創造の技法と発明分析・明細書作成法
弁理士 遠山 勉
1. 2000年10月5日に開催された、弁理士会 金沢セミナーにおいて、北陸先端科学技術大学院大学 国藤 進先生 の講義を拝聴する機会を得ました。氏は発想支援システムについての研究をされています。
講演から、創造的問題解決のプロセスと発明分析手法及び明細書作成手法に大きく関連することが分かりましたので、ここに、ご紹介します。
2. 創造的問題解決のプロセスと発明分析・明細書作成手法
川喜多 二郎 |
ワラス |
パース |
ブルーナ |
市川亀久彌 |
デボノ |
ヴェルト・ハイマー |
国藤グループ |
遠山・発明分析法 |
問題提起 |
準備 |
発想 |
直感的思考 |
アナログ思考 |
水平思考 |
生産的思考 |
発散的思考 |
目的の設定(問題提起) |
現状把握 |
あたため |
静的分析(現状把握) |
本質追究 |
収束的思考 |
動的分析(発散と収束) |
仮説評価・決断 |
ひらめき |
アイデア結晶化 |
発明の特定(効果・機能対応で、発明の必須要件を導出する) |
構想計画 |
評価検証 |
演繹 |
分析的思考 |
デジタル思考 |
垂直思考 |
再生的思考 |
評価・検証 |
明細書ストーリーの決定 |
具体策 |
実施形態の特定(詳細な説明) |
手順の計画 |
帰納 |
表現形式の選択 |
実施 |
文章化 |
結果の検証 |
文章の推敲 |
総括・味わい |
表中の「造的問題解決のプロセス」は、国藤 進氏、発想支援システムの研究開発動向とその課題(人工知能学会誌 Vol.8No.5(sep. 1993)からの抜粋です。
3.発明分析手法と創造的問題解決のプロセスとの対比
以下、発明分析手順を上記創造的問題解決プロセスと対比して説明します。
(3−1)発明の静的分析
ここでは、川喜多氏のいう、「問題提起」と「現状把握」を行います。
まず、(a)「目的」「構成」「作用・効果」の項目を有する1枚の紙を用意する。
そして、(b)用意した用紙の各項目に発明者が認識している発明(新規技術・新規機能)をありのままに記載する。発明者が認識している技術は発明の一実施例である。
@目的の欄:発明者が認識している目的を記載
開発テーマ、従来の問題点
A構成の欄:その目的を達成するための具体的にどのようなことをしたか現実 に完成した装置や物を構成要素毎に箇条書する。
現実に行った方法をその手順に従って箇条書にする。
B効果の欄:どのような効果が得られたのかを記載する
ここでは、現状把握ですから、発明に関する現状の状態を「事実問題」としてそのまま記載し、「余計なこと」「主観的なこと」は一切記載しないことが重要です。
(3−2)発明の動的分析
ここでは、川喜多氏のいう「本質追究」を行います。なお、国藤グループでは、川喜多氏の「現状把握」のために、「発散的思考」を行っていますが、発明の動的分析は発明の「本質追究」のために、国藤グループの「発散的思考」と「収束的思考」を使用します。
各項目に記載した事項を客観的に眺め、発明の抽出、分析、明細書作成のための補充データの必要性、新たな開発テーマの抽出などを行う。
動的分析1 (発散的思考) ブレーンストーミングなどの手法で発明構成要素となるべき技術事項を「発散的」に拡大します。
@各構成要素に着目
★各構成要素が発明の効果を奏するためにどのような機能・作用を有しているのかを検討する。
Aその機能と同一の機能・作用をする他の代替構成はあるのかを検討する。
★正面からの分析、作用・効果からのフィードバックによる分析
目的達成上の最小限の構成は?
作用・効果から応用品を考える
発明の種類を考える
方法の工程順は逆でもよいか?
★その代替構成と元の構成とを併せた上位概念の構成が本来の発明の構成要素である。
★化学物質の場合、その機能や作用が不明確である場合が多い、その場合、近似の物質が本発明にも使用できないかを検討する。
B必要データの補充
★各構成要素の作用・効果を裏付けるに足る、すなわち、当該構成が発明を構成 するであろうとの証明となる必要データがあるか否かを検討する(実施例の補充)。
動的分析2 収束的思考
C構成要素の機能・作用から別の効果がないかを検討
★別の効果があれば目的自体変更となる場合あり。
副次的効果から目的が変わるか?
D構成要素の機能・作用から本発明と異なる概念の別の開発テーマを見いだせるか検討。
E従来例を考慮して、発明の必須構成要素の限定を行う。
★物、方法、装置、用途、部品、原料等の各種発明を考える。
発明の特定
★分析結果得られた複数の効果から、その効果対応で発明を特定する。特定は発明の種類に応じる。そして、得られたデータを明細書の各項目に振り分け、明細書を構成する。
遠山による発明の分析手法は、<権利一体の原則>を利用したもので、構成(機能)が異なれば別発明となることに着眼し、各構成の組み合わせ如何により、様々な発明が構成できることを主眼としております。 その様々な組み合わせを探し出すことで、出願可能な発明を認識することができるのです。 発明分析過程は、発想法としても利用でき、発明者自身が認識していなかった発明をさらに認識できるというメリットがあります。