撮影地:エア湖(Oodnadatta Track)

● 逃避行-4
黒雲が渦巻き、荒野を烈風が舐め尽くす。雲の下に入ってしばらくすると、遂に恐れていた雨が来た。覚悟はしていたが、天の底が抜けたような豪雨である。「どこが大陸一降雨量の少ない場所なんだ!」、「よりによって今日降らなくても」、しかし、天に泣き言は通じない。洗車機に入ったような状況で視界はほとんど失われた。ワイパーの狭間に見える微かな視野を頼りに進む。さすがにこの状況では写真を撮っていない。今考えると残念だ。僅かな視界の中、路傍に十字架が一瞬見えた。後で知ったことだが、98年に車が動けなくなり、3日間救援を待ったものの、最後はウナダッタ・トラックへ歩く途中に外国人観光客が命を落とした場所である。ルートの後半で雨脚は弱まったが、路面状態は最悪。スタックの恐れが高い場所は特に慎重に進む。道が大きく水没している場合は道端のブッシュに逸れて大きくU字形に迂回、水没区間の"対岸"に出る。アウトバックのツアードライバーがよく使う方法だ。そしていよいよ往路に肝を冷やした大水没区間。水の範囲は広大になり、迂回する場所もない。「一輪がにトラクションがあればスタックしない」と頭に言い聞かせて進入する。泥濘は深い。四輪のうちどれかが常に空転を起こしている。右前輪がものすごい勢いで泥を後方へ跳ね飛ばし、右側面の窓は全て泥で塞がった。「あと少し」と思った時、車が大きく唸り始めた。「やばいか!」、シフトダウンしたいところだが、過剰な力をかけてスタックするのを嫌い、そのままアクセルワークに集中する。なおも唸るランクルにワシは叫んだ(本当に)「世界一の車だろ!その力を見せてくれ!」。

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Nikon F4 with MF-23,
Ai AF Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-F4.5S,
Fujichrome PROVIA 100F (RDP III)
Aperture-Priority Auto @ F5.6
On the track to William Creek, Lake Eyre North, South Australia
October, 2001

2002.08.07 掲載