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山形米沢の12ヶ月
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米沢高原の冬は一大イベントだ。雪が降ると車道はスキー場の林間コースにな
るため、車が横付けできない。交通手段は全てスノーモービルになる。トイレッ
トペーパーなど、買い置きできるものはしておく。大きな買い物、作業・修繕な
ども冬の前に全てすませておく。11月は何もしなくてもどこか落ち着かない。う
きうきするような不安なような、大事を前にした心境だ。
冬の準備、冬構えに欠かせないのがスモークサーモン作りだ。一年分をまとめ
て作り、冷凍しておくのもこの時期だ。森の生活に薫製は欠かせない。食品を保
存する手段を持たなかったはるか昔、人々は焚き火の煙がかかった肉や魚に高い
保存性があることに気づいた。これが薫製の始まり、食文化の始まりだ。
以前から薫製はしていたが、まともに仕上がったことがない。本を読みながら
の作業だが、うまくいかなかった。こちらに越してきた翌年の冬、フランスレス
トランをしていたペンションのオーナーから、スモークサーモンの作り方を教え
るから来たらどうと電話があった。
サーモンを3枚におろし、ソミュール液を作り、スモーカーを見せてもらい、
それから酒盛り。鮭ではなく酒の方がメインだったが、これでコツをつかんだ。
本ではピンとこなかったが、ピンときた。目からうろこが落ちた。つまり、本の
通りに作らなくても、ポイントをおさえて自分のやりやすい方法で作ればいいの
だ。
まずは鮭を手に入れる。できるだけ新鮮でなどという必要はない。新聞の折り
込みチラシを毎日チェックして大売り出しを狙う。特売の鮭でも十分おいしいス
モークサーモンができる。高級な紅鮭で作ったこともあるが、特売と味はそう変
わらなかった。
冷凍のスモークサーモンは食べたい時に食べられて重宝する。ただ、手作りな
のでどうしても味にムラができる。塩が抜けすぎて味が足りなかったり、利きす
ぎて塩辛かったりと、同じ切り身でも食べてみるまでどんな味か分からない。手
作りの良さがそこにあるのだろうが、出された方はハズレではなくおいしいもの
を食べたいだろう。うまい! 塩味と薫製の香りが絶妙だ、と感動をダイレクト
に伝えてくれる人もいれば、何もいわない人もいる。中には残す人もいる。十人
十色。分かっているが、気にしてしまう。残したのを味見するわけにもなあ。