次のように述べている。{ 大航海時代の史料、記録の日本語訳選集を企画し、… 編集を開始したのが1963年。そのとき、選集の標題のために「大航海時代」という言葉が自然に生まれた。}それまで使われていた「大発見時代」のような西欧人の視点ではない言葉にしたかったからだという。
    本書は紀元前のシルクロードなどの東西交流から、16世紀半ばごろまでのポルトガル人とスペイン人による「地球探検」の様子が詳しくわかりやすく書かれている。また、「図説…」とあるように、当時の探検家が見ていたであろう地図とか船や乗員の情景などが描かれた絵も豊富で、イメージを作りやすい。

(76) 松井道昭「普仏戦争」、横浜市立大学学術研究会、2013年7月25日(初版)

  • <寸評>  著者は1943年生まれ、横浜市立大学名誉教授、専門は経済史のようだが、普仏戦争やパリ・コミューンについてはだいぶ詳しいようだ。普仏戦争を詳しく書いた本はあまり多くないが、この本は400ページ以上にわたって、開戦の経緯から終戦後の影響までくわしく述べられている。
    ただ、校正をちゃんとやっていないようで、誤字脱字のたぐいがやたらと目立つのは残念。

(77) 松浦義弘「フランス革命の社会史」、山川出版社、1997年7月25日

  • <寸評>  著者は1952年生まれ、成蹊大学特任教授、フランス近代史が専門。この本は「世界史リブレット」シリーズのひとつで、本文88ページとコンパクトだが、欄外に用語などの説明があって読みやすい。ここではフランス革命の始まる少し前から、1794年の恐怖政治の頃までを対象にしている。著者は、「絶対主義国家から国民国家に転換するにともなって、政治が人々の人間性を改造しようとした」ことに焦点をあてて書いている。

(78) 松尾秀哉「ヨーロッパ現代史」、ちくま新書、2019年4月10日(初版)

  • <寸評>  著者は1965年生まれ、龍谷大学教授、専攻は比較政治、西欧政治史。本書は第二次大戦後のヨーロッパを1945年からおよそ10年単位に章分けし、さらに英仏独ソなど主要国ごとに節に分けて政治や経済の主要な動きをわかりやすく述べており、入門者向けである。

(79) 本村凌二「地中海世界とローマ帝国」、講談社,2017年10月1日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は講談社学術文庫(2017年9月)。著者は1947年生まれ、東京大学名誉教授、専攻は西洋史学。"まえがき"の最後で、「ひとときの座興にでも、ローマ人をめぐる歴史叙述を楽しんでいただけば…」と述べているとおり、一般読者が気楽に読めるように軽快なタッチで書かれている。ローマの歴史は、様々な英雄の活躍を描くことにより記述されることが多いが、そのモトネタになる史料もおそらく同じものをもとにしていることもあって、どの本を読んでも大体同じような内容になる。どこに焦点をあてるかが、著者によって異なるのだが、本村氏の場合、最終章の「ローマ帝国は滅亡したのか」が最大のハイライトのように思える。「古代末期を衰退や没落と考えるのではなく、… 人間というのは常に新しいことに挑戦しているのであり、そのような時代として見直すべきなのだろう」、これが締めくくりの言葉である。

(80) 森村宗冬「大航海時代」、新紀元社、2013年9月14日(電子書籍)

  • <寸評> 原本は新紀元文庫であるが、2003年8月11日にあとがきがあるので、その頃の単行本を文庫化したものと思われる。著者の森村氏は1963年生まれ、大東文化大学中国文学科卒業後、高校教諭を勤めたが3年でやめてフリーのライターになった(Amazonによる)、とのこと。 増田氏をはじめ多くの研究者の著書を参考にしており、史実の認識で増田氏の記載内容と大きく異なるところはない。当時の人が考えていたことや関連するエピソードがたくさんのっており、楽しく読める。

(81) 山本健「ヨーロッパ冷戦史」、ちくま新書、2021年2月10日(初版)

  • <寸評> 著者は1973年生まれ、西南学院大学教授、専門はヨーロッパ現代史のようだ。この本は第2次大戦後のヨ-ロッパにおける内戦について書かれたものである。ヨーロッパの内戦は分断されたドイツの歴史と同期して動いていくので、東西ドイツと超大国ソ連とアメリカ、それにヨーロッパの大国イギリスとフランスの動きが中心になっている。ただ、ヨーロッパ冷戦史にするためにあえてアメリカとソ連の二国間関係についての記述は抑え気味にしたという。
    各章のはじめにはその章で述べることの概要があり、章末にはその章のまとめが書かれており、読みやすくわかりやすく書かれているのがうれしい。

(82) 油井大三郎「避けられた戦争 1920年代・日本の選択」、ちくま新書、2020年6月10日(初版)

