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山形米沢の12ヶ月
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あの川なら絶対釣れる。隣のペンションのよしくんがしきりにいう。そこは山を越
えて行く難所で、人が入らないので魚影も濃いらしい。絶対に釣れるというその川に
は、深夜3時に起きて出かけた。山の麓に車を止め、登り始めた頃は明るくなりかけ
ていた。
途中休憩して、川に入ったのが6時頃だった。ここまでする釣りがあろうか、究極
の渓流釣り、と勇んで糸を垂らす。だが、全く釣れない。川を上りながらポイントに
キャスティングをするが、さっぱり釣れない。おかしい?
イワナの手づかみが得意なよしくんは、手で岩を探ってみる。イワナはいない。水
中メガネを出して岩の底をのぞいてみてもいない。おかしい、と思っていたら、釣り
人が前にいた。餌釣りで大漁のイワナをあげていた。
麓には車は止まっていなかったから人がいるはずはないのだがと話していると、目
の前に大きな道路が出てきた。あれ!こんな所にこんな道路はなかったはずだけど…。
よしくんのその言葉には怒りがあった。暗いうちから2時間以上かけて山越えをした
のだ。山の中に道を造るのがこの国のお家芸にしても、どうしてこんな所にというほ
どの山の中なのだ。
翌日、よしくんがイワナの手づかみに行こうという。前の日の埋め合わせのようだっ
た。釣れなくても山登りと川歩きでリフレッシュし、十分満足していたのだが、よし
くんは私が気を使っていると思っているようだった。
今回は車で山に入り、山道に車を止め、すぐ横の斜面を下りた。流れのゆるやかな
その川は、膝くらいまでしか水位がなく、楽に岩に手を入れることができた。イワナ
の手づかみなど、小さい頃から慣れているよしくんならできても、私などは何年かかっ
ても無理だと思っていたので、言われた通りのことは一応するが、気が入らない。
岩を抱くように底を探っていると、ぬるぬるするものが手に触れた。両手でゆっく
りつかんで川面から上げると、イワナだった。イワナを手でつかんでいる!私は驚き
のあまりイワナをその場で放り投げた。その様子がよほどおかしかったのだろう、す
ぐに知れ渡り、しばらくみんなの話題になった。話題になる度に私はその時の感触を
思い出した。
イワナの手づかみは、面白いなんてもんじゃない。