今週のスポットライト4
ELYSION
〜永遠のサンクチュアリ〜

テリオス(2000)
ADV/ゲームA+/精液B+(顔7:口0)
キーワード:封入特典はいまいち

アドリア海の孤島、「サンタ・マリア島」。そこに巨大な洋館に住む 老人の主治医として日本から招かれた内科医、葛城遼一。その島での不可解なしきたり、不思議な出来事や事件などにとまどう遼一であったが、他ならぬ遼一が全てのキーを握る存在であると、まだ彼は気づいていなかった・・・。

 
     

これぞおっさんの底力というやつですかねぇ・・・。
ものすごいゲーム作ってくるな。

名作RPGの誉れ高い「黒の剣」を作ったかと思えば、フォスターの「林間学校」もやっているというどっちやねんという超ベテランコンビ・横田守&藤木隻両氏の渾身の一作、ということで私も久々に腰を据えてやらしてもらいやしたっ。レビューもウケ狙いほとんどなし!かも!

しかしですな、こんなエロゲ・・・・・どないなもんかなあ。何しろ、「人間はいかにして人間たりえるか」なんかがテーマがなんでっせ?モチーフがメイド、占星術、愛。まあこれはいいとして、さらに虐殺!人格崩壊!コソボ難民!!と続きます。あ、あのね。こ、こんなんどうやってヌクんやー!!

かなり大上段な構成を持った作品の割には、地味にゲームは始まる。医師が謎の依頼を受けて地中海に浮かぶ孤島にやってくるオープニング。特徴的なのは、序盤において「キャラを特定するためのイベント」がほとんど起こらないこと。例えば、「同級生2」なんかではオープニングで主要キャラとのイベントを山とこなすし、オレが嫌いな「幼なじみが毎朝主人公を起こしにくる」ウンヌンとか言うのもキャラと主人公の動機付けイベントですわね。でも、この「ELYSION」は全然そ〜ゆ〜のがない。これはキャラ萌えが主体の最近のゲームでは極めて珍しいと言える。

もちろん、ゲームが進むに連れてそういうのは一杯出てくるんやけど、そのせいでヒロイン格の4人のメイドってのがちょっと印象が薄いんだよなぁ。むしろ、主人公を取り巻く状況の複雑さの方が遙かにインパクトがある(もちろん、それが作り手の意図するところなんだろうけど)。雇い主の大富豪、そのハウスキーパー、メイドとガードマン達、打ち捨てられた街の住人、無名の使用人・・・。特殊なバックグラウンドを持つキャスト達がそれぞれの目的を抱えて一つの孤島にうごめいている。いきなり飛び込んだ主人公は何もわからない。全くのストレンジャー。一見静か、しかし、確実に違和感を感じるその状況。

こういうのって昔のDOSゲ、特に剣乃作品っぽいなあ。事件を起こすことよりも、事件を「匂わせる」ことによってムードを盛り上げたり、ディテールの積み上げによる幻惑効果を使って世界観を作り出したりするところとかね。ゲームシステムも昔懐かし同級生タイプの徘徊型ということもあって、何だか懐かしい。オレはとってもいい気分でプレイしてしまった。こういうゲームって「東鳩」以降のプレーヤーにはまどろっこしいだけかも知れないけどねぇ。ものすご入り組んだ関係を解きほぐしていくから、当然攻略はかなり難しいしね。ストーリーも「痕」形式で一つ二つのエンディングをみたところで全然話見えないんだな!かなり面倒ダス、これは。

しかしその是非はともかく、複雑な構成に基づくそのストーリーの重厚さはすごいっすな。さすがに10年選手のベテランライターともなると研鑽が・・・。占星術などのメインモチーフの考証が緻密なのはもちろんやけど、そもそも舞台はイタリアの孤島、登場人物は色んな国の人々。この舞台設定だけでもすさまじい下調べが必要なはず。でも、あんまり違和感がない・・・。すんげー単純なことで、日本人は日本人、アメリカ人はアメリカ人、イタリア人はイタリア人みたいっす・・・。いやあまあ、小説とかならこのぐらい当たり前なんだけど、エロゲでここまで緻密に設定しているゲームってほとんどないから、ビビりました。いや、主人公だけは日本人ばなれしてますが。俺もあんまり一言一句覚えてないけど、

「おい、ジャポネーゼ!お前はナカタと友達なのかい?」
「それじゃあ、お前はデルピエロと親友なんだろうなあ。」
「クックック、そりゃそうだな。参ったぜ。」

みたいな。なかなかやるですよ。もう一つ、印象的な会話。

「ドクタ、あたしより他の娘の方が可愛いよ?」
「ジェーン、俺の目は病気なのかな?俺にはジェーンが一番可愛く見えるよ。どうする?この島には眼科がないから、この眼病は治りそうもないぞ?
「じゃあ、言って!」
「・・・え?」
「あたしと、ずっと一緒にいたいって。」
「ええ?」
「ドクタ、知ってる?イタリアの女の子は神様に一番近いところで生まれたんだよ?世界一純情なんだから、はっきり言ってくれなくちゃイヤ!」

