イチョウ  Ginkgo biloba

種子をつけるイチョウ(京都植物園:99/8/30)

種子をつけるイチョウ (京都植物園:1999.8.30)

イチョウ科* イチョウ属 【*APGⅢ:イチョウ科】

Ginkgo:銀杏(ぎんなん) biloba:二片になった(若い葉が浅くきれこんでいる)

9月に入ると御堂筋のイチョウの実も目立って大きくなります。
 イチョウは中国原産とされる樹木ですが、日本では非常に古くから人々に親しまれ、びっくりするような大木が各地にあって、天然記念物に指定されているものも少なくありません。イチョウは「一葉」だと思っていたのですが、実は中国名、「鴨脚(イーチャウ)」の宋時代の発音によるものだそうです。

イチョウは雌雄異株で、実のなる木とならない木がある事は皆さんよくご存じですが、雄木から飛んできた花粉から、鞭毛(べんもう)をもって自由にうごける精虫ができ、胚珠の核と合体する(受精する)事が、世界で初めて、日本人の手で確かめられたことまではご存じないかも知れません。

この発見は1895年、東京大学の平瀬作五郎先生によって行われました。それまでは、シダ植物よりも下等な植物で受精の際に精虫ができる事は知られていたものの、種子をつけるほど進化した植物で、花粉から精虫ができるとは全く考えられていませんでした。しかし、イチョウで精虫が見つかって以来、ソテツをはじめ多くの裸子植物で精虫ができる事が確かめられ、シダ植物と種子植物の間は、以前考えれていたほどには隔たっていないことが分かりました。そういう意味で、この発見は植物の系統進化を考える上で非常に重要な役割を果たしました。

ところで、最初にイチョウの実が大きくなったと書きましたが、厳密にいうとあれは果実ではなく、全体がタネ(種子)なのです。例のブヨブヨした部分もタネの一部で種皮の外層、ギンナンの殻の部分が中層、その中のごく薄い膜が種皮の内層に相当します。その中に、将来植物体になる胚があり、人間はイチョウの胚を食べているわけです。

わたしは実物を見たことがありませんが、ところどころにオハツキイチョウというのがあり、天然記念物になっているものもあります。ちょうどイチョウの葉の縁に実がなっているように見えるのです。これは雌花をつける枝が葉のような形になったもので、イチョウの葉と、花をつける枝が発生学的に非常に近い関係にある事をしめしていると考えられています。