セコイアオスギ  Sequoiadendron giganteum

セコイアオスギ(ヨセミテ公園:2010.7.11.)

セコイアオスギ (ヨセミテ公園:2010.7.11)

スギ科* セコイアオスギ属 【*APGⅢ:ヒノキ科】

Sequoia (人名:Sequo-yah) + dendron 木  giganteum 巨大な

栽培記録へのリンク

小学生だったか、中学生だったか、ある少年雑誌でセコイアという大きな木の幹を四角く切り抜いて道を通し、小さな車がそこを通り抜けた写真を見たことがあります*。ひどいことをするものだと思う一方、こんな大きな木を一度でいいから見てみたいものだと思いました。今年(2010年)の夏、ある旅行社のハイキングツアーに便乗してアメリカ・ヨセミテ公園南西端の Mariposa Grove という所のセコイア(セコイアオスギ)の大木を見てきました。むかし、写真で見た木のあったところです(*:The Maliposa Grove of Giant Sequoia というサイトの中の動画に、車が通る通り抜ける昔の様子が収録されています)

実は、セコイアの名の付く木は2種類あって、一つは、日本でふつうにセコイアと呼んでいる Sequoia sempervirens という木で、アメリカでは Coast Redwood または単に Redwood と呼ばれています。もう一つは、 Sequoiadendron giganteum、和名をセコイアオスギ という木で、アメリカではこちらの方をセコイア、あるいは Giant Sequoia と呼んでいます。どちらもアメリカ西海岸の冬雨地帯(地中海性気候)に生育する木ですが、Redwoodのほうは太平洋岸に近い山地 (Coast Ranges) の、夏季にも霧がかかるような特殊な環境 (Fog belt:雲霧帯) に生育し、世界でもっとも背が高くなれる木で、樹高80~100m、最も高いものでは110mを越えることが出来ます。一方、Giant Sequoia は、樹高は60~80mでセコイアよりも低いものの、幹の太さは大変大きく、中には根元の直径が10mを越えるものもあり、事実上、世界最大の生き物と呼ばれています。

セコイアオスギは、北アメリカのシエラ・ネヴァダ山脈中~南部の西斜面の限られた区域だけに生育しています(分布図)

最初にこの木が発見されたのは1850年頃とされ、発見当初から1900年頃までは、この木を用材として利用する目的でかなり伐採されたようです。しかし、相手があまりにも巨大であるために伐採に大変な労力がかかる上、木が倒れるときに大きく壊れたり、あるいは、仮にうまく倒れたとしてもあまりに大きすぎて、それを人手でこなすためには、さらにダイナマイトを使って小さくする必要があるなどして、場合によっては80%が無駄になりました。しかも実際に得られた材が小屋や厩舎、牧場の柵、あるいは板葺き屋根のこけら板(屋根板)にしか利用できないなど商品価値が低く、労多くして益少なしだったようです(この木の材の仮比重0.29g/cm^3が他の樹木、たとえばDouglas fir (Pseudotsuga menziesii :0.51g/cm^3) や Canyon live oak (Quercus chrysolepis :0.855/cm^3) にくらべて非常に小さく、この材の弱さやもろさに関係していると指摘する文献もあります)。

そうこうするうちに、アメリカの自然を護ろうという気運がたかまり、その中でセコイアオスギの自生地も国立公園や国有林の保護区、州立公園などに指定されて、現在小さな林分も含め75箇所の生育地が名前をつけて保護されているようです。現在では、私有地に生育する少数の個体が伐採されることはあっても、95%以上の大木は何らかの保護のもとにあるそうです。

むかし、写真で見た幹をくりぬいて馬車や小さな車を通したという木 (Wawona Tunnel Tree という名前が付いていました)は1969年冬の記録的な雪の重みで倒れ、その幹は50年近くたった今でも生々しく残っているはずですが、残念ながら今回はガイドが案内してくれず、別のところにあるトンネルツリー(California Tunnel Tree(上写真左):1895年にくりぬく)を見ただけでした。というのも、観察の一番最初に見たのが倒れてからすでに何世紀もたつだろうと推定されている Fallen Monarch (上写真右)と名付けられた有名な倒木で、わざわざ寄り道してまで最近倒れた木を見に行くことはないと思ったのかも知れません。

現在、Mariposa grove に生存するセコイアオスギで一番大きく、また樹齢の高い木とされるのは、Grizzly Giant と呼ばれる木(右写真)で、樹高は60mほどですが、根元の幹直径が9.4mほどあり、地上18mにおける直径が5m近く、さらに地上36mにおける直径が4mもあるとされています。この木の一番下にある大枝は地上30mほどの所にありますが、その直径は1.8mもあり、この木のそばにある他の木のどれもこの枝に及ばないといわれます。さらに、この木の樹齢は2500~3000年と推定されています。

