特許明細書に関するQ&A

2007知財協・関東C8B

 質問1 請求項を一文で構成する意味(メリット)は、何でしょうか。先生は、なぜ請求項を一文で構成されるのですか。

 

答え

 一文で請求項を書く慣習は、大正10年法特許法施行規則第三十八条に由来すると言われております。同条には、

「明細書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ

一 発明ノ名称

二 発明ノ性質及目的ノ要領

三 図面ノ略解

四 発明ノ詳細ナル説明

五 発明相互ノ関係

六 特許請求ノ範囲

発明ノ名称ハ発明ノ内容ヲ簡明ニ表示スヘシ

発明ノ性質及目的ノ要領ニハ其ノ発明ノ特徴及直接ノ効果ヲ簡明ニ記載スヘシ

発明の詳細ナル説明ニハ其ノ発明ノ構成、作用、効果及実施ノ態様ヲ記載スヘシ

「発明の詳細ナル説明ニハ其ノ発明ノ属スル技術分野ニ於テ通常の技術的知識ヲ有スル者カ其ノ発明ヲ正確ニ理解シ且ツ容易ニ実施スルコトヲ得ヘキ程度ニ其ノ発明ノ構成,作用,効果及実施ノ態様ヲ記載シ併セテ特許請求ノ範囲ノ記載事項ノ意義ヲ明確ニスルヲ要ス」(昭和32年改正追加)

発明相互ノ関係ニハ追加ノ特許出願ニ在リテハ其ノ原発明ノ改良又ハ拡張ノ態様ヲ、他ノ特許発明又ハ登録実用新案ヲ実施スルニ非サレハ実施スルコト能ハサル発明ノ特許出願ニ在リテハ其ノ実施ノ態様ヲ、特許法第七条但書ノ規定ニ依ル特許出願ニ在リテハ各発明ノ牽連スル態様ヲ記載スヘシ

特許請求ノ範囲ニハ発明ノ構成ニ欠クヘカラサル事項ノミヲ一項ニ記載スヘシ但シ発明実施ノ態様ヲ別項ニ附記スルコトヲ妨ケス此ノ場合ニ於テハ其ノ附記タル旨ヲ明示スヘシ」と規定されておりました。

 

★発明ノ構成ニ欠クヘカラサル事項ノミヲ一項ニ記載スヘシというところから、一文で記載する慣習が生まれたようです。

現行法では、このうような規定は存在しません。よって、一文で記載する必要はありません。発明の構成要素を、項分けをして記載してもよいわけです。要は、発明の構成が明確で、相互の有機的結合関係が明かであればどのような形式でもよいわけです。

 

質問2

(1)【技術分野】の記載について

クレームに記載された技術範囲(権利の範囲)は、【技術分野】に記載された分野に限定されますか。例えば、クレームでは「記録媒体」と書かれていて、【技術分野】が「ICカード」の場合、権利範囲は「ICカード」だけになりますか。

 

特許発明の技術的範囲は、クレームに基づき決められます(特70条)。よって、クレームにに記録媒体と記載されていた以上、形式的な技術的範囲は記録媒体をカバーします。しかし、クレームでいうところの記録媒体が、実質的にICカードに限定されるような開示内容であったとしたら、解釈上はICカードに限定される場合もあります。

形式的に【技術分野】が「ICカード」だからといって、権利範囲が直ちに「ICカード」だけになるものではありません。あくまでも実質的判断によることとなりましょう。

 

(2)【発明が解決しようとする課題】の記載について

出願明細書では課題を1つしか書かなくても、他の課題を実施例に書いておけば、審査の過程で課題を変えることができると説明されておりましたが、発明の要旨変更として拒絶されませんか。

 

答え 現行法で発明の要旨変更という概念がないので、新規事項追加という観点から説明します。

実施例に他の課題を書いたということは、その課題に対応した構成が実施例に書いてあるはずです。よって、当該課題と構成を対応させる補正は可能です。また、分割も可能です。ただ、課題が違うということになると、シフト補正になりがちだと思います。シフト補正にならないように気をつける必要はあります。

 

(3)【発明の効果】の記載について

効果とは、漠然と広い概念で書くべきですか。それとも、具体的に書くべきですか。(権利行使の面から考えた場合)。例えば、ICカードリーダに関する発明であったとして、効果は「読み取り性能向上」と書くべきか、「読み取りエラーを抑える」とか「読み取り速度向上」といった複数の効果の中から一番メインのものを一つ書くべきでしょうか。

 

答え 発明の構成に対応して、論理的な結果として効果が生じます。その効果は、漠然としたものではないはずです。「読み取りエラーを抑える」という効果と、「読み取り速度向上」という効果は、前提となる構成が異なるはずです。「読み取りエラーを抑える」という効果を奏する構成の発明で、単に「読み取り性能向上」と言った場合、それってどのような性能が向上するの?ということになります。複数の効果が必ず奏する構成であれば、それを全て書いても、問題が生じることはないかもしれませんが、解釈の幅が狭くなることは確かです。これを参考にあとはさじ加減で書いてください。

 

 

質問 3

【技術分野】に書く内容について、発明の特徴部分を簡単に説明するというお話しでしたが、ここを書く目的は何でしょうか。発明が利用(使用)される分野(業種・産業分野)を書くべきものではないのですね。また、目的や効果などを書いてしまった場合にはどのような害が起こりうるのでしょうか。

 答え ここは、審査範囲を決める手がかりとなるところです。その意味で、国際特許分類を意識するとよいと思います。目的や効果を書いてまずいことはないですが、これらは他の項に書くので、わざわざここで書く必要はなく、ここには、審査範囲の手がかりとなる発明の名称や、構造的特徴となるところを記載するのがよいとしているわけです。