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山形米沢の12ヶ月
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ブラッド・ピット主演の「リバー・ランズ・スルー・イット」は渓流釣りの美
しさを伝えてくれる。楽しさではなく美しさだ。1992年のアカデミー撮影賞を受
賞したこの作品は、緑に囲まれたきらめく渓流、投じられた光る釣り糸など、渓
流釣りをきれいにとらえている。フライ・フィッシングの天才を演じたブラピ
は、バクチと酒に溺れ、喧嘩で死ぬが、渓流では自然と見事に調和していた。
米沢に来る前から渓流釣り、フライ・フィッシングに憧れていた。運良く近く
のペンションのオーナーがフライの達人だった。道具を貸してくれ、釣り方、キ
ャスティングの練習方法、フライの作り方などを教えてくれた。雪がとけて間も
ない頃のことだ。
渓流釣りが許可されているのは3月1日から9月30日までだが、春先は餌釣りで
なければ釣れない。初めてフライ・フィッシングに行ったのは4月中旬だった。
やはりフライには早く、達人もぼうずだった。二度目は5月中旬だ。フライが渓
流に浮いて流れる様をじっと見ているとわくわくした。真ん中にある岩のあたり
でフライが消えた。あれっと思っていたら釣れていた。20センチのイワナだっ
た。
隣のペンションによしくんがいる。私より年上だが、みんながよしくんと呼んでい
るのでそう呼んでいる。この人は私より遅くフライを始めたが、私よりはるかに
上手だ。私には見えないが、よしくんには魚が見えるらしい。それもそのはずで、
地元で生まれ育ったこの人はイワナを手でつかむ。フライで釣れないと、もう頭
にきたといって釣竿を放り投げ、深みにじゃばじゃば入って手でイワナをつかま
えてくる。手でつかまえられるのなら、わざわざ道具を揃え、ポイントに何度も
キャスティングし、釣れるのをじっと待つなど面倒ではとも思うが、生きるとは
結果ではなくプロセスなのだという人生の真実がそこにあるのだろう。
春のヤマメやイワナは水っぽいが、夏は脂がのってうまい。薫製に合うので焚
き火で食べるのがいいがそうもいかない。よしくんは焼いてすぐに食べずに翌日食
べると身が引きしまっておいしいという。
夏場は水流が減り、魚は浅瀬にいる。涼を求めて渓流を歩きながらポイントに
キャスティングする喜びは、などと思っていたら、フライが枝に引っかかって苦
労する。映画の中の渓流と違い、ここはフィールドが狭い。