この木で、根元から三角形に見える黒い部分が目立ちますが、これは、山火事の際、幹が焼けこげた跡です。この木に限らず、上の写真のトンネルツリーも、幹が何回もの山火事で大きく損傷した跡をくりぬいたものですし、そのほかにも、Clothespin Tree という個体は、写真のように幹のかなり上まで欠損してピンセットのような形になったものや、幹の中心部が根元から、幹の先端部まで焼け抜けてしまって、下から空が見える Telescope Tree などもあり、セコイアオスギの大木のほとんどに山火事の痕跡が見られます。

セコイアオスギがこのように山火事による大きな損傷を受けながら、なおかつ、1000年、2000年と生き延びてきたのは、大きなセコイアオスギにとって山火事が致命的な障害にならなかったという証しなのですが、これは、一つにはセコイアオスギの樹皮(繊維質でとても軽い)がとても厚く、30cm以上、場合によっては60cm近くもあり、かつ、タンニンを非常に多く含んでいて大変燃えにくいため、仮に山火事の火が幹にかかって樹皮表面が焼けこげてもその熱は材の形成層を痛めるに至らないこと、一つには、材そのものも樹脂が無く、タンニンを多く含み、こちらも大変燃えにくいことが挙げられています。また、損傷を受けた樹皮や材から分泌されるタンニンが、たとえば菌類や昆虫類を寄せ付けず、山火事によって受けた傷口から腐朽が進むのを防いでいるともいわれています。

ただ、幹は確かに分厚い樹皮によって保護されているものの、根の部分は樹皮による保護がなく、例えば土壌流亡によって根の一部が露出したところに火が及ぶと材が焼け、その影響が地上部に及ぶことがあり、例えばGrizzly Giant のような焦げ跡が残ります(これも、うまくいけば周辺の生き残った部分が成長するにつれて傷口をふさいでいきます)。

実は、セコイアオスギの自生地を訪れて、全く予想外だったのがこの山火事のことでした。
 現地へ行くまでは、セコイアオスギも、もう一つの近縁種セコイアと同じように、霧深い、湿度の高いしっとりした環境の中に生えているものと思っていましたが、実際は、明らかに比較的最近に山火事や林床火災(surface fire)があったことが見て取れる、明るく乾いた、なだらかなところに生えていました。しかも、Mariposa Grove の入り口だけでなく、我々の周回したほぼ全域が、程度の差こそあれ、山火事や林床火災の跡地と言っていい状況だったのです。

こんなに山火事が多いというのは、例えば大阪などでは考えられないことで、観光客が多いことを考えると、出火原因はタバコの火の不始末など人為的なものが多いのかと思ってツアーガイドに尋ねましたところ、そうではなく、全て、夏の落雷によるもので、7~8月に多いという返事でした。帰国後、いろいろ調べていましたら、セコイアオスギの年輪を詳しく調べて Mariposa Grove における過去の山火事の発生時期を推定したという報告があり、それには、8~18年に1度の頻度で山火事があったと結論づけられていました。気温の高い夏に、極端に降水量が少ない冬雨地帯のひとつの特徴なのかも知れません(気候データは Mariposa Grove 近くの Wawona のもの)。

そして、この山火事こそがセコイアオスギを何千年も存続させてきた重要な要因であったというのです。

最初、この場所の山火事の様子を見たとき、これでは、いま生き残っている貴重なセコイアオスギも、やがては火にやられて枯れてしまい、絶滅の危機に瀕するのではないかと思ったのですが、実際は、セコイアオスギは被陰に弱く、定期的に山火事が起きることにより競合する他の樹木が排除されてセコイアオスギの若木が十分な光を受けることが出来、また、林床の落ち葉などが焼けて灰になることによって無機塩類が地面に供給され、実生の成長を助ける、というのです。さらに、セコイアオスギの球果は2年で成熟するものの、場合によっては20年もの長い間緑のまま木の枝についていて、山火事の熱を受けたとき、初めて球果が乾いて鱗片が開き、小さな種子を散布させるともいわれます。その時には林床の腐植層も焼かれて地面が露出し、発芽に光を要する種子にとって適した環境になっているというわけです。

そういう目で見て歩くと、各所に小さな芽生えが目に付きますし、場所によっては、高さ数10cm~1m程度の実生が群生している所もあり、確かに、山火事の効果も認めざるを得ないと思いました。


