![]() |
山形米沢の12ヶ月
|
日本贔屓のオランダ人夫婦にサンという名の息子がいた。英語の太陽のことかと
思っ
ていたら日本語だという。意味を尋ねると知らないと。知らないのにどうして日本語
なのか不思議だったが、日本語の三という数字は産と同音で、ものが産まれる意味の
ラッキーナンバーだと説明すると、とても喜んでいた。三年はがんばれとか、新人相
手の会話にもよく出る。二でも四でもない。なぜか三年だ。
ペンションを始めて三年目の冬、年末年始に驚くほどの予約が入った。やっぱり三
年か、と喜んでいたら、雪が降らない。スキー場の中にあるのが大きなメリットなの
だから、雪がなければただの不便な宿だ。キャンセルを覚悟していたら、ありがたい
ことに、ほとんどの人が宿泊してくれた。雪がある時は麓の駐車場からスノーモービ
ルだが、この時は車で送迎した。スキーができるほどではないが、雪はあるし、路面
も凍結している。所々傾斜の急な坂もある。雪道に慣れていないお客さんは、私の運
転を、さすが慣れてますねというが、雪国の冬はまだ二年だ。事情を知らない人には
そう見えるのかと、ひやひやしながら運転する。
ある朝、お客さんを乗せて駐車場に下りていたところ、たくさんの人が路上にい
る。
急カーブを曲がると急な下り坂になるあたりだ。どうしたのだろうと思いながら、急
カーブを曲がると後輪が滑った。まずいとハンドルを右に切る。左は谷だから、とっ
さの反応だ。右に方向を変えると、目の前に車が止まっていた。たくさんの人がいた
のはそういうわけだった。その車がどれほど危険な場所に止まっているか、みんなが
案じていたところに、私の車が入って行ったのだ。このままでは車にぶつかるとハン
ドルを左に切ったが、今度は谷に突っ込みそうになった。慌てて右に切り、左、右、
左と、車はやっと安定した。迷惑な車はスキー客の車で、路面凍結と急坂のため上れ
ず、そこに乗り捨てたらしい。
見ていた人の誰もが谷に落ちると思ったという。左前輪は宙に浮き、車の底が見え
ていたらしい。あの時ブレーキを踏んでいたら滑ってそのまま谷に突っ込んでいただ
ろう。アクセルを踏んでバランスを立て直したのがよかった。車には小さな女の子と
男の子とその両親が乗っていた。その人達も、谷に落ちると思ったという。落ちたら
どうなったか、思い出す度にぞっとしている。