□ サーペイディア諸帝国の滅亡記

我々、歴史学協会(Historical Institute)は、オルダー夫人(Lady Oruder)の寛大さによって、これらの書類 -- 彼女個人の収集物の一部である -- の調査と翻訳を許可された。彼女の支援がなければ、このプロジェクトは成功しなかっただろう。以下に挙げる手紙は、古代サーペイディア諸帝国が滅亡するまでの4ヶ月間の記録である。当時、そこには5つの帝国が存在した:海中のヴォーデイリア(Vodalia)、強大なるアイケイシア(Icatia)、不吉なる漆黒の手教団(Order of the Ebon Hand)、ヘイヴンウッド(Havenwood)のエルフ村落群、そしてクリムゾン・ピーク(Crimson Peaks)のドワーフ都市群である。これらの手紙が書かれたとき、その書き手たちは全員、気候の寒冷化と不十分な収穫による危機を感じていた。ここに選ばれた手紙は、ドワーフ帝国の滅亡を追っている。この完全な歴史はまだ、現代の学者達には明らかになっていない。




クリムゾン・ピーク
雪融けの月 2日

ヘイヴンウッドの上座ドルイド、コレヴィ(Kolevi)宛

猊下、

この手紙が直接あなたを指名していることをご容赦下さい。これがあなたへの不敬ではないことを保証致します。先の指揮官だったダンヘルム将軍(Danhelm)は、いつもあなたと、あなたの民が私たちに行ってくれた援助を高く評価し、称賛していました。

こちらの状況はどうしようもなくなっています。私たちに更なる支援を行っては頂けないでしょうか。ガーン砦(Gurn Keep)とその近隣の都市は陥落しました。ダンヘルム将軍はオークの槍によって殺され、彼の部下も死ぬか捕虜にされました。援軍が送られるまで耐えるために、私は将軍の軍隊の残りを引き連れて廃坑に移りました。

私たちは多分、長い間持ちこたえることができないでしょう。こうしている間にも、オークとゴブリンたちは突入に備えて集結しつつあります。私たちの食糧は限られており、医療品も残されていません。猊下が、あなたの民とクリムゾン・ピークのドワーフとの友情を覚えており、我々に支援して下さることを願っています。

謹んで。

指揮官サリア・ハーセンデル(Sarya Haasendel)




ヘイヴンウッド
花祭前日

ヘンリー・ジョゼフ一世王(King Henry Joseph I)の代理人、
主席マーガレット・エルスワース夫人(Margaret Ellsworth)宛

エルスワース夫人、

ヘイヴンウッドのエルフからの挨拶を送るとともに、あなたと陛下の健康を願います。

我々の民の間に常にあった友情を覚えていることを信じて、我々はあなたに、この緊急事態に対する援助を要請します。同封されている手紙は、数日前に我々の元に届きました。ドワーフの指揮官は、包囲された彼女の部隊を助けるための支援を求めています。

残念なことに、我々の軍隊は、彼女を支援するために必要な部隊と物資を割くことができません。我々は、我々の村を脅かすサリッド(Thallids)と戦っています。我々の食糧危機を解決するために繁殖されたものが、新たな危機を引き起こすとは皮肉なことですが。

我々の友情の名の下に、ハーセンデル指揮官への支援を要請します。あなたの民とドワーフたちとの隔たりは理解していますが、抑制を失ったオークやゴブリンたちに襲われるよりも、彼らを支援する方が良いと考えます。エルフの民の想いは、あなたと共にありましょう。

あなたに安らぎがありますように。

ヘイヴンウッドの上座ドルイド、コレヴィ




ヴォーデイリア
五番目の月 十二番目の潮流

ヘンリー・ジョゼフ一世王の代理人、
主席マーガレット・エルスワース夫人宛

エルスワース夫人、

ヴォーデイリアのマーフォークを代表して、アイケイシアからたった今届いた武具についての感謝の意を表します。あなたの民は我々に、大きな援助をしてくれました。我々はこれを忘れないでしょう。我々は勇気と決断をもって、呪われし深みからやってくるホマリッド(Homarids)を退けることができると確信しています。あなたの援助は、我々が最も必要としていたこの作業を終わらせるのに役立つでしょう。