地面に落ちた球果。長径約5cmの卵形

セコイアオスギの種子。中央部の黒い筋の部分が種子で、両側にうすい翼がある(購入種子)

セコイアオスギの芽生え

群生するセコイアオスギの実生

もっとも、セコイアオスギの繁殖において山火事の重要性が認識されたのは1960年代以降のことのようです。セコイアオスギの保護が始まってからは山火事を防止する努力が払われてきたのですが、その結果、セコイアオスギの芽生えも実生も少なくなる一方、耐陰性の強い他種の木の数が増え、また、林床にたまった落葉層が厚くなり、大きな落雷などで山火事が起こった場合、その規模が非常に大きくなってセコイアオスギの大木を大きく損傷することが調査によって分かってきました。過去100年近く山火事を防いできたことが、結果的にセコイアオスギの繁殖に必要な条件も奪ってきたことが分かったのです(セコイアオスギだけでなく、この地域に生育するマツ科やヒノキ科のなかには、山火事の熱を受けて初めて球果を開き種子を散布するという種類が少なくないことも分かってきました)。

このように、ここの自然にとって山火事が起こることの重要性、必要性が理解されるにつれて、1960年代の終わり頃から自然に起こる山火事を受け入れるほか、「Prescribed burns(処方された火入れ)」と称して、春から秋にかけて厳密に管理された状態で計画的に火を入れる、という管理が行われるようになりました。ですから、ガイドが説明してくれた、全て落雷による山火事というのは、厳密には正しくありません。彼の頭には、山火事を極力防止するという方針を一転させ、落雷などによる自然的原因で発生した火災はそのまま容認するという方向に変更されたヨセミテ公園全体の管理方針が、つよく残っていたからに違いありません(ただし、案内してくれたガイドは何もいいませんでしたし、Mariposa Grove の小さな案内パンフレット以外のどのガイドブックにもはっきりとは書いていないのですが、ヨセミテ国立公園そのものでもPrescribed burns(計画的火入れ) という生態系管理手法が採用されており、今回のツアーで見かけたヨセミテ渓谷周辺の大規模な山火事跡(写真:2010.7.10.)も、ひょっとしたらこの管理の一貫だったかも知れないと、今は思っています。また、Mariposa Greove 以外のセコイアオスギ生育地でも Prescribed burns という手法が採用されているようです。

【参考資料(順不同)】
・Tom Watts. 1973. Pacific coast tree finder( A pocket manual for identifying Pacific Coast trees, 2nd ed. Nature Study Guide Publishers, Rochester. New York.
・Douglass H. Hubbard. 2004. Yosemite Pocket Guide. Awani Press.
・National Audubon Society. 1993. Field Guide to California. Alfred A. nopf. New York.
・National Audubon Society. 1980. Field Guide to Trees, Western Region. Alfred A. nopf, New York.
・H. Thomasharvey. 1978. The Sequoias of Yosemite National Park. Yosemite Association.
・Stephen F. Arno. 1973. Discovering Sierra Trees. Yosemite Association.
・Yosemite National Park. 2006. Mariposa Grove of Giant Sequoias.
・Thomas W. Swertnam, et al. 2009. Multi-Millenial Fire History of the Giant Forest, Sequoia National Park, California, USA. Fire Ecology:5(3) (Web 資料)
・Thomas W. Swetman et al. 1990. Giant Sequoia Fire History in Mariposa Grove, Yosemite National Park(Yosemite Centennial Symposium Proceeding-Natural Areas and Yosemite: Prospects for the Future. (Web 資料)

 【Web Site資料】
・The Mariposa Grove of Giant Sequoia. "http://www.yosemitehikes.com/souther-yosemite/mariposa-grove/mariposa-grove.htm"
・Mariposa Grove of Giant Sequoias Guide and Map. "http://yosemite.ca.us/mariposa_grove of_giant_sequoias/"
・The Redwoods of Coast and Sierra. "http://www.nps.gov/history/online_books/shirley/sec3.htm"
・Sequoiadendron. "http://en.wikipedia.org/wiki/Sequoiadendron"
・Sequoiadendron giganteum. "http://www.conifers.org/cu/se2/index.htm"
・Wawona weather & Climate. "http://www.californiavacation.com/regions/Wawona-California.html"
・Yosemite National Park Fire Management. "http://www.nps.gov/yose/parkmgmt/firemanagement.htm"
・Yosemite National Park Current Fire Activity. "http://www.nps.gov/yose/parkmgmt/current_firehtm"
・Yosemite National Park Prescribed Burn Scheduled in Yosemite National Park. "http://www.nps.gov/yose/parknews/rxburn-cf610.htm"