僕の一家は代々「校務員」をしている。明治以来の古い学校で、学校の敷地内はずれの一角に僕の家もある。
なんの疑問も持たず僕もその家業についた。
「校務員」と同じ発音で「公務員」というものもあり「代々校務員をしています」と言えば「あら、結構なご身分で」等と嫌みを言われる事もあるこのご時勢、一から「そっちの公務員じゃないですよ」と説明するのにはもう飽き飽きしている。

 
 そんな校務員の僕は一生懸命な生徒達の汗と涙が大好きだ。何の疑問も待たずにただ代々の家業を継いだ僕には生徒達が懸命に頑張る汗と涙は眩しいものに見え、敷地の草刈りや掃除の手を止めいつしか引き込まれて眺めるのが日課になってしまっていた。
 しかし、眺めているうちに何かが僕の心に芽生えてきた。いったいなんだろう、この灰色のモヤモヤした雲は。不安のような喜びのような奇妙なワクワク感。

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