第33話 ゆうれい騒動
脚本・佐々木守
絵コンテ・?
相次ぐ幽霊騒ぎでアンビリバボー状態になってしまったゼーゼマン家。
屋敷に幽霊が出ると聞いて怯えきったクララは、お父さんに帰ってきてもらうように頼みます。ロッテンマイヤーさんの手紙には無視を決め込んでいたゼーゼマンさんでしたが、クララの頼みとあってすぐさま屋敷に帰還してきました。一方、ただならぬ雰囲気の屋敷にも、ハイジは全然関心がないご様子。帰宅したセーゼマン氏にもまるで人工無脳のような応対。今やハイジは完全にクラッシュ状態のようです・・・。
半信半疑のゼーゼマンさんでしたが、セバスチャンやヨハンの深刻な様子を見て少し心配になります。ゼーゼマンさんはお医者さまと一緒に見張りをすることにしました。幽霊を待ち受ける2人・・・。本当に幽霊は現れるのでしょうか・・・。
夜。ハイジはまた、アルムの夢を見ていました・・・。おじいさんの小屋に帰ってきた夢です。真っ暗な小屋。ハイジが階段を降りておじいさんを呼びますが、誰もいません。ハイジは小屋の外に出てみると、そこは月夜に照らされた草原が広がっていました。モミの木がさざめきが、ハイジを包みます・・・。
「誰だ!誰かいるのか!」
突然の大声に、ハイジは驚いて振り向きました。そこには銃口が。ハイジは眠りながらいつの間にか寝床を抜け出して、玄関から外に出ていたのです。そこに見張りをしていたゼーゼマンさんとお医者さまが駆けつけたのでした。幽霊の正体、それはハイジだったのです。何がなにやらわからず、狼狽するハイジ。事を察したお医者さまはハイジを部屋に案内して、ベッドに寝かせます。お医者様は優しくハイジの話を聞いてあげました。
「・・・いつも同じ夢なの。いつの間にかおじいさんの家にいるの。外でモミの木が鳴っている音がして・・・でも目が覚めてみると、やっぱりフランクフルトなの・・・・」
「どこか痛むところはあるの?」
「ううん・・・このところが大きな石で押さえられているみたいなの・・・重苦しくてひどく泣きたくなるの」
「そうか・・・そういう時は思いっきり泣くかね?」
「泣いてはいけないの・・・・ロッテンマイヤーさんがいけないって」
「ふうん。それでいつもそれを飲み込んでしまうんだね。で、お前はフランクフルトにいるのが好きかね?」
「・・・・ええ・・・・」
「おじいさんはどこにいるの?」
「アルムの山の上なの・・・」
「帰りたいかね?」
「・・・・・!」
「・・・・・」
「・・・・・クララの為にここにいなくてはいけないわ・・・」
そう言ったハイジは泣いていました・・・・。クララのために全てを飲み込むハイジの苦しみを知ったお医者さまは、ゼーゼマンさんにハイジをアルムに帰してやるように言います。ハイジが夢遊病と聞いてショックを受けたゼーゼマンさんは、ハイジをやせ衰えさせたまま帰す事に反発。しかし、ここまで酷いハイジのホームシックを治すには、アルムの山に帰るのが一番なのです。
心を決めたゼーゼマンさんの行動は素早いものでした。すぐさまロッテンマイヤーさんに、夜が明けたらハイジをアルムへ帰す準備するように言います。 しかし、意外なことにあれほどハイジを嫌っていたロッテンマイヤーさんは、ハイジを帰すことに反対します。ハイジがいなくなってしまったら、クララが悲しむ。それはロッテンマイヤーさんにとって由々しき問題でした。
「ですから私は、アーデルハイドには山のことを思い出すことも話すことも禁じたのですが・・・」
「何ですって!?あなたはあの子にそんな残酷なことを命令したのですか!?」
「でも、お嬢様のおためを思って・・・」
「あなたこそ、ハイジを幽霊にした責任者だ!」
・・・・次の日。
目を覚ましたハイジに驚きの知らせが待っていました。ゼーゼマンさんからアルムへ帰るように言われたのです。一瞬、大喜びするハイジ・・・しかし、クララのことが心配でハイジは帰れないのです。ゼーゼマンさんはクララを思うハイジの気持ちに感激します。しかしそれだけに、ハイジをこのままフランクフルトで苦しめる訳にはいきません。ゼーゼマンさんの優しい説得で、ハイジはアルムに帰ることを決めました。
「いやいや!いやよ!ハイジと別れるなんて絶対にいや!」そうなると、今度はクララが悲しむ番。クララにとって今や命も同じのハイジ、そのハイジがアルムの山に帰ってしまうのは耐えられないことでした。それでも・・・都会の生活がハイジを苦しめているのです・・・クララも納得せざるを得ませんでした。しかし、ここでクララはクララがアルムの山に会いに行くという条件を出します。ハイジが来られないのなら、こっちから行こう!ゼーゼマンさんはクララの突然の申し出に驚きましたが、とりあえず来年の春にアルムへ行くという約束をして、この場を丸く収めるのでした。
