V−4 望 ま し い 国 際 協 力 を 考 え よ う



出典: 『参加型学習で世界を感じる』 第2部 開発教育のカリキュラムと教材
(開発教育協会、2003) より

原典: 『いきいき開発教育 総合学習に向けたカリキュラムと教材』 第2部実践編
(開発教育協議会、2000)


                            開発教育協会 小貫 仁
                            地域と地球をつなぐ学びの広場
                            http://www.ne.jp/asahi/onuki/hiroba/

◆ねらい

 国際協力の内容は協力する側の開発についての見解に大きく左右される。したがって、「開発」とは何かということについて考察を深める。そこでは、開発が南の国々だけの現象ではないことに気づくこと、これまで及びこれからの日本のあり方を討議することを含んでいる。
 さらに、国際協力の必要性を知ると共に現実の援助について検討し、今後どのような国際協力が望ましいかを考える。なお、国際協力は援助と同一視されることが多いが、援助には与えるという響きがある。対等なパートナーシップとしての助け合いはむしろ「協力」と呼ぶのが相応しいだろう。

◆学習の展開

 以下、アクティビティを中心に、ねらいと展開を整理する。いずれもセットとして講義を考えている。総合学習での講義とは、アクティビティをフォローするものであり、対話形式で気づきをわかちあいながら認識を深めるためのものである。視聴覚教材や統計資料の提示も工夫したい。

T 国際協力は必要化? (2〜3時間)
[ねらい] 世界の格差の実態と南の国々と私たちの生活とのつながりを理解する。
     国際協力の必要性を考えると共に現実の援助について理解する。
[展 開] @「分け前はどれくらい?」(シミュレーション)
      おやつを用意して、世界の資源配分によって分けてみる。
     A「教室の中の物のふるさと」(調査)
      教室の製品の原材料がどこから来るか調べ、またその国について調べる。
     B「国際協力は必要か?」(ブレーンストーミング)
      国際協力の必要性について、その判断と理由を出し合ってみる。
     C「大ダッカ発電所」(ロールプレイ)
      大規模援助の事例に関して、立場によって援助を評価する。

U 開発をどう考えるか? (2〜3時間)
[ねらい] 開発についてその概念を理解する。
     地域の開発を考えることで、身近な開発問題を理解する。
[展 開] @「開発とは何か」(ランキング)
      開発について何が重要か、優先順位をつけながら考えてみる。
     A「開発とは何か」(プランニング)
      身近な地域の開発について調査し、課題の解決を検討する。

V 望ましい国際協力とは? (3〜6時間)
[ねらい] 国際協力の失敗の理由を理解する。
     協力プロジェクトを成功させる要因を理解する。
[展 開] @「有効な開発」(プランニング)
      プラント建設計画を成功させるための方策を検討する。
     A「援助国になる」(シミュレーション)
      プロジェクトの選択を検討することで、何がよい援助かを討議する。
     B「国際協力の現場から」(交流)
      NGO及び青年海外協力隊から体験談を聞く。

W 私たちにできること (3〜6時間)
[ねらい] 私たちにできる国際協力のあり方についての理解を深める
     世界の中の地域のあり方を理解し、地域で活動するための方途を討議する。
[展 開] @「理想の国際協力」(プランニング)
      これまでの学習を踏まえて、理想の国際協力のあり方を表現してみる。
     A「世界の中の私たち」(プランニング)
      世界の現実を踏まえた私たちの足元の地域のあり方を考える。
     B「NGOと共に」(協同研究)
      地域のNGOと協同し、世界の中の地域づくりを一緒に検討する。

◆学習のポイント


二つの開発モデル
 援助の内容は援助する側の開発に対する見解に規定される傾向がある。日本は、基本的には効率優先の経済成長を追及してきた社会である。日本をモデルとするなら、その援助は産業基盤の整備、GNPの成長などに寄与することを優先するだろう。それは経済開発志向型の「近代化モデル」である。
 それに対して、従来の近代化論を疑い、内発的な新しいあり方を展望しようとするのが社会開発志向型の「もう一つの開発モデル」である。その考え方に基づくなら、その援助は、健康に生きること、教育を受けられることなどを重視するだろう。
 この選択に生徒は大きな葛藤を覚えるはずである。重要なのは、私たちの生活の豊かさの内実や、世界の現実や、地球の持続可能性について真剣に考えることである。

援助の現実
 日本は「援助大国」と称される反面、そのODAは、仕組みのわかりにくさ、対GNP比や贈与率の低さなどが指摘されてきた。けれども、より本質的な課題は、欧米のODAも含めて、国際協力そのもののあり方を建設的に検討することである。
 また、NGOの援助なら良いとも簡単には言えない。実施しているプロジェクトの成果は構造的な問題に対して救援や福祉活動で一時的に和らげるにとどまっていないかの視点も含めて吟味し、望ましい国際協力のあり方に対する認識を深めたい。

グローバル経済
 世界のグローバル化は西欧の近代化が押し進められることで実現してきた。その近代化は、伝統社会の旧弊が合理精神によって開放されたり、農耕社会が工業化されて経済発展するなど、大きな意義を世界に及ぼしてきた。
 けれども今日、近代化のもたらす行く末に諸問題が顕在化している。市場原理の展開は、格差を拡大し、弱者を収奪する傾向を露にし、そのゆがみは、世界の二極分化、社会的精神的な分裂激化、さらに地球環境危機などさまざまに現れている。ますますグローバル化が進展する国際社会で、人権の普遍化を模索しながら、多様な地球社会をいかに築くかは、今日の時代的課題である。

参考資料
1 L.ルービン『フード・ファースト・カリキュラム』ERIC、1993
2 S.フィッシャー&D.ヒックス『WORLD STUDIES』めこん、1994
3 開発教育の教材を作る会『援助と開発』開発教育協議会、1995
4 ユニセフ『開発のための教育』日本ユニセフ協会、1994


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