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山形米沢の12ヶ月
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アラスカハイウェイを車で走ってみたい。アラスカの旅行ガイドブックを翻訳
しながらそう思った。そこで、シアトルでレンタカーを借り、フェアバンクスま
で一ヶ月かけて車で走る計画を立てた。出発が二日後に迫った九月十一日夜、飛
行機が世界貿易センターに突っ込む瞬間を、たまたまテレビで見た。同時多発テ
ロ。飛行機は当分飛ばない。全てキャンセル。落胆は大きかった。気を紛らわそ
うと、ネットで田舎暮らしの物件を片っ端から見た。ここではないどこかへ気軽
に誘ってくれるし、心を落ちつかせてくれる。ふるさと情報館のホームページ
で、今のペンションの物件を見つけたのは、そんな時だった。
ペンションは学生時代からのあこがれだった。自然が好きだったし、アウトド
アスポーツが好きだったし、何より人と触れ合うのが好きだった。ただ、自己資
金で購入できる格安物件は、気に入らないものばかりだった。その時も格安物件
だったので、期待せずに見に行ったのだが、見て驚いた。客室は吹き抜けのダイ
ニングを中心にして、二階にぐるりとまとまり、風呂は人工とはいえ温泉で、バ
ールームまであるという本格ペンションだった。快晴の一日、秋の陽光が紅葉に
映え、ダイニングは自然の色彩に包まれていた。美しかった。ここしかないとそ
の場で決めた。十月四日のことだ。
引っ越したのは二ヶ月後の十二月五日。今から思えば無謀としかいいようがな
い。この頃は雪におおわれ、引っ越しなど愚かとしかいいようがないのだが、こ
の日も快晴に恵まれ、冬にしては暖かく穏やかな一日だった。祝福されている、
そう思っていたら、翌日から小雪まじりの北風に見舞われた。引っ越しの日は、
ストーブがいらないほど暖かかったが、急に寒くなり、慌ててブルーヒーターを
買いに行った。広いダイニングは、普通のストーブでは暖まらない。路面の凍結
も心配された。タイヤチェーンがあったので、それで間に合わせるつもりだった
が、スタッドレスに代えた。思わぬ出費が次々と続く。だが、不安はなかった。
その時は、やる気の方がはるかにまさっていた。