慌ただしく出発の時がやってきました。綺麗な服を着せてもらって出発の支度をするハイジ。クララはハイジに手みやげのバスケットを差し出します。バスケットには白パン、おじいさんのタバコ、ハンカチ、裁縫道具、そして帽子も入っていました。クララはハイジに、来年の春にきっとアルムへ行くと約束するのでした・・・。
付き添いのセバスチャンと共に馬車に乗り込むハイジ。色々なことがあったゼーゼマンさんのお屋敷ともこれでお別れです。
「それじゃ、クララ!待ってるわよ!」
「さよならーハイジー!必ず行くわね、ハイジー!」
「待ってるわよ、クララー!」
「ハイジー!」
クララとの別れ・・・しかし、ハイジの心はあっというまにアルムへと飛んでいました。
遂に、山へ帰れるのです!
「帰りたいかね」と言うお医者さんの問いに、一瞬何かを言いかけて飲み込むハイジにめちゃくちゃ泣ける。自分で起こした文で読むだけでも泣ける。こんな小さな子供に、ここまで背負わせていいのかー!とはいえ、自分は家を空けっぱなしのくせに、ロッテンマイヤーさんを断罪するゼーゼマンさんもなんだかなぁですが。
でも、帰れるからいっか!
次の回からはもうワクワクもんでっせ。
第34話 なつかしの山へ
脚本・佐々木守
絵コンテ・横田和善
「ねぇ、セバスチャン、後どれぐらい乗っていれば着くの?」
ようやく、ようやく、ようやくハイジは山に帰れることになったのです。アルムへと向かう列車に乗り込んだハイジの心は、もう山へ飛んでいます。夜も寝られず、足は早足に・・・。セバスチャンが思い出話をしても、ちぃっとも耳に入ってきません。
そして、一晩が過ぎ、電車を乗り換えると・・・あの懐かしい山々がハイジの前に現れました。何度も夢みた、アルムです。前にこの山を見た時には悲しみで流れた涙が、今度は喜びで流れました・・・。
マイエンフェルトに着いたハイジ。着くなりハイジはもう駆けだしていました。途中であったパン屋の荷馬車に乗せられてデルフリ村へ。山は何も変わっていません。山に近づくにつれてどんどん元気になるハイジです。ただ一つ、荷馬車のおじさんが「一段と変わりもんに輪をかけた」ようになっているらしいおんじは気になりますが・・・。
デルフリ村へと着いたハイジ。もうここまで来ればハイジの庭。見送りのセバスチャンとは、ここでお別れです。セバスチャンはハイジと別れるのが少し寂しいようです・・・。
「お嬢様、いつでも帰ってらっしゃいよ。山がイヤになったら、また・・・」
「ありがとう、セバスチャン・・・。でも山がイヤになんて決して・・・決してならないわ!」
セバスチャンに手を振って別れを告げるとハイジは一目散に山小屋・・・ではなく、まずペーターのおばあさんのところへ。道すがら川の水に触れ、ピッチー達に挨拶をし、綺麗な景色を眺めたハイジは、自分が山に帰ってきたことを実感するのでした。
・・・・久しぶりにやってきたペーターの家は、相も変わらずネガティブなご様子。ハイジはそっと扉を開けて入ってみました。そこではペーターのおばあさんが、いつものように仕事をしていました。そして、おばあさんはまだハイジのことが忘れられないようです。
「・・・誰だい?ハイジもいつもあんな風に飛び込んで来たもんだが・・・」
「おばあさん!」
「・・・・・?」
「おばあさんっ、私よ、ハイジよ!ただいまー!」
「・・・・ハイジ?!」
「おばあさん!」
「ハイジ・・・!これは確かにハイジの髪だ・・・ああ、神様・・・・!」
思いもよらない来客に驚くおばあさん。おばあさんはハイジを抱きしめ、ハラハラを涙を流すのでした。ハイジは早速、おばあさんへのおみやげを渡しました。どっさりの白パンです。大昔にふと言った願いを、急に現れたハイジがかなえてくれたのです。「なんて優しい子だろう・・・」と相変わらず卑屈なおばあさん。でも、おばあさんには白パンよりも、ハイジがこの山に帰ってきてくれたことが何より嬉しいのでした・・・。
ペーターの家にいとまを告げたハイジ。いよいよ、おんじのところへ・・・。その前にハイジはフランクフルトで着せてももらった綺麗なドレスを全部脱ぎ捨て、下着姿に。「みんないらないの!私、この格好でおじいさんのところに帰るわ!」とさすがにおじいさんの喜ぶことは先刻承知のハイジです。そして、仕上げにおじいさんからもらった帽子をかぶりました。もうパーペキです。
「ウワーイ!」すっかり山の子に戻ったハイジは林を駆け抜けます。そして、その先には・・・おじいさんの山小屋が見えてきました。
「おじいさーん!」
ヨーゼフの鳴き声で外に出たおんじ・・・そこでおんじは信じられない光景にでくわします。そこに、あのハイジが、いつかの山にやってきた時と同じ姿でいるのでした!