  • <寸評> 著者は1945年生まれ、東京大学及び一橋大学名誉教授、専門は日米関係史、国際関係史。本書は第1次世界大戦後のヴェルサイユ体制から満州事変までの日本の国際関係について述べている。筆者は、この期間に日本が太平洋戦争を避けられる2つの機会があったという。ひとつは1925-27年に英米が対中利権を縮小した際、日本も同時又は英米に先行して利権の縮小をしていれば、中国の排日運動を抑えられただろうというもの。もうひとつは、1930年5月に日本が中国の関税自主権を承認した際、満州利権の一部留保を中国との間で合意することで、それができれば排日運動を抑制できたのではないか、という。つまり、この2つのポイントで中国への「侵略政策」をやめ、良好な経済関係を築く方向に転換するということであろう。そのためには、民主政治の成熟や軍部に対する文民統制、世界情勢の正しい認識などが必要だった、と著者はいう。私はむしろ、こうしたバックボーンができていなかったことが、戦争を避ける判断を誤らせたのではないか、と思うのだが。

(83) 弓削達「世界の歴史5 ローマ帝国とキリスト教」、河出書房新社、2013年4月30日

  • <寸評> 原本は、河出文庫の同名の書(2006年5月20日13刷)である。著者の弓削達氏は1924年生まれで出版当時は東京大学名誉教授、フェリス女学院大学長、専攻は古代ローマ史。標題のとおり、ローマ帝国の建国から滅亡までの歴史にからめて、キリストの誕生、布教、受難、そしてローマ帝国による信者の迫害、コンスタンティヌス帝による公認などがわかりやすく書かれている。特に、コンスタンティヌス帝がキリスト教を認めた理由は、古代宗教観をもとに筆者独自の推論をしており興味深い。

(84) 吉澤誠一郎「清朝と近代世界 19世紀、岩波新書、2010年6月18日(初版)、2021年7月26日(第11刷)

  • <寸評> 著者は、1968年生まれで執筆当時は東京大学教授、専攻は中国近代史。この本は、「シリーズ中国近現代史」の第1巻で、「おもに18世紀末から1894年の日清戦争開戦前夜までの清朝の歴史」を対象にしている。清朝の統治構造や最盛期と言われる18世紀後半の乾隆帝時代の清について述べた後、白蓮教徒の乱、太平天国の乱、あるいは新疆など中央アジアにおける反乱などを民衆の不満などを含めて詳しく述べている。そして、アヘン戦争などにおける列強との確執は何とか乗り切ったものの、国力は衰え、やがて康有為などによる政変を経て、辛亥革命の前夜で終わっている。
    文章は平易ですらすらと読みやすく、中国近代史の入門書として最適であろう。

(85) レーニン著 宇高基輔訳「帝国主義」、岩波文庫、1956年5月25日初版、2019年7月5日第64刷

  • <寸評>  レーニンが1916年に著した「資本主義の最高段階としての帝国主義」の日本語訳。マルクス・レーニン主義の古典として有名。原題のとおりに、帝国主義を資本主義発展の最高(=最終)段階として位置付けているが、そのキーワードは資本家による独占であり、多くの論文や資料をもとにそれを証明しようとしている。目についたのは同じ社会主義者であるカウツキーへの批判が何度も出てくることで、この本を書いた目的の一つにその批判があったような気がしないでもない。
    { 独占資本主義が資本主義のあらゆる矛盾を尖鋭化させた … 少数のもっとも富裕なあるいはもっとも強力な民族による、ますます多数の弱小民族の搾取――これらが、帝国主義を寄生的あるいは腐朽しつつある資本主義として特徴づけさせる帝国主義の諸特徴をうみだしたのである。}これが結論めいた言葉だが、結果がわかってしまっている現代人の目から見るとその議論の虚しさが目立ってしまう。

(86) 歴史学研究会編「強者の論理――帝国主義の時代」、東京大学出版会、1995年10月25日(初版)

  • <寸評> 16人の歴史学者がテーマを分担し、全15件の論稿で構成される。歴史研究を志す学生や研究者のタマゴを対象にしていると思われ、一定の基礎知識がないと読むのに苦労する。論稿は、帝国主義のきっかけになった「大不況」から、世界の植民地競争の状況、南アフリカ戦争、ロシアの中央アジア植民地、東アジアと日本、黄禍論、ホブソンの帝国主義論、第一世界大戦関連、ロシア革命、など、いずれも専門的なもの。

(87) 和田春樹編「ロシア史」、山川出版社、2002年8月30日

  • <寸評> 著者は和田春樹氏をはじめ栗生沢猛夫氏も含めて6人で、それぞれ時代ごとに分担している。9世紀のキエフ・ルーシの時代からソ連崩壊までのロシア全史を対象にしている。

(88) 和田光弘「植民地から建国へ 19世紀初頭まで シリーズ アメリカ合衆国史①、岩波新書、2019年4月19日

  • <寸評> 著者は1961年生まれ、名古屋大学大学院人文研究科教授、専攻はアメリカ近世・近代史。本書は北アメリカに先住民が渡来してから、アメリカ独立革命の直後までを「大西洋史」という新しいアプローチも採用しながら書いている。また、著者は「記憶史」と呼んでいるが、ワシントンやジェファーソンの人物象やUSドルの起源など、他の本では「コラム」として切り出すような話題も本文の流れの中に取り入れている。文章は平易で分かりやすく、誰にでも読みやすい本であろう。