カキノキ  Diospyros Kaki

カキノキ(大阪市大植物園:2000.11.23)

カキノキ (大阪市大植物園:2000.11.23)

カキノキ科* カキノキ属 【*APGⅢ:カキノキ科】

Dios:神の + pyros:果実 Kaki:カキ

いつのまにか果物屋の店先にカキの実が並ぶようになりました。 東北から九州にかけて、人家のあるところ必ずといっていいほど植えられており、 日本の秋を象徴する風景をつくり出すのがカキノキといっていいでしょう。 ときどき、人家から離れたオヤと思うようなところで大きなカキノキを見かけることがありますが、 そんな場合でも、よくそのあたりを観察すると、昔の畑の跡だったり、 人家の跡だったりします。わたしはこの木を見ると、人のぬくもりみたいなものを感じるのですが、 それはこの木が人の生活と深く密着しているせいかも知れません。

こんなふうに、日本的情緒にあふれた木なものですから、きっと日本原産の木だろうと思うと、 さにあらず、もともとは中国原産の木で、日本へは、たぶん奈良時代に導入されたものと考えられています。 というのは、奈良朝以前の遺跡からはカキのタネは出てこず、奈良朝や平安朝の遺跡になってやっとでてくるからです。

カキノキ(大阪市大植物園:1999.10.11) よくご存じのようにカキには渋柿と甘柿がありますが、カキは本来渋く、 甘柿は日本に導入されてから品種改良されてつくりだされたもので、本家の中国には甘柿はないそうです。 柿の渋味の原因は、果肉のタンニン細胞の中にカキタンニンとよばれる物質が含まれており、 これが水によく溶ける化学構造になっているからです。 しかし、カキの果実をお湯につけたり、二酸化炭素やアルコ-ルの多いところにおきますと酸素が不足して、 果実は無機呼吸し(酸素を使わずに有機物を分解する)、その結果生じたアセトアルデヒドや アルコ-ルがカキタンニンと作用し、水に溶けない化学構造に変化するため渋味がなくなると考えられています。 甘柿はもともとタンニン細胞が小さく、とくに脱渋処理をしなくても果実自身が行う無機呼吸でタンニンが不溶性となるのです(写真:大阪市大植物園 1999.10.11)

しかし、これも温度が関係するのか、甘柿を青森県や岩手県のような寒い地方に植えても渋がぬけないといわれます。 また、いったん水に溶けない形になったタンニンも、80℃以上に加熱されるとまた水に溶ける形に変化し、渋みがもどってしまう、 カキのジャムができないのはこのためだ、と書かれた本もあります(岡村ほか)(脱渋されたカキが加熱によって渋みが戻ることを「渋戻り」というそうです)。 ちなみに、柿羊羹は干し柿をペースト状にし、寒天などで固めてつくるそうです。また、熟しすぎカキをうまく調理してカキのジャムを作る方法もWeb上で紹介されていますので、カキジャムが絶対出来ないというわけではないようです。