「おお!!」
「おじいさーん、ただいまー!」
「お前は・・・ハイジ・・・ハイジ!」
おんじとハイジは、しっかりと抱き合い、喜びあうのでした・・・。
ああ、泣いたよ。泣いちまったよ。
前回に引き続き泣ける。でも「泣ける」の意味が違う。悲しくて泣くってのは簡単ですけど、嬉しくて泣けるってのはそうそうないですよ。・・・ペーターの家に行く時、山小屋に向かう時のワクワク感と言ったらねぇ。この回が「ハイジ」では一番のクライマックスだと個人的には思いますよ、ええ。
第35話 アルムの星空
脚本・吉田義昭
絵コンテ・黒田昌郎
おんじにはまだ信じられない気持ちでした。
あんなにウキウキとした声でフランクフルトへ行ってしまったハイジが、またこんなシケた山小屋に帰ってくるとは思えなかったのです。フランクフルトで何があったのかと、おんじはハイジに問います。
「私・・・どうしても、おじいさんのところを帰りたくって・・・夢ばかりみてたの・・・」
「わしのところに・・・!?」
「それで胸が詰まって、息ができないほどだったの」
「息もできないほど・・・?」
ハイジの言葉にいちいちズズーンと来るおんじ。何と、ハイジは裕福なフランクフルトのお屋敷での生活を捨てて、自ら望んで山小屋に帰ってきたのです。大いに驚くおんじ。ハイジは、山に帰れて大喜びではしゃいでいます・・・おんじはそんなハイジをじっと見つめて、意を決したようにハイジに聞きました。
「ハイジ・・・お前は本当にわしと一緒に、この山にいられるか?!」
「ずっといるわ、私!だってここがアタシの家なんだもん!ねぇおじいさん、そうでしょう!?」
「ハイジ・・・そうだとも・・・そうだとも・・・」
感激の余り、涙ぐむおんじです・・・。どーせ、都会に行ったら俺のことも忘れてしまうわい、と自ら腐してしまっていたおんじですが、今や大張り切りです。ヤケクソで片づけてしまったハイジのベッドも、もう一度作り直しました。
そして夕方になり、ペーターを出迎えるハイジ。ペーターは驚きの余り声もでません。ヤギたちの歓迎も受けるハイジ。久しぶりに会ったユキちゃんは、すっかり子持ちのヤギになっていました。シロのお腹にも赤ちゃんが。そういえば、ハイジの前に着ていた着物もすっかり小さくなっていました。いつまでも変わらないと思っていたアルムも、ハイジの知らない間に少しずつ変わっていってるのです。
久しぶりの山小屋での夕食。フランクフルトの豪勢な食事よりも、ハイジにとってはおじいさんの山小屋で食べるパンとチーズが何よりのごちそうです。またもネガティブ発想のおばあさんに「ハイジがまだ山小屋にいるか見てこい」と命じられたペーターもやってきました。「ハイジが前よりももっと怖い顔になって一言も口を聞いてくれなかった(ペーター)」おんじは、そのペーターに干し肉やパンをおみやげに持たせるのです。おんじも人が変わったかのようです。
一人の子供の存在が、山全体を幸せにした夕べでした。
ある意味では、この回が「ハイジ」の最終回と捉えてもいいと思います。誰を中心にこの話を考えるかが問題ですが、個人的には「ハイジ」で一番ドラマを持っているというか、大きな欠落を抱えていたキャラクターはおんじな訳で。そのおんじの問題がこの回で精算されました。
過去に何かしら傷を持っているらしいおんじは人を信じないし、教会にも行かない。原罪を背負った、いわゆる神を失った状態です。で、そのおんじの所に天使(ハイジ)が突然やってくる。自分以外の人間に対して不信感しか抱けないおんじは最初ハイジを純粋培養しようとして、世間との断絶を更に露わにしてしまいます。そしてその結果、デーテに再びハイジを奪われてしまう。唯一の心のよりどころだったハイジを失ったおんじはますます引きこもってしまいます。ハイジは大喜びでフランクフルトに行ったと思っている訳で、人間不信には更に拍車が。ハイジだって、結局連中に染まって同じになるじゃあ!と。
