サンシュユ Cornus officinalis

サンシュユ(京都府立植物園:2000.4.2)

サンシュユ(京都府立植物園:2000.4.2)

ミズキ科* ミズキ属 【*APGⅢ:ミズキ科】

Cornus:角(cornu:つの) officinalis:薬効のある

植物園に長く勤めていましたから、サンシュユの花はもちろん知っていましたが、 この花の本当の美しさを見たと思ったのはもう20年以上も前、 八尾市神立地区のせまい谷間にはいったときでした。

3月下旬、西に面した日当りのよい斜面はモクレンやヒカンザクラの花に彩られ、 まさに桃源郷をおもわせる華やかさがありましたが、その谷はまだ緑も少なく、 暗い背景の中に数本の大きなサンシュユが黄金色の花を点々とつけ、 静かで、はりつめた別世界に入った気持ちがしました。

サンシュユの実(長居植物園(1999.10.23)) サンシュユはもともと中国や朝鮮に分布するミズキ科の落葉高木で、 日本へは亨保年間(1716~1736)に薬用植物として導入されたとされています。 薬用になるのは果実で、真っ赤に熟した果実から種子を抜き、 乾燥させたものを山茱萸(さんしゅゆ)といい、煎じたものを強壮薬や腰痛、 めまいなどの薬としてもちいるほか、酒に浸して薬酒をつくります(サンシュユの実(長居植物園 1999.10.23))。 しかし、わたしたちには、早春、まだ葉が展開するまえに点々とつける黄色い花と、 秋の赤熟した果実の美しさのほうがはるかに親しみがあり、公園や庭園樹として好まれるほか、 生け花の材料としてもちいられるのも当然のような気がします。 牧野富太郎さんはハルコガネバナという名をつけましたが、その気持ちも分かる気がします。

サンシュユの花序と苞(大阪府立大学:2000.4.4) サンシュユの花で、ひとつの花のように見えるのは、実はたくさんの花の集合(花序)で、 それら全体を包むように4枚の苞葉(写真:矢印)があるところは、基本的にヤマボウシやハナミズキと同じです(サンシュユの花序と苞:大阪府立大学 2000.4.4))。 ただし、苞片は黄褐色でそれほど大きくなく、ヤマボウシのように花弁のようにみえることはありません。

ところで、ヨーロッパから西アジアに原産し、図鑑のスケッチや写真で見るかぎりサンシュユとそっくりで、 ほとんど区別のつかないものにセイヨウサンシュユ (Cornus mas) があります。 両者のちがいは、サンシュユでは葉の裏の葉脈の分かれ目のところにヤマボウシと同じように褐色の毛がはえていることと、 小花梗が苞片より明らかに長いのに対し、セイヨウサンシュユでは毛がなく、 また小花梗も総苞とほぼ同じかやや長い程度であることぐらいです。