どうすか?これ?ゲーム全体がこんな感じ。なんだかとってもエラ大人。浮き足だった言葉がない。「サザエさん」でマスオが本屋で密かに買っていた「バーでモテるコツ」にもこういうことが書いてあったに違いない。

三十路に限りなく近い年になってしまうと、特にシナリオに関しては何でも上からみてしまうというか。「はいはい、こんな感じですか。がんばってね〜」みたいな非常に嫌な態度でもってゲームに接してしまうことが多いんだが、この作品に関してはさすがに圧倒されてしまった。このディテールへのこだわりはパラノイアですな。いろんな情報を網羅して散りばめ、しかもそれを知識のための知識だけでなく、物語の見えない部分にも張り巡らされている。さっきのアメリカ人がアメリカ人らしく見えるってのは、10の知識を持っている上で1だけを出しているということがシナリオから透けるから、そういう風に感じる訳だ。おそらく。

藤木さんという人はHP見ればわかるけど、こういう人なんだよね・・・。すんげー勉強してるって感じやもん。まあ、それも諸刃の剣の部分もあるにはあるんやけど。この作品でも、知に傾き過ぎて、情に乏しいところもままあったなあ。

特にヒロイン格の4人のメイドの各シナリオは情的には結構淡泊だった。さっき剣乃さんとの比較をしたけど、剣乃氏ってのは感動のために少々のつじつまは楽々放り出してしまえる人やけど、藤木さんは最後まで整合性を考えながら作っている感じがした。むしろ、メインストーリーから自由なサブシナリオの女の娘たちの方がストーリー・キャラ共に目立っていたぐらいやったし。ま、重い話ばっかりやけど。何しろ難民ですからねぇ。こんなトラウマ作りありか?全く、ヨーロッパってところは・・・。

かといって、何をおいても描こうとした物語的な部分でも全てが流れるように解決、という訳にいかなかった。これだけの構成だから最後は全ての謎が一点に収斂して、萩尾望都の漫画みたくめくるめくようなラスト・・・と思ってたんだけど、単に全ての人間のバックグラウンドが全部判ったというだけで、カタルシスあんまなかったしね・・・。特に最重要テーマであった、メイドと主人の関係を通じての「人間が人間になること」。これに総括というか、納得できる結論がなかったというのが不満といえば不満。一応書いてはあるんだけど・・・。まあ、ワタクシも大学で哲学科というのを専攻にしていましたがねえ。実存とかいう話に深入りするとアウトですなあ。

しかしま、ここまでの議論をエロゲでやる必要があるんかどうかはよくわかりません。やらんでいいでしょ〜。そんな厳密にやらんでも主人公がいきなり消えるとかなんかで煙にまいとけば良かったのに。

とにかく全体的にトラウマメインのかなり重たい話ばっかりで、本来明るくて可愛い話が好きな俺にはあんまり好きな話じゃないんだけど、やっぱりやってしまう。何より絵が横田絵だからね!

相変わらずいいっすな!「カナン」のときと違って今回は物語に合わせてグレーっぽい塗り。ちょっと昔のシルキーズ時代にもどったようなタッチや。どいつもこいつも目がキラキラ、服装も髪型もゴージャス。やっぱやる気になりますわ、この絵は。エロシーンの実用度もかなりいいセンいっていると思う。ぶっかけもある!汁質がさらに透明に近くなってきたのは不満やけど、量的には「カナン」よりもかなり増えている。「汁ゲ」という冠のゲームではないので、そう思うと非常に汁に関して目配りしてくれているな、と感じた。サブヒロインのHシーンがかなり不足しているのと、Hシーンでのテキストがパンチ不足なのが気になるけど、概ね良好。合格点は十分あげられるだろう。

結論。これはキャラ性が弱いだの、テーマが難解、操作性がイマイチなどの注釈つきながらも、なお傑作と言っていいと思う。オレは横田守、藤木隻という名前にいささか思い入れがある分、公正さを欠いているかも知れないが、ストーリー、CG、エロ、背景やマップ画面の美しさ、SDキャラの動き等その細部に至る作り込み、音楽の良さ、声優レベルの高さ。どれを取っても高水準。コンシューマーレベルならそれなりに文句つけられるだろうけど、エロゲでこれほどのゲームが出て何の文句があろうか、と。

横田守原画の徘徊型ADVでストーリーが重厚長大。DOSゲ時代を体験しているモノにとっての「傑作」の感触ってこういう感じかも。今のゲームより昔のゲームの方がよっぽどクオリティが高かったと、未だノスタルジックな感傷に浸っている俺のようなおっさんゲーマーがかなり吹き上がってしまう一作でんな。「YUNO」や「猟奇の檻2」なんかが好きだった人は一度やって欲しいと思います。

汁もあるでよ〜!
横田さん!これからも汁よろしく〜!

(2000.8.18)