残念ながら、我々が常々あなたに供給してきた医療品が、これ以上供給できないところまで来てしまったことを、あなたにお知らせしなければなりません。私の部下の努力によって、この信書と共に、僅かな最後の供給を行うことはできました。ホマリッドとの戦いは、我々の貿易ルートを混乱させ、やってくる商品は少なく、そして遅れるようになっています。ホマリッドを我々の国から追い出すまでは、我々の勇敢な軍隊のために、補給品を確保しておかなければならくなったのです。

アイケイシアもまた困難に直面している今、このような要求は礼を欠く行いですが、なにとぞ許して頂きたいのです。アイケイシアがそうであるように、ヴォーデイリアもまたここ数年の寒波の影響を受け、収穫量が減ってきています。しかし、アイケイシアとは違い、ヴォーデイリアは食糧を確保しておくような先見を持っていませんでした。我々が残していた食糧はほとんどすべて、軍隊を維持するために使われています。そのため、ヴォーデイリアの病人、不具者、そして幼い人々には、何も残されていません。我々は、あなたが貯えているであろう食糧の一部を、我々に送る方法を見つけてくれることを祈っています。

スヴィエルン(Svyelun)があなたの寛大さを祝福しますように。

曇りなき殿下、ガリナ三世(Galina III)のために、
マーシャル・カレル・ヴォルニコフ(Marshall Karel Volnikov)が記す





アイケイシアのウィンデンバイ(Windenby) ゴスウィンスタイドの5日

ヘイヴンウッドの上座ドルイド、コレヴィ宛

猊下、

陛下と私は、あなたとあなたの民が、サリッドに対しての戦いを続けられているという知らせを聞いて救われました。我々がエルフの幸福のために行うことができる援助は、これ以上は保証できません。

また、我々はヴォーデイリアのマーフォークの、ホマリッドに対する戦いについても援助を行っています。この援助によって我々の貧弱な貯えは限界まで来ています。しかし、彼らが彼らを圧倒しようとしている野蛮な潮流に対抗するのを、助けないわけにはいきません。

我々は、勇敢なるドワーフの指揮官に対しても同様にしたいと考えましたが、我々にはもう、そのための資源が残されていません。従って、遺憾ながら、陛下はあなたの要求を拒否するしかありません。

しかしながら、陛下はその明敏さによって、別の計画を思い付きました。これをあなたが認めてくれると良いのですが、我々はハーセンデル指揮官の手紙を、漆黒の手(Ebon Hand)の城塞に送り、トゥーラク(Tourach)のしもべによる援助を求めるつもりです。漆黒の手があなたの民と我々のどちらとも友好的でないことは承知しています。しかし、彼らはドワーフに対して関心を示しています。我々は彼らに、援助を行うよう説得することを望みます。

我々のこの行動は、危険を伴うでしょう。我々の民の間に、私たちの問題の原因が漆黒の手にあるとする風潮が広がっています。多くの民が、陛下の政治がトゥーラクのしもべに寛大すぎると感じています。元牧師のオリバー・フェレル(Oliver Farrel)は特に声を大にしており、それはかなりの支持を得ています。しかし我々は、この危険を冒す行動を、各地にいる聡明な人々に代わって行うことを望んでいます。

あなたの従順なるしもべより。

ヘンリー・ジョゼフ一世王(King Henry Joseph I)の代理人、
主席マーガレット・エルスワース夫人(Margaret Ellsworth)




アイケイシアのウィンデンバイ(Windenby) ゴスウィンスタイドの7日

漆黒の手教団の司祭君主、スアザン・クラース(Thurzen Klathe)

閣下、

我々は、ヘンリー・ジョゼフ一世陛下とエルフの民の上座ドルイドであるヘイヴンウッドのコレヴィからの挨拶を送ります。私はまた、あなたにこの緊急のメッセージを送る名誉を持っています。

アイケイシアの民と漆黒の手のしもべたちには永きに渡る隔たりがありますが、それを棚上げし、南方のドワーフの苦況について考えることをお願いします。悲しいことに、我々はハーセンデル指揮官の支援を行うことができません。しかし我々は、あなたの民が彼女の果敢な戦いを助けるために、軍隊を送ることを望み、祈っています。 あなたがドワーフの支援を行うことを引き受けて下さるなら、陛下はあなたの軍が不在であるときに、アイケイシアの軍隊を動かさないという誓いを正式に行う用意があります。陛下と私は、生涯に渡って我々の民族を苦しめた、この戦争の終わりを見ることを切望しています。