しかし、そこにハイジが戻ってきます。しかも、自分の意志で。これはおんじにとってはカルチャーショック。「ずっと一緒にいる」というハイジの確信に満ちた言葉で、おんじは心に人間を、そして神を取り戻します。ハイジを通して人間不信から立ち直ったおんじはこの回以降、全く違う人間になります(子供の頃は漫然と見ていたので気がつかなかった)。愛と信頼で救われる。こういう部分は「アンネット」と似たようなキリスト教的救済ストーリーなんですね(モチーフだけでなく、テーマも似てるっ)。
第36話 そして牧場へ
脚本・吉田義昭
絵コンテ・早川啓二
「ねぇ、ペーター!私、ペーターにあの雲ぜーんぶあげるー!」
「じゃ、ボクはハイジにこの花ぜーんぶやるよー!」
ハイジはペーターと一緒に、懐かしい牧場へ上がりました。ペーターは早起きして山小屋にかけつけるほど大張り切り。お花畑で遊ぶ2人。ハイジは帰ったらやってみたいと思っていた草の上での昼寝を敢行。ハイジはペーターにフランクフルトでの出来事を色々話し、ペーターはハイジに見せようと思っていたピッチーの巣を見せます。
2人が山の上でゴキゲンに過ごしている間。おんじは山を降りて、ハイジが荷物を預けていたパン屋を訪ねます。以前、大ケンカをしてしまったパン屋です。パン屋には只ならぬ緊張感が・・・。しかし、おんじはチーズを差し出して、パンを買うと言います。パン屋の親父がハイジの話をすると、おんじは大笑い。見たこともないおんじにパン屋は大ヒキ。しかも、荷物を受け取ったおんじは「荷物をあずかってくれて、ありがとう」とお礼まで言って帰っていったのです。驚きを隠せないパン屋の夫婦。
「・・・あのおんじが・・・ありがとうと言ったよ」
一方、ハイジとペーターは素敵な場所を発見していました。群れからはぐれたアトリを追いかけていった2人は、牧場の滝の上に綺麗な湖を発見します。そこで見るアルムの夕焼けはとても美しいものでした。ハイジはこの光景を何度フランクフルトで夢見たことでしょう・・・。
久しぶりのアルムを満喫して帰ってきたハイジ。出迎えに来てくれたおんじは後ろ手に何やら隠し持ってます・・・。それはハイジの着物でした。それを来たハイジは、まさにフランクフルトに行く以前のハイジそのもの。
「うん、これでハイジになった!」
全てが元通りになり、ハイジは大喜びで駆け回るのでした。
ユキちゃんの子供に「ユキちゃん」と名付けるハイジ。散々下着で歩き回っていたのに、着物を着るときに男2人に「ねぇ!向こう向いてて!」と言うハイジ。いや〜アルムに帰ってきてますますハイジですね。こういうハイジ的行動はフランクフルトではことどとくカウンターパンチを食らってましたけど、アルムに帰ると大概ハイジの勝利ですから、安心して見られます。フランクフルト編を挟むと、序盤では多少退屈だった部分も価値あるモノのように思えてきます。
それにしても、おんじ。モロに変わりました。村人達はおんじを悪く言うけど、基本的に善人なのがこういう時救いですね。原作では更に具体的に、おんじが教会に懺悔して村人から暖かく迎え入れられるシーンまでありますが、アニメではそこまでわかりやすい表現は無くスマートな方法がとられていると思いますね。
第37話 山羊のあかちゃん
脚本・大川久男
絵コンテ・富野喜幸
「おじいさん、今日当たり生まれるって言ったのに〜」
「う、うん、そりゃ予定でな・・・2、3日といわず狂うことはあるさ」
山に帰ってきて以来、ハイジの一番の懸案事項はシロのお腹の赤ちゃんです。そんなハイジにペーターが手紙を持ってきました。ハイジが差出人を見てみると、それはクララからでした。ハイジは大喜び。一方、おんじもペーターもハイジが字が読めることに驚きを隠せない様子。
