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山形米沢の12ヶ月
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ペンションを始める時、薪ストーブが頭に浮かんだ。はぜる音、ゆれる炎、照らされた空間、ゆらめく暗闇。イメージはふくらん
だ。森の生活に自然の炎は欠かせない。無知と暗闇の中にいた人間に火を与えて
くれたのがギリシャ神話のプロメテウス。文明はここに始まった。人間文明の原
点にもどって心豊かな生活を取り戻そう。気合いが入っていた。
ネットで薪ストーブのことを調べ、参考図書を熱心に読み、メーカーからカタ
ログを取り寄せ、山形市のぜいたく屋さんを訪れた。11月のことだ。
米沢に引っ越す前に設置してもらおうとしたが、冬が迫っていたのであきらめ
た。取りかかったのは翌年の夏だった。炉床と炉壁は自分で作った。生涯最高の
傑作と自画自賛。勢いはいよいよ盛んになってくる。季節は秋になっていた。
薪ストーブのことは真剣に考えたのだが、薪のことはあまり考えなかった。愚
かだった。缶詰を買い込んで缶切りを忘れたようなものだ。薪の注文は通常夏前
にするらしい。
運良く煙道工事の施工をしてくれた大工さんの紹介で製材所からベイマツの角
材をもらうことができた。薪にするのは、熾きになってじっくり燃えるブナやナ
ラなどの広葉樹。針葉樹は熾きにならず、すぐに燃えてしまうので薪としては役
に立たないというが、私の場合、いただいたベイマツは十分役に立った。
薪の計量単位は1本、2本ではなく、ここらではひと棚、ふた棚と呼んでる。高
さ150センチ、横180センチの空間に積まれた薪をひと棚という。薪の長さが30セ
ンチの場合ひと棚一万五千円。45センチになると二万円。ひと冬で10棚は使うと
ぜいたく屋さん。15万円! それこそぜいたく。タダでもらう方法を探さねば。
リンゴの木は燃やすといい香りがすると本にあった。くだもの王国山形にはリ
ンゴ農家はたくさんあるからから、すぐにもらうことができた。リンゴが木にな
っている姿は美しいが、リンゴの木そのものもきれいだ。ただ、燃やすといい香
りがするというのはどうだろう。
これだけでは足りず、林業をしている佐藤五郎さんという人のところに行き、
作業を手伝いタダで薪をもらう。木の香りをかぎながらの作業は面白いのだが、
くたくた。さて10月、そろそろ冬の準備、薪の準備をする時期だ。