あなたの従順なるしもべより。

ヘンリー・ジョゼフ一世王の代理人、
主席マーガレット・エルスワース夫人




アクテプ砦(Achtep Keep) 第七の生け贄のとき

ハーセンデル指揮官、

我々は、あなたの軍隊の誓いについて、大きな哀しみと関心を持って聞いた。あなたが示したような武勇と勇気は絶賛に値するだろう。

私の牧師と私は、あなたの戦いが我々が提供できる最高の援助を行うのに値すると考えた。私は、イヴラ・ヤルスドッター(Ivra Jursdotter)を司令官とした傭兵部隊を、急いであなたの支援に派遣した。ヤルスドッター司令官は傭兵であるが、何年もの間、漆黒の手のために役立ってくれた。私は彼女が尊敬に値し、信頼できることを個人的に保証しよう。

我々の従兄弟に等しいドワーフに奉仕することに関心の高かった牧師のグループも、ユルスドッター司令官に伴わせた。支援にやってきたトゥーラクのしもべたちが、彼らの間でトゥーラクの言葉を交わすことを許して頂きたい。私はドワーフからの最高の謝辞が、漆黒の手教団への改宗であろうと提案する。しかし、この提案は親愛なる司令官、あなたの裁量に任せよう。

暗闇より。

漆黒の手教団の司祭君主、スアザン・クラース




アイケイシアのウィンデンバイ(Windenby) オールフェストの2日前

ガリナ三世の代理人、
マーシャル・カレル・ヴォルニコフ宛

マーシャル・ヴォルニコフ、

あなたの医療品の不足を我々に知らせる手紙は、多くの関心を持って受け取りました。陛下と私は、ホマリッドがヴォーデイリアから追放され、あなたの軍隊の果敢な努力が称賛されるという願いをあなたと共にしています。

しかしながら、アイケイシアもまた困難に悩まされています。東方ではヘイヴンウッドのエルフたちが、彼ら自身が創り出し、その支配から離れた怪物であるサリッドとの戦いに従事しています。西方では漆黒の手教団が、その恐ろしい儀式のために教団で飼育されていたおぞましい怪物、スラルとの戦いで動けなくなっていると聞きました。南方ではドワーフたちが、オークとゴブリンの軍勢によって壊滅状態になっています。陛下と私は、これらの出来事すべてに関心を寄せています。アイケイシアは混沌の力と戦う王国に囲まれ、我々はそれらの力がアイケイシアに対して解き放たれるのは時間の問題であると恐れています。

従って、我々は食糧の貯えを求めるあなたの要求を、悲痛にも拒否しなければなりません。あなたが明敏に察しているように、寒い夏と凶悪な冬は我々の収穫にも影響してしまいました。サーペイディアは、我々の祖先の時代の暖かく繁栄した地に戻るそぶりを全く示していません。我々の貯えは使い果たされ、次の収穫はこれまでで最も少ないものとなるでしょう。いかなる救助もないのなら、陛下は自分自身の民が必要とすることを最初に考えなければなりません。

あなたの要求を断らなければならないことで、私は心を痛めています。これによって我々の民が、今ある関係を失わせないであろうことを信じています。

あなたの従順なるしもべより。

ヘンリー・ジョゼフ一世王の代理人、
主席マーガレット・エルスワース夫人




クリムゾン・ピーク
晴天の月 14日

ヘイヴンウッドの上座ドルイド、コレヴィ(Kolevi)宛

猊下、

再度あなたを直接指名する無礼をご容赦下さい。私はこの手紙に対する回答を期待していません。それを受け取ることができるほど長く生き延びることはできそうにありません。この手紙は、我々の最後の行いを記録に留めることができるように、あなたに届くことを望んでいるだけです。

状況はどうにもなりません。オークとゴブリンに絶えることなく襲われ、僅かに残っている兵士は疲れきって、心休まることがありません。食糧は断たれ、医療品は数週間前に無くなりました。しかしそれでも、私たちは最後のドワーフになっても、断固として戦いを挑みましょう。

漆黒の手教団の君主、クラースは援軍を約束しましたが、それは到着しませんでした。私の貧弱な知性は、彼が送った傭兵の司令官が、オークやゴブリンの方に加わったのではないかと結論づけています。しかし、これを確認することはできないでしょう。

たとえ援軍が今日到着するとしても、彼らは私たちを救うことができないでしょう。私は陛下に、私たちが最後の戦いに臨んだことを忘れずにいて下さることと、もしよろしければ、あなたの民の歴史の片隅に、我々の果敢な戦いを記していただくことを求めるのみです。

謹んで。

指揮官サリア・ハーセンデル