「私は今日は牧場へは行かないわー!」とまたぺーターをマイペースに袖にして、手紙を読みふけるハイジ。手紙の内容はクララの愚痴でした。「ずっと一緒にいる」と言っていたゼーゼマンさんはまた仕事で留守に。お屋敷はハイジが来る前と同じようになってしまいました。クララはまた孤独な生活を送っているのです。切々と書かれた手紙を読んでいるうちに悲しい気持ちになってきたハイジ。早速、返事を書くことにしました。
ハイジの返事:
「お手紙読みました。私も元気です。ヨーゼフは寝ています。早く来て下さい。待っています」
あんまり短いんで笑ってしまうおんじ。文字を書いていて、ハイジは思い出しました。いつかペーターのおばあさんが、お祈りの本を読んでくれる人がいないことを嘆いていたっけ・・・。
ハイジはペーターの家を訪ねました。しかも、おんじ付きで。おんじはペーターの小屋の修理をすることを自ら希望して付いてきたのでした。「ありがたいことだ・・・」とおばあさん。そのおばあさんの前に座ったハイジは、棚の上の本を開いてすらすらと祈りの言葉を読み始めました。あのハイジが本を読んでいる!驚くおばあさんとブリギッテ。ハイジの声に乗せて聞こえる美しい言葉に、おばあさんの心は幸せで満たされるようでした・・・。
ペーターのおばあさんに涙を流して感激してもらったその帰り道、ハイジはフランクフルトで本を読めるようになったエピソードをおんじに聞かせました。夜になってもフランクフルトから持ってきたその本を楽しく読んでいるハイジを見て、おんじはふと、ハイジに聞きます。
「ハイジ、学校に行きたいかね・・・?」
「え?何か言った?」
「え・・・・・・・・いや、さ、もう寝なさい・・・・」
次の日、おんじは村で部屋を借りる話をまとめました。以前は絶対にありえなかった、ハイジを学校にやるという考え。しかし、今のおんじは昔のおんじとは違いました。おんじはハイジを学校に通わせることにし、生まれてくるヤギの子供を売ってそれを元手に村で部屋を借りて暮らすことにしたのです。
そして、ヤギの赤ちゃんが生まれました。おじいさんの決心も知らず、ハイジはもうヤギの子供のことで頭が一杯。大喜びのハイジはまたもペーターの誘いをあっさり断って、ヤギの名前を考えることに必死。しかし、おんじは最初から名前を考えるつもりはないのです。
「チーってどうかしら?チーちゃん!」
「・・・ハイジ、名前を考える必要はないんだ」
「え?どうして」
「子ヤギはすぐに売ってしまう」
「え!?」
大喜びから突然どん底にたたき落とされたハイジは大泣き。冬に学校に行くためには村で暮らす必要がある。そのためにはヤギは売らないといけない。おんじはハイジをせっせと説得します。しかし、ハイジは絶対に納得しません。
ハイジの涙に、おんじはあっさり白旗・・・。ヤギを売ることを断念します。部屋を貸してくれるはずだった村の人との交渉も決裂してしまいました。ガッカリのおんじ・・・しかし、そのおんじの目に村の外れで打ち捨てられた廃屋が止まりました。その家を調べてみたおんじは、全てを丸く収める方法を考えつきます。
ボロ屋を修繕して勝手に住み、そこから学校に通うことにしたのです。これでヤギを売らなくて済みます。その代わり、おんじは毎日ふもとに下りてその家の修理をしなくてはなりません。山小屋の世話は全てハイジが引き受けました。ハイジは幸せでした。おじいさんが自分を心から愛してくれている事を体中で感じていたのです。
相変わらずハイジパワーすごい。もうかなりのお年のおんじにイバラの道をわざわざ選ばせるとは・・・。 しかし、自分の意地のためにハイジを学校にやらなかったおんじが、今やハイジのために山を下りるというのですからねぇ・・・変われば変わるものよ・・・。