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山形米沢の12ヶ月
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ペンションスクルージを開業してから、スクルージとはどういう意味ですかとよく
聞かれた。その度に「イギリスの作家チャールズ・ディケンズの小説、クリスマス・
キャロルの主人公の名で」と勇んで説明した。時には「ケチで情け知らずの人間が善
人になっていく話で」などと内容を説明したりした。「英米文学の名作を原書で読ん
でみませんか」というメルマガを6年近く発行しているが、その時読んでいたのが
「クリスマス・キャロル」で、ペンションを開業する時、ぜひともその主人公の名を
付けたかった。
スクルージという名を知っている人でも「知ってる! ドナルドダックが演ってる」
とディズニーの映画になる。その度に「いえいえ、ディズニーでもなければドナルド
ダックでもなく、イギリスの作家チャールズ・ディケンズの小説で…」とくどくど説
明した。何度も説明していると説明もだんだん雑になってきて、いつ頃からか「ドナ
ルドダック? ええそうなんですよ、そのスクルージですよ!」となり、ディズニー
の作品を知らない人には最初から「スクルージっていうのは、ディズニーで、ドナル
ドダックが演ってます」と。最近は何もいわない。「イギリスの作家チャールズ・ディ
ケンズの小説で」などといったら相手が引いてしまう。といって、ディズニーのドナ
ルドダックとはちょっと違う。
スクルージとは英語では守銭奴という意味だから、ペンションの名としてはふさわ
しくない。これほどひどくいわれている彼も最初はそんな人間ではなかった。幼子の
ような陽気で清らかなクリスマスの精神を持ち続けていたいと願っても、現実は思う
通りにはならない。スクルージのように守銭奴として生きている人は多い。そうしな
いと生きていけないこともある。捨ててきたものを時々ふっと思い出すか、全く思い
出さないか。人生で大切なものとは何だろう。ある人は知ることと愛することだとい
う。
クリスマスはいつもは気づかない、捨ててきた大切なものに気づく時なのだろうが、
楽しむことに忙しい今のクリスマスは、大切なものが遠のくばかりだ。クリスマスに
限らず、気づかせてくれる機会はますます少なくなっている。
スクルージは幽霊のおかげで気づいた。不運は大きな幸運となった。スクルージの
意味を聞かれたら、これからは知ることと愛することですと答えよう。